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前世物語 弐

1 :自夜 :2007/03/07(水) 22:00:02 ID:KGmWJT3O0
永禄七年、きのえねの冬、雪の中で狂って私は死んだ

PC用: http://anime.geocities.jp/ojiya1539/
携帯用: http://anime.geocities.jp/ojiya1539/m/index.html
避難所: http://hobby9.no.land.to/bbs/test/read.cgi/occult/1169303072/l50

2 :自夜 :2007/03/07(水) 22:03:15 ID:KGmWJT3O0
前スレまでのあらすじ

ある混乱の板

四十八の嵐に奪われし良心を取り戻す旅をするものがいた
美人自称物書き、自夜(じや)
そして、その傍若無人さが気に入り共に旅をするもの

妖怪界の貴族、ななしの狢とはわしのことじゃ

ある時は慇懃無礼、ある時は完全無視、
そしてある時は勝手に晒し上げる悪行三昧

その魂が救われるまで、自夜と狢の悪行の旅はつづく

3 :邪鬼丸 :2007/03/07(水) 22:07:33 ID:KGmWJT3O0
スレ解説

人には百八も煩悩植え付けたくせに、自分は四十八かよ。いい気なもんだ
四十八程度の良心が戻ったところで、善人になるってわけでもないだろうに
まぁ、いい。言われたとおりにスレ解説してやるぜ

ここは、まぁ自夜って変なおばさんが書きたいことを書くところらしい
つきあうと、ろくなことはないが、書き込みは誰でも自由だ
テーマは一応、前世・幽霊・妖怪の三つで、おばさんに聞きたいことがあったら
聞いてもいいし、話題を振ってもいい。まぁ、好きにしてくれってことらしい
嵐も歓迎とか言ってるけど、本心はどうかな。検証は本気で歓迎してるみたいだ
もっとも、俺にもおばさんが何考えてるか、さっぱりわかんねぇ

一応言っておくが、三悪に俺は入ってねぇぜ。俺には長〜い旅が待ってる。迷惑な話だ
じゃ、次スレにでもまた会おう。あばよ

14 :自夜 :2007/03/07(水) 23:58:43 ID:KGmWJT3O0
前世物語 第二部乱世編 第十五話 果酒 その一

この小屋は去年の秋に建てたもの。
あれから、何回か住まいを変えた。同じ場所で三回冬を越したことはない。
おにちゃはその理由を言わない。子供の頃は何度か聞いたことがあるが、
最近では聞かなくなった。
理由がない訳ではないだろう。ただ、私が知らなくてもいい理由だ。
今いる山にも去年初めて来た。前の小屋から五〜六里は離れている。一日
で往復するのは難しい。
何回か、この山を訪れ、時には野宿をした。そして、住まいの場所を決め
ると、自分たちだけで小屋を建てた。
小屋が出来ると引っ越し。何回にも分けて新居に運び込んだ。
刀はともかく、槍などの大物は深夜に運んだ。
まだ、世の中は騒然としている。昼日中に武器を運べる物ではない。
何処かの軍勢に見とがめられれば武器の没収で済めば御の字で、間者と間
違えられ拷問の上、頸を跳ねられるのが落ちだ。
食糧貯蔵の洞も確保し、ようやく引っ越しが終わったのはもう晩秋だった。
前の小屋は解体し、燃やせる物は燃やし、埋め戻して雑木を植えた。

つづく

15 :自夜 :2007/03/08(木) 00:01:37 ID:e4atIfb90
前世物語 第二部乱世編 第十五話 果酒 その二

見た目はすっかり周囲と変わらない。住んでいた当人達ですら、次に行っ
ても判らないかもしれない。
新しい小屋の間取りはそれまでの小屋と大差ない。いや、寝所が二つになっ
た。私がそれだけ成長したからだという。
その割に、一日の終わりの沐浴は一緒にする。沐浴と言っても湯ではない。
水汲みの小川に行って裸になり躰を拭く。冬の間は沸かした湯に浸した布
で躰を拭く。
その日も小屋に戻り、読み書きの稽古、素振り、打ち込みの後、おにちゃ
と小川に行く。
流れる水での沐浴は気持ちがいい。たいした水量ではないが、躰が水に浮
き、流される感じが好きだ。
雪解けの水は冷たいが、浸かってるとすぐ慣れる。水から揚がり、乾いた
布で躰を擦ると後で躰の奥から温もりが出てくる。冬の間は熱い布で擦っ
ている間は気持ちいいが、その後、寒くなる。
躰を拭いていると、おにちゃが珍しくしげしげと眺めて言った。
「胸はまだ子供だな」

