弐千六年拾弐月弐拾八日
前世物語
185 :自夜[]:2006/12/28(木) 20:39:50 ID:UaEbO/8o0
前世物語 第一部前世編 第九話 野辺の章その三
ある夜血を吐いた瑞穂は坊さんとこに担ぎ込まれ、そのまま帰ってこなかっ
た。
担ぎ込まれた人が死ぬと、坊さんの役目は終わり。亡骸を皆で墓地まで運
んで穴掘って土被せて石置いて終わり。棺桶は使わない。生前身につけて
いた物を一緒に埋めることもある。
瑞穂が死んだと知らされた朝、私ら女の子はそこら中に咲き誇る春の花を
ぶちぶちぶちぶち千切って両手いっぱいに抱えて瑞穂の骸の周りに供えた。
花の色が鮮やかで華やかで、瑞穂の青い死の色が目立つ。
悲しくないはずがない。誰も泣かない。無言で弔いをする。人が死ぬ度に
泣いていたら、涙がいくらあっても足りない。
墓地は隣村との境にある。隣村との共同墓地。たいそう古い墓地。一番古
い人は千年くらい前の人。氏神様はもっと古い人。
赤子が死ぬと墓地は使わず家の出入り口の脇に埋める。墓標は造らない。
まだ、人として充分でない死。死者の国に送るのは忍びない。寂しくない
ように、そして今一度我が家の子として生まれてくるように。
そんな気持ちを込めるのだという。
第十話へつづく
前世物語
186 :自夜[]:2006/12/28(木) 20:43:07 ID:UaEbO/8o0
前世物語 第一部前世編 第十話 希人の章その一
我が家の出入り口脇にも何人かのおにちゃ、おねちゃが眠っている。私は
だれかの生まれ変わりだろうか。そうだといい。ととちゃ、かかちゃが喜
ぶ。
私らの郷は街道筋から離れている。出て行く人はいても、やってくる人は
少ない。せいぜい港町の向こうから時たま役人が来るか、旅の僧侶が迷い
込む。滅多に訪れない客。だから希人。旅の人という意味。希人は幸福を
運んでくる。物欲を運んでくる。情報を運んでくる。不幸を運んでくる。
年に一度やってくる希人もいる。行商人。幸福と物欲と情報とを運んでく
る。村人は行商人が来るのを楽しみにしている。そして時たま不幸を運ん
でくる。
行商人は背中いっぱいに大荷を担いでくる。新しい品種、夏の干、秋の冷
にも負けない籾をもたらす。新しい農機具の作り方、農作法。これが幸福。
京の様子、他の国の様子、新しい物語、これが情報。物欲は大荷そのもの。
日頃質素な郷であるが、行商人が来ると、物欲に火が点く。
男衆は手刀。手刀は男衆の宝物。誰よりもいい品を持ちたい。手刀は野良
作業でも綱を捌いたり農機具の手入れに使うが猟では手放せない道具。
つづく
前世物語
187 :自夜[]:2006/12/28(木) 20:47:13 ID:UaEbO/8o0
前世物語 第一部前世編 第十話 希人の章その二
あれも駄目、これも駄目。百姓には禁じられていることが多い。勿論、さ
むらいに盾突かないため。百姓はあの手この手で規制を逃れる。
弓矢もそう。百姓は弓矢の所持を禁じられている。罠だけでは獲物は獲れ
ない。飛び道具は必要。弓矢を木の枝と蔓から百姓は手刀で使い捨ての弓
矢を作る。猟が終われば弓矢は捨てる。弓矢を手際よく作るのにいい手刀
が皆欲しい。
山神様達、そして私ら女の子は櫛。漆塗りの櫛。この頃の女性達は後の世
と異なり、後ろで束ねただけの簡単な髪型。古代のように髪の長さで女性
の価値が決まるようなことはない。皆背中の真ん中あたりまでしか伸ばし
ていない。馬の尾、馬の尻尾などと呼んでいた。たんにしっぽとも。
地球の反対側でも似たような呼び方をしているなんて、もちろん知らない。
漆は永田村から三十里くらい行ったところに大産地があるらしい。大きな
大きな川の両岸に漆の木が立ち並んでいるという。永田村からその地に行っ
て帰ってきた人はいない。
漆の櫛は高価で軽く嵩張らない。だから、行商の品としては言うことない
と希人は言う。
つづく
前世物語
188 :自夜[]:2006/12/28(木) 20:50:33 ID:UaEbO/8o0
前世物語 第一部前世編 第十話 希人の章その三
「でもよー、途中でまんまにかえちまうだ。背に腹は代えられね。で、京
につくころにはちびっとしか残ってね。あぁ、おれは、莫迦だぁ。今年
も儲け損ねたって、京に戻るたんびにおもーとー」
希人が私らの郷に立ち寄って利益があるのかどうか、それは希人の問題。
私らが心配することではない。
「ま、おらっち阿呆だけんど、損することはせんよー」
雑穀くらいしかない村だが、それなりに利益があるのだろう。
希人は毎年隣村の寺に泊まる。村の家で希人を泊める余裕のある家はない。
