弐千七年弐月七日

前世物語
776 :自夜[]:2007/02/07(水) 03:17:18 ID:YK8LQM6M0
 申し訳ない話ですが、ご察しの通り乱世編は弐クールに入った途端に滞ってしまってます
 一挙に何年もすっ飛ばしたのはやっぱり不味かったかな
 言い訳はいたしませんが、筋を練り直してます。もうちょっとお待ち下さい
 ひょっとしたら、第十四話は書き直すかも知れません
 
 さて、お詫びというのもなんですが、名無し狢の話を一挙に最終回までお届け
 します。Web Siteにはうぷ済みですので、話「のみ」楽しみたい方は、そちらの方を
 どうぞ。[物語閲覧部屋]から[幽霊談義]の「第六回」です

前世物語
777 :自夜[]:2007/02/07(水) 03:22:59 ID:YK8LQM6M0
 次の日の朝、名無しの狢と姫はあたりのただならぬ気配で目を覚ました
 入り口を開けようとすると外から無理矢理に開かれて、侍の集団がなだれ込んできた
 なすすべもなく名無しの狢と姫は縛り上げられ、引き立てられた
 「乱暴な連中じゃのぉ、自分とこの姫さんがわからんのか」
 「黙れ、物の怪」
 そういうことかい、名無しの狢は察した。まぁええわい、これで城を探す手間が省けると
 名無しの狢は思うた。こんな縄、いつでん外せるわい
 「だいじょうぶかい、姫さんよう」
 「はい、なんとか。いずれわかってくれると思います」
 名無しの狢と姫は城のある町に流れる川の河原に連れられた。河原から城が見えた
 まわりをぐるりと侍たちがとりかこんだ。名無しの狢と姫の前に離れて床几が置かれた
 名無しの狢が、さてこの先どがいしようかのうと考えていると、本物の馬に跨った侍がやっ
 てきた。姫が小声でこう言った
 「狢さん。父です」
 「ほうかい、あれが、殿さんかい。ほいじゃ見たら判るじゃろうから、すぐ解いてくれる
  のう」
 馬から下りた殿様は床几に座った。脇を槍を携えた小姓が固めた
 「ほう、よく臼井に化けたな、物の怪よ。そちらの企みはなんじゃ」

前世物語
778 :自夜[]:2007/02/07(水) 03:25:37 ID:YK8LQM6M0
 「企みなんぞないわい。ぬしの娘をとどけに来ただけじゃ」
 「そちが臼井に化けたよう、物の怪が我が娘に化けたのではないという保証はなかろう」
 「親なら一目見りゃわかろうが」
 殿様はすっくと立ち上がり、こう言った
 「たわけがっ。我が娘は出城にて立派に自害したと報告を受けておるわ。大方下山から頼
  まれて誑かしに来たのであろうが、そうはいかぬわ。全てお見通しだっ」
 「なっ」
 「者共、射よっ」
 殿様は軍扇をさっと名無しの狢に向けた
 ひゅんひゅんひゅん
 矢が名無しの狢めがけて飛んだ
 「ふん、そがいなもんが、わしに・・・」
 名無しの狢が念を飛び来る矢にかけようとしたその刹那、黒い影が名無しの狢の前に飛び
 出し、そのままどうと倒れた
 縄にくくられたままの姫の身体に矢が刺さり、血が噴き出した
 「姫さんっ」
 名無しの狢はおのが縄と姫の縄を念で吹き飛ばし、姫に駆け寄って抱き上げた。無数の矢
 は名無しの狢と姫の前で力無く落ち、砕け散り、またあらぬ方へ飛び去った
 「姫さん、しっかりせい。急所ははずれちょる。死ぬような怪我じゃなか」

前世物語
779 :自夜[]:2007/02/07(水) 03:28:25 ID:YK8LQM6M0
 「えぇい、者共、射よっ、射殺してしまえぇ」
 名無しの狢の手の中で姫はうっすらと目をあけ、白い顔がほころんだ。そして目を閉じた
 名無しの狢は全身の毛が逆立つのを感じた。その姿形は人だがもはや臼井ではなく、顔は
 狢そのもので毛むくじゃらであった
 「とうとう正体を顕しおったな、物の怪め。世が直々に成敗してくれるわ」
 殿様は腰の刀を抜いた。名無しの狢は殿様を見据えた。名無しの狢の目が赤々と光り、
 「はうっ」
 のかけ声と共に名無しの狢の口から妖気が四方に飛び散った。侍たちの動きが止まった
 あるものは弓を引き絞ったまま、あるものは次の矢を手にとったまま、小姓は槍を名無し
 の狢の方に向けたまま、そして殿様は刀を抜いて、八相に構えようとしたその姿のまま
 「おまえら人でなしじゃ、我が娘を平気で殺す人でなしじゃ。たとえ娘でのうても、姿形
  が変わらんもんをよう殺そうとできるのぅ。ちょっと前までかわいがっとった子供やな
  いか、慕っとった姫さんやないか。よう覚えとけよぉ、孫子の代まで安穏と暮らせると
  思うなよぉ、この狢様がなぁ、末代まで祟ってやるからな」
 名無しの狢は吼えた。名無しの狢の怒りは静まらなかった
 名無しの狢は姫を抱いたまま殿様の方につかつかと歩み寄った。侍どもは、動かぬ身体で
 目だけで名無しの狢を追った
 「よう、殿さんよ。よう見ぃな。これが物の怪に見えるんかい。あぁ?」
 殿様の目は恐怖で引きつった