つづく

16 :自夜 :2007/03/08(木) 00:04:42 ID:e4atIfb90
前世物語 第二部乱世編 第十五話 果酒 その三

おにちゃを蹴飛ばし、水に叩き込んだ後、小屋に戻り、夕餉の支度をする。
鍋に季節の菜と雑穀を入れ、煮込んだ後に鹿の乾肉の細切れを入れる。
それに、蕪の塩漬け、豆を炒ったもの、雑魚の白砂乾がつく。
質素な献立だが、おにちゃに拾われたころよりは食材はうんと種類が増え
た。酒も付く。秋の間に採った木の実で造った酒。おにちゃはこの果酒が
お気に入りだ。
母が語ったことを思い出しながら作った果酒。最初の年は惨憺たる物で、
全部酢になった。次の年は黴にやられた。三年目に初めて飲めるものが出
来たが、美味しいものではなかった。四年目からは、その年の果酒が残っ
ている間はおにちゃは果酒を選んだ。木の実の種類によっては果酒は淡い
琥珀色になり、どす黒い血の色になった。血の色の果酒は長持ちしないの
で、まずこの果酒から出す。果酒は小瓶に入れ、升に注いで飲む。
囲炉裏の両側に座り、いただきますをした後、おにちゃは呑み始める。
私は鍋から椀に煮込みを注ぎ、それを食べながら飲む。
私は明日の話がいつでるかと、おにちゃの顔を伺うが、おにちゃは知って
かしらずか、ただ静かに呑み続ける。

第十六話へつづく

33 :自夜 :2007/03/08(木) 10:20:53 ID:e4atIfb90
さて、新スレです。ちょっと立ち上げにもたつきましたが

旧スレはまだレス数は千に逝ってませんが、容量が超過しそうなので、早々に引っ越しです
まぁ、従来どおりやっていきますんで、お気楽にお楽しみ下さい

Web Site の方も、ここんとこ更新が頻繁ですが、笑えるネタを提供出来てるんではないかと、
自分では思っているんですがねぇ。どうでしょう

さて、どうせ調べて自慢げに書込みたがる方が出てくるでしょうから手間をはぶけるよう
晒しておきます。別にどうってことないもんですけどね
inetnum: 203.125.128.0 - 203.125.255.255
netname: SINGNET-SG
descr: Singapore Telecommunications Ltd
descr: SingNet Pte Ltd
country: SG

ほいじゃ、ご自由にご歓談下さい

35 :自夜 :2007/03/08(木) 16:39:46 ID:e4atIfb90
皆さんはテレビ、映画を見たことがあるでしょうか
いずれも、影像を、さもそこにあるように写すからくりです
これが、前回の問いの答です
某漫画に登場したスカウターとか軍用機のヘッドアップディスプレーをご存じでしょうか
スイッチのオンオフで、あるいは情報のあるなしで、顕れたり消えたりします
目前のスクリーンではなく、網膜に直接投影して見せる装置の研究開発も進められています
実際にそこにあり、見えているものに加えて、そこにはないものが見えたり消えたりする
しかしこれは目の外から情報を与えるものであり、見えているものはそこにはないけれども見せるための
なんらかの仕掛けがそこにあります
さて、晴れた日など、そらを見上げた時に、なんだか半透明の糸くずみたいなのがふらふらしているのを
見たことがあるでしょうか
これは、目の中の小さな塵みたいなのが網膜付近をうろついているのを見ているのです
理屈を知れば、なぁんだですが、空に何かがあって、しかも目をそちらに向けると逃げていくいやなやつっ
て風に見えませんか?
ある種の目の病気にかかると、目の中の塵が増えます。病気でなくても増えることがあります
塵が増えるともやもやが増えます。このような症状を飛蚊症といいます。そこにはいない蚊が飛んでいる
ように見えるということですね
つまり、ないものを見るというのは医学的には珍しくないことです
ないものが見えるというと、すぐ総合失調症とか言いたがる人が多いですが、そういう人こそ何かの
失調症ではないかと思うのは、私だけでしょうか