希人と坊さんは古い知り合いだという話もある。直接確かめたことはない。
希人が運んでくる不幸は秘密が漏れること。私らの村、いやこのあたりの
郷の村は大なり小なり禁を破っている。そうしなければ、生きていけない。
役人に密告されるのが一番恐い。村ごと簡単に潰されてしまう。百姓にさ
むらいに盾突く力はない。
だから、いくら村に幸福をもたらす希人であっても秘密は明かせない。
私らの村を出て希人は港町へ向かう。港町のすぐ向こうには役所がある。
港町から先、希人が何処へ向かうのかは誰も知らない。
第十一話へつづく
【百鬼】妖怪達の集うスレ【夜行】
68 :狢[]:2006/12/28(木) 21:01:44 ID:UaEbO/8o0
台湾の地震で海底に埋まってしまったとデス。今、這い出してきたとデス。
尻尾になんやらケーブルがからまっとったとデス。「いんたぁねっと」って書いて
あるとデス。外れんからぶち切って来たとデス。
前世物語
189 :自夜[]:2006/12/28(木) 21:12:28 ID:UaEbO/8o0
なんか、とーとつに繋がるようになりました。まだまだとろいけど。
この空きに出来るだけうぷしときます。
>>180さん
前世はともかく、他はそうかもしれませんね。
>>182さん
どうも、ありがとうございます。いまのところ、体は大丈夫です。頭の中は自信ありません。
>>184さん
どうもです。なんとか、前半(1クール目)は年内に終わりそうです。
だれもガッしてくれないので、寂しい自夜でした。 くやしいから自分でしちゃる。>>183 ガッ★
前世物語
190 :自夜[]:2006/12/28(木) 21:23:30 ID:UaEbO/8o0
前世物語 第一部前世編 第十一話 狸狢の章その一
永田村の西に流れる大川は命の源。田圃で実る米の稲の命の水。飲み水こ
そ井戸から得ていたものの大川から引く水がなければ百姓は成り立たない。
大川は炭焼きの村の奥の峠あたりに始まり、私らの郷を延々と流れ、港町
で海に注ぐ。郷の村々は全て大川から田圃に水を引く。
村々は互いに顔見知りで娘がお互いに嫁いでいるので親戚でもある。だが
水の取り合いは命がけ。実際に刃傷沙汰になったこともあるという。
それに懲りたか、はたまた太古からの習わしか、私らの頃はだいたい話契
という話し合いでなんとかなっていたようだ。
大川の向こうは低い山々。ここは誰のものでもない。この郷のものの共通
の宝。狸や狢が多く住み、獲物には乏しい山々だがここには山神様達の大
切な御神酒の元、山苺や山葡萄、柘榴、無花果、通草が豊富に採れる。茸
の類も無尽蔵。また、子供達の遊び場でもある。
ある日、この山々に入っていた私のすぐ上のおにちゃ、したのおにちゃが
飛ぶように帰ってきた。
「やたっ、やたっ、とったどー」
手には獲物。
つづく
前世物語
191 :自夜[]:2006/12/28(木) 21:35:35 ID:UaEbO/8o0
前世物語 第一部前世編 第十一話 狸狢の章その二
狸は犬科の獣。幼獣の時は子犬そのもの。狸は何でも食べる。人は狸を汁
に煮込んで食べる。俗に言う狸汁。味は人によるが、長い冬を乗り切るに
はなくてはならない食料。狢は狸に似てはいるが、違う生き物。ある種の
狐のように、人を化かすという。狢を喰うことはない。
明治期に近代生物学がこの国に持ち込まれ、狢は狸の別名とされた。種と
しての独立が失われたわけだ。行き場を失った狢はそれ以降妖怪となる。
私らの頃は狢は普通の獣。人を化かすが珍しくはない普通の獣。人を化か
すが故に、この山々の狢は人の罠にはかからない。矢には当たらない。多
分狢が手助けしているのだろう。狸もその山では滅多に獲れない。
その山でしたのおにちゃが狸を捕ったという。
手足を縛られしたのおにちゃに提げられた獲物はこの世の理不尽を詰るよ
うに吠え立てる。
ととちゃが持つと歯を剥いて今にも噛みつかんばかり。
「ほー、よーとれたの。ほめてやらんがいかんが」
ととちゃの大きな拳がしたのおにちゃの脳天に振り下ろされる。ごちん。
「いっでー、なにするがや」
つづく
霊信じてる奴、また詳しい奴に質問
206 :自夜[]:2006/12/28(木) 21:45:10 ID:UaEbO/8o0
亀ですみません。長文もついでにすみません。
まず、人間が幽霊を見ているんじゃなく、幽霊が人間に幽霊を見せているということを
認識しないと問題の解決になりません。集団目撃の場合でも幽霊は個々の人間に異なった
