弐千七年五月弐拾壱日


前世物語 弐
849 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 07:25:17 ID:RmU5y+U10
 妖怪志願 第四話 その壱
 
 その百姓の話によると、こういうことらしい。
 平安の世の終わり、そう、狢が物の怪になって間もない頃か、源平合戦が
 あり、西へ西へと追われた平氏は最後の合戦、壇ノ浦で敗れ、あるものは
 落人として狢の棲むこの島に逃れてきて、住みついた。
 俗に平家落人の隠れ里とか、平家谷とか呼ばれる集落の人々がそれである。
 この郷の外れ、かなり野山に分け入った所にある集落もその一つで、その
 境遇に同情する当時の郷人に守られてきた。
 集落の人々も郷人の恩に報い、武家であることを捨て、半農半猟の民とし
 て生き、また当時の進んだ農業技術を郷人に伝え、この郷は豊かになった。
 そのような関係が数百年続いたが、時代は戦乱の世となり、それまでこの
 郷を代官として支配していた守護が駆逐され、国人の出である平氏系の某
 氏の支配するところとなり、その某氏に加担する元落人も出た。
 この郷の外れの集落は武家に戻ることを是とせず、以前よりも隠棲するよ
 うになった。それからまた何年かが経ち、某氏は内紛で浮き足だったとこ
 ろを攻められ滅亡、新たなる領主は平氏系の落人を徹底的に弾圧した。
 隠れ里が見つかれば、長年保護してきた郷も只では済まない。
 
 つづく

前世物語 弐
850 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 07:30:05 ID:RmU5y+U10
 妖怪志願 第四話 その弐
 
 「あの一族もよぉ、戦を拒んだばっかりに、陽の当たるとこを歩けんよう
  になってしもうた。可哀相じゃあるけどよぉ」
 その百姓ほどの年寄りは、むしろその一族に同情的であるが、若い者を中
 心にその一族を新しい領主に差し出してでも、郷の安泰を図った方がいい
 という意見が多かったという。
 「だどもよぉ、長いこと一族だけでやっとるせいか、もうほんの僅かしか
  おらんようや。若いのはあの娘だけで、あと年寄りが何人かのはずや。
  やっぱ、血ぃが濃くなるんはあかんのかのぉ」
 娘一人では、その一族に未来はない。それならば、余計な波風を立てるこ
 とはない。
 一族の連中も、もう何年も里には下りてこないという。ただ、その娘だけ
 が時折山で捕れたものを持ってきて、塩とか農器具とかと交換していく。
 無論、足下を見られ、ろくなものとは交換できない。そして、事情を知ら
 ない童子達は蔑みの対象として娘を見、大人達もそれを窘めない。
 「あげんせんでもええ思うがのぉ、庇えばわしんとこが村八分や」
 百姓は、行商人がよそものだから話せるという。
 
 つづく

前世物語 弐
851 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 07:33:47 ID:RmU5y+U10
 妖怪志願 第四話 その参
 
 そして、けっして口外しないようにと付け加えた。
 娘やその一族がどうなろうと、郷がどうなろうと知ったこっちゃないと思っ
 た狢だったが、娘の一族に興味を覚えたのも事実だ。
 人間でも、何百年も何代も渡って他の人間との交わりを避け、ただ一族だ
 けで生きることもあるのかと。
 いっそ、人間なんぞ止めて、獣になってしまえば、その一族も幸せに暮ら
 せるだろうに。そんなことを考えながら狢は村を出、森を通り抜け、山に
 分け入ったところで人間の姿から狢に戻った。
 幾つかの尾根を越え、谷を渡ったところにその集落はあった。
 集落と呼ぶにはあまりにも粗末、たった二軒のあばら屋。ろくに雨風を防
 ぐことすら出来なそうに狢には思えた。
 あばら屋の周りは、僅かばかりの畑。その集落は山の森に気まぐれで出来
 た隙間でしかなかった。
 その隙間の縁に立つ人影二つ。一つはあの娘。そしてもう一つは杖をつい
 てやっと立っている風情の老人。
 二人は森に向かって瞑目しているようだ。
 
 第五話につづく

【百鬼】妖怪達の集うスレ 其の弐【夜行】
85 :ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 07:39:33 ID:RmU5y+U10
 >ふらり火はん
 貉も狢も「むじな」でおんなじやねん。たいして意味はないが、わしは狢の字の方を
 使っとる。やけど、>>80はんは貂(てん)ちゃんや
 狢なんぞに間違えられると、貂ちゃんが気ぃ悪うするでぇ〜

【百鬼】妖怪達の集うスレ 其の弐【夜行】
88 :ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 22:39:50 ID:RmU5y+U10
 >ふらり火はん
 なんか、そそっかしいふらり火はんって、そこら中に火の粉振りまいとるようで怖いな
 いや、冗談や
 
 少なくともわしは全然怒っとらんから、気にせんでええ。貂ちゃんの方は知らんけどな
 それはともかく、すぐ鬼娘が出てくるところが・・・・・・歳やな、お互い
 
 >黒狐はん
 まさしくそのとおり、天狐=天狗っちゅうのは人間が面倒くさくなって、勝手に習合
 したもんや
 わしら一族も、狸の別称とか、穴熊の別称とか、好き放題言われとる
 まぁ、仕返しはきっちりやっとるからええけんどな
 
 >河童はん(ちと、レス遅れたけんど、堪忍)
 めじゃーすぎるんも、難儀やな
 ところで、河童はんは海水は駄目かいな
 仕事で深い海の調査する船に乗ることもあるんやけんど、深海は、河童はんによー似た
 物の怪の宝庫やで。河童はんの方がよう知っとるかもしれんけど