36 :自夜 :2007/03/08(木) 16:42:44 ID:e4atIfb90
前世物語 第二部乱世編 第十六話 街道 その一

私は食べ終えた。
「いただきました」
おにちゃはまだ呑んでいる。顎で促す。私は升を差し出し、おにちゃが果
酒を注ぐ。
「せめて、両の手を添えんか、まるで男だ」
「生まれはともかく、育ちが育ちなんでね」
そう言えば、足も胡座だ。正座するのは、書の時くらい。おにちゃも日頃
は何も言わない。
「明日はそれを着て貰おう」
おにちゃはまた顎で指した。着物。町娘の着るような淡いながらも明るい
模様。晴れ着ではない。普段に着る服。
「拙者も明日は町人になろう」
いつも、里に出る時は私は百姓娘の姿になる。おにちゃは殆どさむらい姿
だが、百姓や町人に化ける時もある。
「今少し立ち振る舞いがよければ、いや、かなりよければ武家の娘になっ
 てもらうところだが、今のままでは町娘にもなれん」

つづく

37 :自夜 :2007/03/08(木) 16:45:13 ID:e4atIfb90
前世物語 第二部乱世編 第十六話 街道 その二

私は果酒をぐいと呑み、升を床に置いた。そして正座に座り直す。
「いささか失礼ではございませんか。わたくしは、やれとおっしゃられば、
 如何様にもして差し上げましょうぞ」
おにちゃは一瞬目を丸くして私を見たが、すぐ目を逸らし、升に口をつけ
た。
「されど、武家の娘ともなると独りで町を歩くのは、いささか不自然。お
 供の一人とも付けねばなりますまい。だれぞ、いませぬか。そこらのま
 しらでも連れて参りましょうか」
おにちゃが堪らず吹き出した。おにちゃが笑うのは珍しい。
「やはり、明日は拙者が町人になろう」
「なんで」
私は足を崩してふくれる。
「言葉そのものは、まぁよい。だが、書物からでのみ憶えた言葉だ。実際
 の話し方と異なる」
「町娘の話し方も知らないよ」
「遠国から来たとでも言えばいい」

つづく

38 :自夜 :2007/03/08(木) 16:47:45 ID:e4atIfb90
前世物語 第二部乱世編 第十六話 街道 その三

最初に独りで寝た時は怖かった。前の、またその前の小屋でもおにちゃが
帰らない日があり、母の夢を思い出したりして、自分の肩を抱いて丸くなっ
て寝た。
この小屋に越してきて、ずっと独りだ。最近では怖くはない。仕切のほん
の先にはおにちゃが寝ている。
でも、今まですぐ側にあった大きな背中がないのは、何か虚ろな気がする。
今度の山は梟が多い。梟の鳴き声に耳を傾けているうちに眠りにはいる。
そんな毎日。
翌朝早くに小屋を出る。
おにちゃも私も町人の姿。町までは七八里というところ。村を避けて通り
たいところだ。が、野良仕事の百姓に見られると、かえって不審がられる。
さも、物見遊山帰りの町人の振りをして、脇街道を行く。
おにちゃは背筋を伸ばして堂々と歩く。さむらい歩きのままだ。人の言葉
遣いにはやかましいくせに、自分のことは判っていない。
何度か諭すが、すぐに戻ってしまう。
途中の村で持参の乾肉を代償に昼餉を摂り、日が高いうちに町に着いた。

第十七話へつづく

47 :自夜 :2007/03/09(金) 11:05:41 ID:Prxlt0kD0
見る、見えるというのは、脳がそういう反応をするということです。見えるものがあるとかないとかは、
脳の反応そのものにとっては知ったこっちゃありません
実際にあるものが見えるのを実像、そうでないものを虚像とすると、虚像を作る虚情報の進入口はいろいろ
考えられます。目の外もあるでしょうし、目の中でもいいです。網膜に直接関与してもいいし、網膜と脳
の間の神経でもかまいません。脳そのものでも構わないと思います
この中で、目の外からというのは、目の外に何らかのからくりがあるということで、そのからくりに対し
ては幽霊がそこにいるっていう仮定の場合と同様ですんで、除外しましょう
残りは全てそこにはいない幽霊が見えるというものの仮説になりえます
その中でも一例として目の中を虚情報の進入口とした場合について考察していきます
虚情報の種類もいろいろ考えられるでしょうが、ここでは単純に光るおよび光を吸収することを考えます
光ると言っても目玉の中心で光った場合は全体的に明るく感じるだけでしょうから、なんらかの像を見るため
には網膜に近いところで光る必要があります。光を吸収する場合でも同様ですね
そして、網膜に極近いところで、極限られた視細胞のみが受感する程度に光れば、あるいは光を吸収すれば、
それは光の点、あるいは黒い点として見えるでしょう
そういう現象をある程度の範囲で起こせば、鮮明な虚像を見せることができます
そこまで網膜に近づくことが出来なければ、像はどうしてもぼやけてしまいます
どうでしょう。幽霊がはっきり見える、ぼやけて見える、輪郭がはっきりしない、すーっと消える、透けて
見える、透けてない。どの現象もうまく説明できると思いませんか