前世物語
780 :自夜[]:2007/02/07(水) 03:31:35 ID:YK8LQM6M0
 「おんしだけは、殺られる身を味わってもらおうかのう」
 名無しの狢は姫を抱き変えると、殿様の振り上げかかった刀をとった
 「ええ刀じゃのう。殿さんともなると、持ちもんもええのう。どんだけ切れ味がええか、
  わしが試しちゃろう」
 名無しの狢は無造作に刀を殿様の腹に刺した。刀は殿様の身体を突き抜いた
 「切れ味も申し分ないのう、のう、殿さんよ」
 名無しの狢は刀を捻ると上へ、心の臓へ刀を動かした。殿様の目は目玉よりも大きく開か
 れた
 名無しの狢が刀の柄から手を離すと、刀はすっと消えた。刀は殿様の手に握られ、上を向
 こうとしたままじゃった。名無しの狢は殿様に嗤いかけた
 「どうや、殺られる気分は。ほんまに殺ってもええが、姫さん悲しむけんのう」
 そして、名無しの狢は俯き、悲しげにつぶやいた
 「おまえら、畜生以下じゃ。妖怪以下じゃ」
 名無しの狢はくるりとまわり、侍どもを後にした
 「さぁ、姫さん。帰ろう。わしらの巣に帰ろう」
 侍どもが束縛から放たれ、その場にへたりこんだのは、殿様の小便もとうに乾き、日も暮
 れかかるころじゃった。物の怪共が蠢き出す時分じゃった
 巣に戻る途中、姫さんを気遣って少しでも休めるよう名無しの狢はいくどか百姓屋の入り
 口を叩いた。しかし、百姓屋の入り口は固く閉ざされたままじゃった

前世物語
781 :自夜[]:2007/02/07(水) 03:34:17 ID:YK8LQM6M0
 「侍だけやのう、おえらもか。同じ人間じゃろ、何度も死んだ娘にちぃたぁ憐憫を感じん
  のか」
 名無しの狢は吐き捨てたが、百姓屋が開かれることはなかった
 ようようの態で名無しの狢は巣に戻った。姫は弱々しくも息はしとった
 名無しの狢は何日も何晩も姫を看病した。傷口に滅多に手に入らぬ薬草を惜しげもなく塗っ
 た。滋養の汁を口に含ませた。姫は目覚めることなく、命の火はだんだんにか細うなって
 いった
 「もぉええ、もぉええ」
 名無しの狢は目覚めぬ姫に語りかけた
 「ぬしは人の何倍も人の悲しみを味おうた。人の何倍もこの世の儚さを味おうた。もぉえ
  え、人間の世界に帰えらんでええ。わしと一緒にここで暮らそう。わしがずっとずっと
  優しくしちゃるけん。やから、もぉええ。人にならんでええ。のぉ」
 姫は死んだ。姫の思念は霧が晴れるように薄くなり散っていった
 「消えた」
 白い顔は美しかった
 名無しの狢は穴を掘って姫を入れ、土まんじゅうをつくった
 その晩、灰色狐が酒をもって訪ねてきた
 名無しの狢は黙って飲んだ。灰色狐は黙って飲んだ

前世物語
782 :自夜[]:2007/02/07(水) 03:41:05 ID:YK8LQM6M0
 それからまた季節は繰り返し、名無しの狢は人を襲い、人を化かし、人を困らせて暮らした
 今でも人を襲い、人を化かし、人を困らせて暮らしとるそうじゃ
 
 どっとはらえ
 
 え? 名無しの狢は、あの狢さんかって? さて、どうでしょうね

前世物語
789 :自夜[]:2007/02/07(水) 19:27:51 ID:YK8LQM6M0
 >>783 白夜さん
 人のHNをどうこういう気はありませんが、時々自夜を間違えて白夜と書く人
 がいますので、もしよろしければ、今後そういう方のお相手をしていただける
 と、私がらくちんできます

