弐千七年四月拾弐日
前世物語 弐
347 :自夜[]:2007/04/12(木) 22:50:34 ID:tfi/1f/V0
(−_−)
m m 〜〜トボトボ
前世物語 弐
348 :自夜[]:2007/04/12(木) 22:54:37 ID:tfi/1f/V0
前世物語 第二部乱世編 第四十三話 飢狼 その一
夜の山道。行き交う人はいない。明かりは星。ただそれだけ。
多分、生きている間はとても恐ろしくて、こんな夜道は歩けなかっただろ
う。死ぬっていうのは不思議だ。こんな夜道も怖くない。
獣の大半は夜山で蠢く。
では、獣は私のような亡者か。ちがう。彼らは生きている。
彼らは彼らを喰らう生き物に怯え、彼らは彼らが喰らう生き物を探す。
単純明快で言い。私は喰らわれる心配はない。彼らを喰らう必要もない。
彼らを怯え、彼らを求める必要もない。
目の前を黒い影がよぎる。
私が死んだ時にも会った連中。犬神様。
ふと、道の傍らに板きれが立っているのに気付く。風雨にさらされ、色あ
せているが、かろうじて星明かりでもなんとか字が読み取れる。
×ゆの××じや××い
なんのことはない。ここは私が死んだところだ。
ずいぶん彷徨って遠くに来たような気がしていたが、元に戻っただけ。
もうすぐ冬が来て、あの日のようにこの峠も雪で閉ざされるのだろう。
つづく
前世物語 弐
349 :自夜[]:2007/04/12(木) 22:57:59 ID:tfi/1f/V0
前世物語 第二部乱世編 第四十三話 飢狼 その二
すると、私の目の前で峠道を横切るこの連中は、あの時の一家だろうか。
いや、あれから十年近く経っている。
狼の寿命がどのくらいか知らないが、とっくに代替わりしているだろう。
犬神様達は私には目もくれず、道をよぎる。最後の一頭だけが、私の方に
顔を向ける。
その一頭は峠道で立ち止まり、私を見据える。表情に怯えや怒りはない。
涼しい顔。
その一頭は群れから離れ、峠道を歩き出し、立ち止まってまた私の方を見
る。ついてこいと言うのか。
私は犬神様のあとをとぼとぼと歩き出す。
峠を越えて、郷を越えて、また峠を越えたところで背後の東の空が白みだ
した。三つ目の峠で犬神様が立ち止まる頃にはすっかり明るくなった。
犬神様は峠の先に顔を向けては私を見る。
おまえのいばしょはここではない。このさきにおまえのいくところがある
そう言っているような気がした。私は犬神様の差す方に歩き出す。
随分歩いた頃振り返ると、犬神様は峠から私を見ていた。
つづく
前世物語 弐
350 :自夜[]:2007/04/12(木) 23:01:28 ID:tfi/1f/V0
前世物語 第二部乱世編 第四十三話 飢狼 その三
そして、くるりと向きを変え、峠の向こう、朝日の方に姿を消した。
ずいぶんと深い山。道はやがて細くなり、枝分かれし、地面と区別がつか
なくなる。生身だと大層歩きにくそうだが、今の私には関係ない。
鳥達がさえずり、その上を大きく弧を描いて飛ぶ鷹。
栗鼠は口いっぱいに木の実を詰め込み巣へと運ぶ。狸共も冬に備えて丸々
と太り、それでも足りぬとしきりに餌を漁っている。
それにしても、狸が多い山。連中は私のことなどお構いなしだ。
やがて日が沈み、日が昇り、また日が沈む。この活気のある山で私だけは
ふらふらと幾日か過ごした。
目の前にあるこれはなんだろう。それは木。幾本もの木が重なり合い、ま
るで来るものを阻むように壁として立ちはだかっている。
木の向こうは何百尺も高くそびえる崖。その崖の麓にその木の壁はあった。
幾度目かの夕刻。あたりは徐々に暗くなる。
目の前にあるこれはなんだろう。
私は立ち尽くしてその木の壁、そして崖を見ていた。
周囲に獣の気配はない。
第四十四話へつづく
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