48 :自夜 :2007/03/09(金) 11:08:14 ID:Prxlt0kD0
前世物語 第二部乱世編 第十七話 町並 その一

町では銭が使える。
町にある寺のなんとかという行事で賑わっていたが、早々に宿を決める。
宿は相部屋があたりまえであったが、奮発して一部屋を借りた。最近では
裕福な商人も多く、町人姿で部屋を借りても怪しまれるほど珍しくは無い。
宿に僅かばかりの荷物を預け、私達はとりあえず、なんとかという行事を
やっている寺の参拝に出かける。特に仏に信心のない私達であったが、こ
の時期に町に来て参拝もしないとなると、怪しまれる。寺の様子も実際に
見ておかなければ、何かの話題で馬脚を顕してしまう。
おにちゃは手を合わせ、目を瞑って拝んだ。その姿は堂々としていて、ま
るでさむらいが必勝祈願に来たようだ。私は手を合わせたが、夕餉は何が
食べられるのだろうかなどと罰当たりなこと考えていた。
参拝が終わると、私達は出店をひやかしながらそぞろ歩きをする。
櫛や飾り物をしきりに奨めるが、私には興味がない。興味はないが、町娘
がその手の物に興味がないのも不自然なので、適当に相づちを打ったりす
る。おにちゃも旦那旦那と呼びかけられながら、道具や小物を奨められた
りしていたが、興味がないものはないという態度を崩さない。

つづく

49 :自夜 :2007/03/09(金) 11:10:49 ID:Prxlt0kD0
前世物語 第二部乱世編 第十七話 町並 その二

散々出店をひやかしたあげく、私は小物を入れる小さな袋を買った。おに
ちゃは、そんなもの何時でも作れる、と嗤った。
おにちゃは鉋や鑿、竹の蔓を締め付ける鉤、そして上等の砥石を買った。
「刃物は何回でも研ぎ直せる。砥石は削れる一方だ。だから砥石はいいも
 のにしなければならない」
おにちゃは今のおにちゃが町人であることをすっかり忘れている。
宿でも飯は出るが、夕餉は外の飯屋で摂ることにする。
町では銭があれば、何でも手にはいる。
「酒」
おにちゃは店に入るなりそういう。まるでさむらいが町人にいう口調。
私は不安になり見回したが、既に店にいる客も店主も気にした様子はない。
「それに、肴。何がある」
おにちゃは椅子に腰掛けた。無意識に右手が腰のあたりをおよぐ。
「へぇ、鯵か鰯の干したの、すずしろの煮たのと菜の漬け物、値は張りま
 すが猪か穴熊の汁なんかが今宵のおすすめで」
「せ・・、私には鯵とすずしろの菜を。ちびはどうする」

つづく

51 :自夜 :2007/03/09(金) 11:13:09 ID:Prxlt0kD0
前世物語 第二部乱世編 第十七話 町並 その三

私は店に掲げられた品書きに見とれていた。
「汁にするか。穴熊がいいか」
穴熊は私達もよく捕るが、猪ともなると、なかなか捕れないし、捕っても
大きすぎて処理に困る。だから、私達は普段は猪は捕らない。
「猪がいい」
「おやじ、猪の汁だ。二人分、鍋にしてくれ。飯はいらん」
「へ、へい」
おにちゃは私も酒を呑むものと決めつけている。店をざっと見渡したが、
男ばかり。こんなところで町娘が呑んでいいものだろうか。
まだ明るいが、店は賑わっている。せいぜい二十人くらいしか座れない小
さな店だが、空席は僅かである。
男達は酒を飲み、肴をつまみながら楽しそうに仲間内で話している。町人
ばかり。いや、一番奥で年増が独りで手酌で呑んでいる。そうか、女が独
りで呑んでも誰も気にしないのか。私は気が楽になる。
店主が酒を運んできた。
「おやじ、椀は二つだ」

