弐千七年参月弐拾弐日

前世物語 弐
189 :自夜[]:2007/03/22(木) 22:45:14 ID:M1FYz7Ju0
 http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/saku/1164191881/186
 だそうです
 
 レスアンカーなしで会話を続けるのもしんどいでしょうが、
 まぁ、その節はご協力宜しくお願いします です
 
 あぁ〜、すっきりいい気分

前世物語 弐
190 :自夜[]:2007/03/22(木) 22:47:11 ID:M1FYz7Ju0
 前世物語 第二部乱世編 第二十八話 落武 その一
 
 気がつくと、戦いは既に終わっていた。砦が炎上しているのが遠望できる。
 負けた。おにちゃはそう思った。
 やがて、落ち武者狩りが行われよう。武士に生まれた以上、死ぬことは覚
 悟している。しかし、惨敗者として捕らえられ、頸を跳ねられた上晒され
 るのは我慢がならない。
 さほど、名誉を重んじる時代ではなかったが、生き恥を晒すことは耐えら
 れない。おにちゃはよろよろと立ち上がり、歩き出した。山の奥へ。
 幾日歩いたのだろう。山を越え、谷を渡り、田畑を深夜に横切る。
 田畑から生の野菜や芋を盗み食い、ある山中で洞窟を見つけ、そこで倒れ
 込んだ。
 「猟師が助けてくれた。村まで運び、疵の手当をし、食事を出してくれた」
 運ばれたのは村の寺。こその坊主に手当をしてもらったという。
 「拙者は素性を名乗らなかった。落ち武者だ。知られれば捕まる。素性を
  話さなくとも、いずれその筋に知れる。拙者は覚悟を決めた」
 ところが追っ手は来なかった。最初のうちは村人にいろいろ聞かれたが、
 次第に何も聞かれなくなった。
 
 つづく

前世物語 弐
191 :自夜[]:2007/03/22(木) 22:50:09 ID:M1FYz7Ju0
 前世物語 第二部乱世編 第二十八話 落武 その二
 
 食事は近郷の村人が交代で世話をしてくれた。やがて疵も癒え、動けるよ
 うになった。おにちゃはとある百姓屋に居候の身となり、野良仕事も手伝
 うようになった。
 「このまま百姓になるのもいい。その時は心からそう思った」
 このまま過去を捨て、平凡な一百姓として生きる。だが、その想いも突然
 断たれる。
 坊主が侍に連れ去られた。どうやら間者の嫌疑をかけられているらしい。
 おにちゃは寺に忍び込み、証拠を漁った。大きな寺ではない。探すところ
 はすぐに尽きた。侍達も何もないので早々に寺を放置したのだろう。
 諦めて戻りかけた時、ふと仏具を仕舞う道具箱に目が行った。中を漁くる
 間は気付かなかったが、箱に紋が彫り込んである。長尾三つ巴。間違いな
 い。おにちゃの主家の紋どころ。
 聞いたことがある。諸国情報を得るため、間者を主家が放っていること。
 いくつもある間者のうち、土地に住み着き、土地の住人になりきる者がい
 ること。そういう間者を草と呼ぶこと。
 いつの間にか処分された武具を見れば、おにちゃが何処の者かは判る。
 
 つづく

前世物語 弐
192 :自夜[]:2007/03/22(木) 22:53:32 ID:M1FYz7Ju0
 前世物語 第二部乱世編 第二十八話 落武 その三
 
 坊主は最初から判っていたのだろう。その坊主が捕まった。
 おにちゃはその日のうちに、村から消えた。
 「結局、侍は侍として生きるしかないということだ」
 追っ手の方が早かった。これだけ早く追っ手が来ると言うことは、坊主が
 あっさり白状したに違いなかった。
 おにちゃは山に潜み、川に隠れ、谷に潜って追っ手をまいた。
 国境を越え、追っ手の心配が無くなってから暫くは流浪をしていたが、風
 の便りに主家が守護大名某氏の保護を受け、とある郷で再興を企している
 ことを知った。
 おにちゃは主家を追った。途中適性の武家が納める土地が幾つかあったが、
 なんとか越えた。
 おにちゃの最後の試練、それはその姿であった。百姓、いや既に流浪の民
 の姿である。これで、はたして判ってくれるか。
 幸いにして、おにちゃをよく知る武将も落ちのびており、おにちゃは快く
 招き入れられた。てっきり死んだものと思われていた者の帰還である。そ
 の夜、歓迎の宴が催された。
 
 第二十九話へつづく


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