狢屋敷 狢の妖怪物語 第零回 発端の章 作:名無し狢 春 わしらの住んでた山に、 一本の古い山桜があった 普段は目立たん木やったが、 花が咲くとそこだけ世界が違った わしは、その木の元で、 桜の花を見上げて考えとった わしはまだ若い雌で、 秋になれば結ばれるはずの雄に、 死なれたばかりやった 人間に殺られた 遺体を弔うこともできんかった わしは桜を見上げながら、 生きることとはどういうことか、 死ぬとはどういうことか、 そんなことを考えとった まだ、わしが妖怪になる前の 数少ない記憶の一つや もう何百年も前の話や 初出:05MAR2007 【百鬼】妖怪達の集うスレ【夜行】スレ 2007 (c) Copyleft MUJINA