第十八話へつづく

54 :自夜 :2007/03/10(土) 01:50:14 ID:B74v904R0
あと、立体感がないというのも説明できると思います。左右の目に全く同じ虚像を見せれば、それは立体感が
ない虚像でしょう。逆に、ちょっと変えて見せることで立体感のある虚像を見せることも可能でしょう
写真やビデオに写る場合もフィルムやCCDなどの受感素子の直前で同じことが起こるとすれば、説明は容易です
むしろ、写している時には気付かなかったという説明に有利な場合もありそうです
では、見える人、見えない人がいるというのはどう説明すればいいでしょうか
幽霊が意地悪して、特定の人にしか見せないようにしている。まぁ、これも考えられない訳ではありませんがね
実際に容姿性格うんぬんに関係なく、人にあまり気付いて貰えない人って言うのは確率論を超えているようです
幽霊から気付かれにくい人っていうのは見えない人がいるという仮説に充分なるように思えます
また、目の中、硝子体というゼリー状の組織ですが、これはけっこう個体による差があるようです。光らせたり
光を吸収させたりする具体的な場所ということになるわけですが、個体差によって光らせたり吸収したりのメカ
ニズムが働かないか、働きにくいというのも考えられます
更に、生物の感覚器官には雑音を適当にカット編集するフィルター機能があります。カクテルパーティ効果とか
言われるのもそうですね。この機能の個体差により虚情報をカットできる機能が高い人は幽霊が見えにくい、若
しくは見えないという考えも成り立つでしょう
ここでちょいと実験。新スレ以降以来あばれている方がいますが、サイトの方でそのおまぬけぶりを晒してます
さて、彼はこの文章に気付くことができるでしょうか。というわけで、話を戻します
実際にはどうかということはさておき、以上の粗い検討では、見える人、見えない人、写真には写ると言うこと、
無理なく説明できるんではないでしょうかね
さて、よく見える人と見えない人がいるが、写真には写るといいますが、本当でしょうかね
実は写真にも写る写らないがあるかもしれませんね。ニコンには移るがペンタックスには写らないとか、日本の
幽霊はフジクロームには写るがコダクロームには写らないとか。このへんを検証した人っているんでしょうかね

55 :自夜 :2007/03/10(土) 01:52:45 ID:B74v904R0
前世物語 第二部乱世編 第十八話 廻船 その一

なみなみと透明な液体が徳利から腕に注がれる。
米の酒。清い酒。生まれて初めて呑む清酒。神様になった気分。
おにちゃと軽く椀を上げ、口に含む。芳醇な香りが口の奥から鼻に抜ける。
うまい。
さすがに二三の客が気付いて奇異な顔を向けたが、ここまで来たら構うも
のか。椀を口から離し、大きなため息をつく。
うまい。
おにちゃはいつもと同じ、淡々と呑み、自分で椀に注ぐ。
肴が出てくる。すずしろの菜の漬け物。春の七草の一つ。大根とも言う。
さっきの客はもう自分たちの話題に戻っている。
鯵の干物を焼いた物。醤醢がかけてある。おにちゃは新しい肴が出てきて
も、一二回箸をつけるだけ。いつもと同じ。私も頂く。塩だけも旨いが、
醤醢も旨い。
徳利を二回お代わりするころ、ようやく鍋が出てくる。
この季節、猪が捕れないわけではないが、生肉のまま町まで運ぶ猟師はい
ない。この鍋も乾肉をほぐした物。そのせいか、聞いたほど油っぽくない。

つづく

56 :自夜 :2007/03/10(土) 01:55:17 ID:B74v904R0
前世物語 第二部乱世編 第十八話 廻船 その二

食が進むうちに、隣の客が声をかけてくる。
「おまえさん方、旅の人かい?」
「うむ。寺参りに来た」
おにちゃが答える。
「鍋とは豪勢だなぁ」
「うむ。親父の商売が当たってな、御陰で放蕩息子でいられる。これは放
 蕩娘だな。よかったらつまむか?」
「へ?いいのかい?」
「かまわん。二人には多すぎだ。お仲間連中もよかったらつまむがいい」
おにちゃ、さむらい言葉になってる。私は目で語りかける。おにちゃは気
付かぬふり。隣の客も気にしていない様子。ほっとする。
「お家は何を」
「廻船業だ。船が二三艘だから小さなものだ。だが、時流に乗れた」
おにちゃは平気な顔して嘘を言う。
「だんなも船に乗るんかい?船子一枚下は地獄って言うが、怖くないかい?」
「うむ。怖くはない。怖くはないが、せ・・私は酔うから乗らない」