【百鬼】妖怪達の集うスレ 其の弐【夜行】
90 :ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 23:10:31 ID:RmU5y+U10
 忘れとった
 >ふらり火はん
 あっちで、サングはんとナカムラくんに無事会えた
 とってもサンキュ
 
 >すざくはん、びゃっこはん、せいりゅうはん、げんぶはん
 きゃんきゃん、ぐるるる(日本語でおけ、とか突っ込まんでや)
 
 >山精はん、葛の葉はん、貂はん、猪口暮露はん
 まとめてで(なお且つ遅うなって)悪いけんど、大歓迎。仲ようやろうな
 
 >ぬらりひょんはん
 あんた、前スレの1ちゃったんかいな
 それとも、別のぬらりひょんはんかいな
 そう何人も・・・やなかった、何物もおったら、山精が大変やで
 
 >黒猫・・・やなかった、黒の化けネコはん
 わしは子育てしたとしても、もう何百年も前のことやから、忘れた
 やから、知り合いの人間(二人の子持ち)に聞いてみた
 子育ての極意・・・「愛」やと

前世物語 弐
863 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 23:25:21 ID:RmU5y+U10
 妖怪志願 第五話 その壱
 
 長い瞑目が終わり、二人はあばら屋の一つに向かう。老人は一歩、そして
 一歩、足場の悪い橋を渡るように歩く。娘はその片腕を支える。
 二人があばら屋にたどり着く頃、陽は西の山陰に入り、空だけは明るいが、
 辺りは暗くなる。
 「これだけ陽が当たらん土地やと、ろくに作物も育たんわなぁ」
 周囲がすっかり暗くなるのを待ったが、あばら屋に灯が灯されることはな
 い。狢は足音を消してあばら屋に近づく。
 ぶつぶつとつぶやくような、唱えるような細い声。何を言っているのかは
 聞き取れない。おそらく、老人の声。そして娘が老人の躰をさするような
 気配。他に人間の気配はない。
 もう一軒のあばら屋に近づく。こちらはもぬけの空。何か盗れるものでも
 ないかと狢は中に入ったが、盗って得するようなものはなにも見あたらな
 い。
 狢はあばら屋を出て、先ほど二人が立っていた辺りに畑を進む。
 「なんやこりゃ、みんな、蕎麦やんか」
 狢の足下は収穫の終わったしなびた蕎麦の茎で埋め尽くされていた。
 
 つづく

前世物語 弐
864 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 23:29:57 ID:RmU5y+U10
 妖怪志願 第五話 その弐
 
 この時代、蕎麦を蕎麦切り、現代で言う麺で食べる習慣はまだない。臼で
 その実を挽き、水か湯で溶いて食べる。しかも、たったこれっぽっちの畑
 だ。年に二回収穫できるとしても、一人分にもなりそうにない。
 畑と森の境には、真新しい土まんじゅうがあった。
 狢は悟った。
 「そうか、今日、一人仲間が死んだか」
 空き家のあばら屋は今朝までこの土まんじゅうの主のものだったのだろう。
 「そして、あのじぃさんは、娘の親か」
 森の奥、古い土まんじゅうがあるのに狢は気付いた。そして更にその奥に
 はより多くの、そして、崩れかけた土まんじゅう。
 その数はゆうに百基を超えるだろう。そして、よく見ると畑に近い木は若
 く、奥に行くに連れ古木となる。崩れかけた土まんじゅうが多くあるとこ
 ろより向こうは周囲の森と変わらない植生。
 一族がここに棲みつき、郷との関係も良かった頃は二三十軒はあったのか
 もしれない。畑も今よりはずっとずっと広かったのだろう。そして、一軒
 減り、一軒減る毎に畑に手が廻らなくなり、森に呑まれていった。
 
 つづく

前世物語 弐
865 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 23:32:37 ID:RmU5y+U10
 妖怪志願 第五話 その参
 
 あのじぃさんの様子では最後の一軒も長いことはないだろう。その時、娘
 はどうするのか。ここに居つくにしろ、どこかに行ってしまうにしろ、遅
 かれ早かれこの集落は森に呑まれるだろう。
 崩れかけた土まんじゅうの辺りを歩きながら、狢は考えた。
 「いかん、いかん。わしには関係のないこっちゃ」
 あのじぃさんが明日死のうが、十年先に死のうが、娘がまた小石を投げつ
 けられようが、わしには関係ない。
 狢はそう自分に言い聞かせて、自分の棲処に戻った。
 そして、恐ろしい冬が来た。
 比較的温暖なこの島でも冬になると雪が降る。そして、山は積もった雪で
 閉ざされる。
 狢の棲処は天然の洞穴と木立を利用した物で、出入りの時以外は入り口の
 木々が閉ざされるので、外から棲処と判るものではない。棲処の中では必
 要に応じて火を焚くことによって快適な温度が保たれる。
 雪に閉ざされる間は狢は棲処に隠ることが多いが、雪のやんだ日などは、
 獣や人間などの食料を獲るために出かけることもある。
 
 第六話につづく

前世物語 弐
866 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/21(月) 23:38:46 ID:RmU5y+U10
 ところで、
 
 このスレを見ている人はこんなスレも見ています。(ver 0.20)
 宮崎県のうどん屋・そば屋 [そば・うどん]
 
 を引っ張ってきたあなた(誰だか知りませんが)
 
 私、第五話自体を書いたのは一週間ほど前で、上の宮崎県うんぬんは、まだ出て
 なかったんですが・・・・・・
 
 あなた、予知能力があると自慢してもいいかもしれませんよ
 (と無理矢理オカルトネタを振ったりして・・・にゃはは)
 
 メルクリンさんの方は透視能力があるかも知れない
 (昨日室内ラジコン飛行機を買ってしまいました)



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