弐千七年四月拾壱日
前世物語 弐
341 :自夜[]:2007/04/11(水) 20:41:33 ID:YWWqXdmA0
>>340さん
遅くなって済みません。以下に回答します
問:水に関して何か思うところはありましたか?
答:特段なかったですねぇ
水の中でも移動はできましたけど、わざわざ橋がかかっているところを
とぼとぼ歩いて渡ったりしてましたが
あとは、そうですねぇ。雨とかは、別に濡れる訳でもないので気になりません
でしたが、晴れの日の方が気分が多少はよかったような気がします
こんなところでよろしいでしょうか
前世物語 弐
343 :自夜[]:2007/04/11(水) 22:26:58 ID:YWWqXdmA0
前世物語 第二部乱世編 第四十二話 彷徨 その一
加由は夕陽に旅立った。
坊主は私の方を見て、何か言いたげな表情をした。そして、くるりと向き
を変え、夕闇に旅立っていった。
坊主には私が見えていたのだろうか。そんなことはないだろう。加由でさ
え、私が見せなければ私を見ることはなかった。
亡者とはいえ母として加由に憑いていた私は今その使命を終えた。ここに
いれば、誰か迎えに来て、田袋が待つ黄泉の国に連れて行ってくれるのだ
ろうか。
ずいぶん長い間立ち尽くしていたような気がするが、迎えは来なかった。
気が付くと、私はとぼとぼと歩いていた。
目的はない。行き先もない。亡者はこうやってあてもなくさすらうのが定
めなのだろう。
その気になれば、宙を飛んでいくことも、今までの経験で知っていた。だ
が、私はとぼとぼと歩いた。
歩いても疲れない。急ぐこともない。理由は何とでも付けられる。
だが、特に理由もなく歩いた。何日も何日もとぼとぼと歩いた。
つづく
前世物語 弐
344 :自夜[]:2007/04/11(水) 22:29:59 ID:YWWqXdmA0
前世物語 第二部乱世編 第四十二話 彷徨 その二
百姓屋の横を通り過ぎる。夕餉の楽しいひとときの声が聞こえる。
別にたいした興味は覚えなかったが、私は百姓屋に入る。壁を通り抜けて
もいいのだが、何故か入り口を通り抜けてはいる。
中年の夫婦に加由くらいの長子を筆頭に子供が五人。夕餉は私が生きてい
た頃と大して変わらない質素なもの。それでも一家揃って楽しげに囲炉裏
を囲んでいる。
父親が食事の後、子供達を前に座らせて、何か自慢話をする。そして、袋
から大事そうに小さな粒を取りだし、一つづつ子供達に与える。
金平糖という南蛮菓子だと父親の話から判る。
こんな百姓屋でも南蛮渡来のものが入り始めている。私が生きている時に
はなかったことだ。
暫く一家の様子を眺めていたが、私はふらりと裏口から出る。
何も不幸なことはなさそうな一家だが、入り口の近くに小さな土まんじゅ
うが幾つかあるのを私は気付いていた。
私はまたとぼとぼ歩き出す。
ふと空を見ると無数の星達が煌めいている。
つづく
前世物語 弐
345 :自夜[]:2007/04/11(水) 22:37:04 ID:YWWqXdmA0
前世物語 第二部乱世編 第四十二話 彷徨 その三
星を見ると自然に思い出す。満天の星の元、田袋が夢を語る。加由が目を
輝かせて聞く。私が微笑みながら揶揄する。
私達の団欒はいつも空の下。
そして、涙をこぼしながら浪人の小屋で飯を食う加由。加由にとって、あ
れが初めての屋根の下での団欒だったのだろう。
あれから随分時が経ったような気もするし、つい先ほどの出来事のような
気もする。
野良犬が五月蝿く吠え立てる。私の気配を察しているのか?
近づくと、尾尻を股に入れ怯える。私はその場でしゃがみ込み、身を小さ
くする。犬はきょとんとし、鼻をひくつかせながら去っていった。
なるほど、そういうわけか。私が普通にしていると、何かしら感じるとこ
ろがあるらしい。坊主が気になったのもこれか。
その何かしらは、ある程度、私の意志で消すことも出来るようだ。
判ってしまえば、もう興味はない。
私はまたとぼとぼと歩き出す。
いつしか、道は山に入っていった。
第四十三話へつづく
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