つづく

57 :自夜 :2007/03/10(土) 01:57:42 ID:B74v904R0
前世物語 第二部乱世編 第十八話 廻船 その三

笑わすのもうまい。この町は海に近くない。海の話は珍しいのだろう。
「お嬢は船には乗らないのかい」
そう言って、私の腕に酒を注ぐ。そう裕福そうに見えないが、それでも町
人は清酒を飲める。
笠を被ったさむらい風の男が二人、暖簾越しに店を除いたのをおにちゃと
私は目の端でとらえた。
「はい。有り難うございます。海の神様は女の神様だそうで、女が乗ると
 船に災いがあるといいます。お伊勢参りの時に客として乗っただけです」
海なんて、見たこともない。私も嘘がうまい。
「へぇ、山と同じなんだ。女だけなんだか損だな。海にも山にも行けない」
一頻り、四方山話をし、鍋がなくなる頃、おにちゃが言う。
「この町に、書物を扱うところはあるか?」
店主も加わって、あれこれ言った後、向こう筋の古物屋が扱ってるという。
ちょっと覗いてくるとおにちゃが席を立ち、それを潮に隣の客は自分たち
の話に戻った。私は肴の残りを摘みながらちびりと呑む。
店の奥で、年増がふらりと立ち上がるのが見えた。

第十九話へつづく

78 :自夜 :2007/03/10(土) 23:07:19 ID:B74v904R0
明日(三月十一日)日曜日はお休みします
ほいじゃ、また来週

91 :自夜 :2007/03/12(月) 10:54:28 ID:YEbtc1JV0
目の中で光らせたり光を吸収するってな話をすれば、まず、どうやってすんねん、という疑問が湧くようです。
その前に、エネルギー問題を考えてみましょう
一点の光源からの距離Lミリにある半径Rミリの瞳を通過する光の量は全体の光量のどのくらいでしょう?
半径Lの球の表面積は4・π・L・Lですね。一方半径Rの円の面積はπ・R・Rです
だから瞳を通過する光量は全体の(R・R)/(4・L・L)ですね
一方、網膜の極近くで光った光は半分は網膜とは反対側に行ってしまいますので、効率は半分というところでしょ
うか。すなわち、目の中で光らせれば、外で光らせるのに比べて(R・R)/(2・L・L)の光量、すなわち
エネルギーで済むということです。もっとも目玉は二つありますから、(R・R)/(L・L)ですかね
具体的な数値を入れてみましょうか。二三メートルは、まぁ至近距離でしょうかね。L=二メートル=二千ミリ
としましょうか。瞳の大きさが直径一センチってのは、そうとう大きな瞳でしょう。でもまぁ、直径八ミリ、す
なわち、R=四ミリとしましょうか。これで計算すると、(R・R)/(L・L)は二十五万分の一になります
距離が倍の四メートルになれば、一百万分の一です
目の中で発光させる場合が、いかに小さなエネルギーで済むかというのがよくわかると思います
これだと、発光システムが多少効率が悪いものであっても、その発熱量はしれてます
また、目の中は狭い閉鎖空間なので、いくら水に近い硝子体の熱伝導率が低いとしても、像の揺らぎを感じさせ
るほどの温度差が目の中で発生するとは思えませんし、目玉が温かくなることもないでしょう
目玉が温かくなる以上に重要なエネルギー問題があります
幽霊とはいえ、無からエネルギーを作り出すことは出来ませんから、消費したエネルギーはどこからか補充しな
ければなりません

92 :自夜 :2007/03/12(月) 10:56:57 ID:YEbtc1JV0
前世物語 第二部乱世編 第十九話 年増 その一

来るかな、来るだろうな。
私は目の端で年増を追いながら、ちびちび飲む。やっぱり来た。
「ちょいといいかい」
「え、あ、どうぞ」
私は初めて気がついた振りをして、年増におにちゃが座っていた椅子を勧
める。年増は遠慮無く座り、手に持っていた徳利から自分の椀に注ぐ。
もう、ほとんど残っていない。
「よかったら、どうぞ」
年増は黙って椀を差し出す。なみなみと注ぐと暫く椀を眺めた後、ぐい、
と呑む。随分前から空の椀を持っていたようだ。もう一杯注ぐ。店主が心
配そうな目で見ている。私は指だけを動かして、徳利をもう一本たのむ。
「あんたの連れ、何者?」
「兄です」
「町人には見えないね」
ぎくりとする。声色が変わらないように注意して答える。
「変わり者とはよく言われます」