幽霊像を見せることができるため、TV局の企画は成功しないのです。
ところで、話は逸れますが、警察官が幽霊に職務質問した時点で、それが虚実であれば
以降の実験は意味がありませんし、職務質問が真実ならその時点で幽霊の存在が証明
されたことになりませんかね。もし幽霊が居なければ職務質問は出来ませんから、この
企画は没ですが、職務質問できなかったからと言って幽霊がいない証明にはなりませんね。
さて、本題。例えが悪い色盲の話です。
大多数が色盲で、少数が色盲でない白黒の世界を考えます。
白黒の世界だから色盲でない人も色ということを知りません。
そこへきまぐれな幽霊さんがやってきて、色を見せます。
大多数の色盲の人は気付きません。少数の色盲でない人はいままで見たことがない物を見た
と大騒ぎして、大多数の色盲の人からキチガイ扱いされます。
口惜しい色盲でない人は、分光器を発明して色の存在を客観的に示そうとします。
ところが幽霊さんは気まぐれで意地悪ですから分光器の測定結果に再現性がありません。
いつまで経っても大多数の色盲の人に信じて貰えずますます変人あつかいされるのでした。
めでたし、めでたし。
ま、こんなことが言いたかった訳です。
幽霊が見せる幽霊像に頼って幽霊の存在を証明するのはほとんど無理じゃないですかねぇ。
幽霊の本体であるある種の波動を直接観測する手法の方がまだましに思えます。
一辺100mの立方体を観測出来るMRIを1年間連続で稼働させれば一回くらいは幽霊さんが
横切るのをとらえることが出来るんじゃないですかねぇ。そういう例を100例くらい集めて
分析すれば、幽霊の存在を科学的に証明することが出来るかもしれませんね。
もっともその場合、幽霊は非科学的でなくなりますから、この板から追い出されてしまう
でしょうけど。
前世物語
192 :自夜[]:2006/12/28(木) 21:48:54 ID:UaEbO/8o0
前世物語 第一部前世編 第十一話 狸狢の章その三
「ばかちんが。よう見んか。こりゃ狢や」
これが狢。初めて見る狢。
「狢はぁ喰えん。あした放してこ」
狢は一晩家に泊まった。逃げないように篭を被せて。枷はとってある。狢
はふて腐れたように体を丸くして、顔を人間のいる方と逆に向けている。
私は狢が珍しかった。見れば見るほど狸にしか見えない。これが本当に狢
だろうか。雑穀を潰して菜っ葉を混ぜた餌を置くと、ちらりと見下したよ
うに見て、すぐそっぽを向く。こんなもの儂に喰わせるんかというような
目つき。助かると判ってからは、暴れない。むしろ堂々としている。
そう言えば、普通の狸はもっとおどおどとした目をしている。
助かってよかったねと声をかけると、そっぽ向いたまま軽く鼻を鳴らした。
翌朝見ると、餌はきれいに無くなっていた。
したのおにちゃに提げられた篭の中で、狢は時折振り返っているようだ。
あの狢。人語を解するのかもしれない。
お調子者だったしたのおにちゃは狢事件の後暫く無口になった。
秋が過ぎ、冬が過ぎ、春が来て、私は大人の仲間になった。
第十二話へつづく
前世物語
193 :自夜[]:2006/12/28(木) 22:21:45 ID:UaEbO/8o0
こんなところで、今日は打ち止めです。
自夜物語(相談スレにうぷした初作のことね)では出てこなかった狢さんの登場
です。この狢さん。第一部ではもう出てきません。前世編では殆ど意味がない
キャラクターなんで、自夜物語では割愛しましたが、「狢」名義で余所に書き込ん
でるように、狢には思い入れがあります。また、おいおい話させて頂きますね。
また、繋がりにくくなってきました。この書き込みが、届きますように。
霊信じてる奴、また詳しい奴に質問
208 :自夜[]:2006/12/28(木) 22:34:32 ID:UaEbO/8o0
>>207さん
何かのはずみで幽霊にならない限り、どんな死に方をしても消えてしまうだけです。
地獄とかありませんので、安心して死んでください。
霊信じてる奴、また詳しい奴に質問
211 :自夜[]:2006/12/28(木) 23:44:22 ID:UaEbO/8o0
>>209さん
死ぬ瞬間に念(念についての説明は>>188参照)があると、幽霊になる場合があります。
幽霊にならない場合は思念というか魂というかそういうのも死ぬと同時に消えます。
まぁ、間違って幽霊になったとしても、幽霊生活もそんなに悪いもんじゃありません。
安心して死んでください。
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