前世物語
790 :自夜[]:2007/02/07(水) 19:30:51 ID:YK8LQM6M0
 >>784 756さん
 >見て来て納得して貰うしかないですね
 私、幽霊やってましたし、妖怪さんにも直接会って、いろいろはなし聞きましたから
 
 >妖怪なら少し前友人が遭遇したよ(>>756)
 >自分が病死した霊に憑かれた(>>761)
 だけで、
 
 >自分も全てを答えられる訳ではない(>>784)
 方よりはよく知っております。従ってこれ以上のご高説は要りません
 
 ご本人様も
 >細かく語ると長くなるから語らない(>>756)
 と仰せですのでご意志を尊重したいと思います
 
 長々とありがとうございました
 
 以後、書き込まれても某所で晒すだけでここでは私は反応しません

前世物語
791 :自夜[]:2007/02/07(水) 19:33:37 ID:YK8LQM6M0
 >>785さん
 毎度毎度、ご苦労様です
 
 >>787さん
 本当にそうですねぇ。まぁ私は普通でないとよくいわれるわけですが・・・
 いずれにしても、楽しくやりたいもんです

前世物語
792 :自夜[]:2007/02/07(水) 19:35:33 ID:YK8LQM6M0
 名無し狢の話が思わず長くなってしまいました
 
 さて、幽霊話ともなると、あの世とか霊界とか必ずと言っていいほどセットで
 出てくるのは何故なんでしょうね
 幽霊そのものと死者が行くと言われている世界は基本的には別次元の話と思います
 何故なら、あの世に行くのにわざわざ幽霊に一旦なる必要が無いからです
 この世に未練とか怨念とかあると霊になって祟るとか悲惨な死に方すると迷うとか
 もよく言われますが、そういう魂こそ救ってやるべきであり、現世の人生に満足し
 て死んでいった人はそれで満足なんですから、わざわざそういう魂を極楽浄土とや
 らに連れて行って、実はおまえの現世の幸せはかりそめのものだったんだよ、なん
 て知らせる必要もないと思うんですがねぇ
 第一、私みたいに一度死んだ人が気付かないようであれば、たとえ死後の世界があっ
 たって意味ないと思います
 まぁ、これは単なる私の考えであって、既存の宗教などの死後の世界観を否定する
 気はありませんし、それぞれの人が信じるものを信じればいいと思います
 
 しかし、なんですか、あれですよ。人間切羽詰まったら本音が出るというか何というか
 今目の前でまさに自殺しようとしている人がいるとします
 「待て、自殺すると成仏できないぞ」とか「自殺した霊は永遠に彷徨うんだぞ」とか
 言って止める人はどれだけいるんでしょうか
 大概は「死んでどうする」とか「死んだら終わりだぞ」とか、ちょっと余裕があれば、
 「生きてりゃいいこともあるさ」とか言うんじゃないですかね
 私自身は自殺自体は別に絶対にしてはいけないとは思っていませんが、その話は神棚
 に上げておいて、ひょっとしたら、誰も死後の世界なんて信じていないんじゃないか
 と思ったりするわけです

前世物語
793 :自夜[]:2007/02/07(水) 19:38:13 ID:YK8LQM6M0
 さて、折角ですからもうちょっとあの世について話をしようと思いましたが、以前から
 調子が悪かったPCが深刻な事態になってしまいました
 症状としてはマウスがうまく作動しません(マウス本体は問題なし)
 仕事上、CADとかお絵かきソフトとかを多用する関係上、致命的な故障と言えるでしょう
 
 ちょうど仕事も一段落し(まだついてないけど)、久々に帰国することから本格的に修理
 に出すことにしました。代替機はあるというものの、10年近く前の機種で、かろうじて
 メールのやりとり(但し画像など添付するとアウト)くらいしか使えませんので、修理
 終わるまでまともに書き込み出来ないと思います
 
 このスレも八百近くになったし、そうでなくても放置すれば落ちちゃうわけですが、それ
 はそれでかまわないんですが、落ちちゃった場合は迷惑な人も多いでしょうが、修理終わ
 り次第、私が次スレを立てますので、物語スレを楽しみにしている奇特な方は、それまで
 お待ち下さい。奇特でない普通の方は、好きにして下さい
 
 さぁ、休暇だ休暇だ。遊ぶぞ〜。居酒屋に、スキーに、大型免許取得だ〜っ
 定期検診にも無事通りますように(-人-)ナムナム


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