つづく

93 :自夜 :2007/03/12(月) 10:59:28 ID:YEbtc1JV0
前世物語 第二部乱世編 第十九話 年増 その二

年増は一頻り私の顔を眺め、椀を口に含む。
「あんたも町人には見えないね」
今度は余裕で笑顔で答える。
「わたしも変わり者とよく言われます」
くっくっく。年増は喉の奥で笑う。
「まぁ、そういうことにしておこうかい」
店主が恐る恐る徳利を持ってくる。何か言いたげだが、私は店主から徳利
を笑顔で奪い取り、年増に注ぐ。年増はぼんやりと品書きを見る。
「あたしにも兄がいてねぇ、やさしい頼れる兄だった」
「だった?」
「殺された。兄も、父母も、妹たちも」
「・・・・・・」
「元は百姓さね。戦に巻き込まれて村焼かれて」
私の母もそうでした。そう言いかかった。母は廻船屋の女将だ。
「それからの人生、散々さ」
私は黙って、又椀に注ぐ。

つづく

94 :自夜 :2007/03/12(月) 11:02:11 ID:YEbtc1JV0
前世物語 第二部乱世編 第十九話 年増 その三

年増はちびちび呑みながら身の上話を続ける。
焼け出されたのはまだ子供だったこと。しばらくは同じ境遇の子供達だけ
で生きてきたこと。次々に焼け出された時の怪我からくる悪い病気で仲間
が死んでいったこと。人買いに騙されて、不具の仲間を置き去りにして連
れて行かれたこと。何処かの商家に下働きとして売られたこと。商家を飛
び出して博打打ちの仲間に入ったこと。日々賭場の仕切で生きていること。
とくに珍しい境遇ではない。
それでも生きてきたことは、この時代ではむしろ幸運な方である。
年増は物語の最後で椀に残った酒を呑み干し、深いため息をつく。
「この先、どうしたらいいんだろうねぇ」
私は徳利に手を伸ばしたが、年増は手で椀に蓋をする。
「これ以上呑むと帰れなくなる。話を聞いてくれてありがとうね。久しぶ
 りに気持ち良く寝れそうだわ」
年増はふらりと立ち上がる。
「おにいさんと、いつまでも仲良くね」
年増はふらふらと店を出る。私は黙って見送る。

第二十話へつづく

123 :自夜 :2007/03/13(火) 19:39:08 ID:s1Vc2ivY0
>>117さん、>>119さん、>>120さん
まとめてで済みません。なんとかやっております
いずれ、また、あらためて

124 :自夜 :2007/03/13(火) 19:41:59 ID:s1Vc2ivY0
前世物語 第二部乱世編 第二十話 捜索 その一

「ああやって、客に酒をたかるんですよ」
台の上を片付けながら店主が言う。
「この町のもんは誰も相手にしない。お客さんみたいに余所もんで、ちょっ
 と大人しそうだとすぐ付け入る。揉め事もしょっちゅうです」
「特に何もされませんでしたよ」
「そりゃぁ、あなたが大人しく話を聞いていたからですよ。下手に口を出
 すと揚げ足取って、莫迦にすんなとかなんとか。質が悪いです。まぁ、
 独りで呑んでいる時は大人しいし、持ち金以上には呑まないから、出入
 り禁止にも出来ませんがね」
隣の客達も素知らぬふりを装いながら、無言で頷いている。
「それにしても、兄妹でお強い。もう一本いきますか。あたしの奢りで」
「いえ、私もこれ以上呑むと宿に帰れなくなりますから」
隣の客も思わず笑い出す。本当はまだいける。だが、いやな予感がする。
「またまた、兄妹して人を笑わすのが上手い」
「そうそう、おやじの奢りって言うんだ。目一杯奢って貰って、こっちに
 もほんのちょびぃっと回してくれればいい」

つづく

125 :自夜 :2007/03/13(火) 19:44:42 ID:s1Vc2ivY0
前世物語 第二部乱世編 第二十話 捜索 その二

隣の客達までとうとう加わる。店主が答える。
「目一杯は無理ですけど、おにいさんが戻るくらいまでなら」
そう。おにちゃの気配が見えない。一瞬目を閉じて気配を見る。駄目だ。
人が多すぎる。あらゆる欲望が町に満ちている。おにちゃが見えない。
「いえ、本当に結構です。兄も直接宿に戻ると思います。お勘定を」
「そうですかい、じゃ、また今度機会があったら寄って下さい」
店主と隣の客にお辞儀をし、私は店の外に出る。
もう一度、目を閉じる。心を落ち着けるんだ。心騒いでると見えるものも
見えない。おにちゃが教えてくれたこと。
やはり駄目だ。どうしてこう町人達は禍々しいのだろう。判らなくもない。
ここでは銭で何でも手にはいる。もっと銭が欲しい。銭が欲しい。
私は目を開けて小走りに走る。おにちゃは向こう筋の古物屋に逝くと言っ
た。多分、嘘だろう。あの笠のさむらいに用があったのだろう。
それでも私は向こう筋の古物屋に向かった。
何度か迷って古物屋に着いた。閉まっている。おにちゃの気配もない。
おにちゃがさむらいと会うとしたら何処だろう。しっかり考えるんだ。

つづく

126 :自夜 :2007/03/13(火) 19:47:12 ID:s1Vc2ivY0
前世物語 第二部乱世編 第二十話 捜索 その三

人目につかない場所。河原、橋の下、空き屋、違う。万一の時にかえって
危ない。危ない?何故?
さむらいと町人姿のおにちゃが話していても不自然でないところ。判らな
い。番屋?番屋かもしれない。さむらいと町人の接点。でもどうやって確
かめる?さりげなく前を歩く。駄目だ。もう暗い。町娘が一人で歩く時限
じゃない。呼び止められて詮議される。迷子の振りをする?やはり駄目だ。
その場は凌げても、きっと憶えられる。
それでも私は番屋のある方へ向かう。途中夜回りの役人に出くわそうにな
る。物陰に隠れて凌ぐ。不熱心。話し声が一町先まで聞こえる。
番屋は役人が来た方向か、行く方向か。来た方。役人に仕事を終える喜び
の気配はない。
角を曲がるとこぼれる光。番屋だ。私はこっそり裏手に回る。
織物はどんなに気遣って動いても音がする。毛皮の方がいい。でもまさか
町中を毛皮でうろつく訳にも行かない。
人の話し声。織物の音を気にする必要はない。他愛のない雑談。おにちゃ
の気配はない。宛を無くした私は宿に戻る。

第二十一話へつづく

129 :自夜 :2007/03/14(水) 19:27:26 ID:8kxTQjgG0
前世物語 第二部乱世編 第二十一話 喧噪 その一

宿に戻った私は早々に灯を消して布団に潜り込む。暗い中、目を閉じてい
た方が頭が冴える。
おにちゃの素性は謎である。確かに今は浪人だが、何処かと繋がりはある。
毛皮や乾肉を売った程度ではあれだけの銭は稼げないだろう。何処かの間
者だろうか。その割には遠出をしない。せいぜい一日か二日、小屋を空け
る程度だ。それに何よりさむらいを嫌っている。
おにちゃの体にはいくつも刀傷がある。私と二人の時は隠そうともしない。
私と会う前は何処かの家臣だった。これは間違いない。乱世だ。戦に出る
こともあっただろう。切られたことも、切ったことも。
私と会ってから、おにちゃから獣の血の臭いはあっても、人の血の臭いは
したことがない。多分、今も何処かと繋がりはあっても、荒っぽいことで
は無いだろう。これは私の願望。
半刻も経たないうちにおにちゃが戻ってきた。
「ちび、寝たか」
「ううん」
おにちゃが灯を付ける。油の匂い。そして、水。

つづく

130 :自夜 :2007/03/14(水) 19:30:18 ID:8kxTQjgG0
前世物語 第二部乱世編 第二十一話 喧噪 その二

やはり、おにちゃは河原か何処かに居たのだろう。あとは掘。砦?まさか。
おにちゃが黙って椀を差し出す。今度も清酒。
おにちゃは黙って呑む。私は年増の話をぽつりぽつりしながら呑む。
「自棄を起こさなければよいが」
おにちゃの言葉を機に灯を消す。
一部屋でおにちゃと寝るのは久しぶり。背中が大きい。
翌朝、ただならぬ気配の中、私達は目を覚ました。
「何かあったのかな」
「うむ、いずれにせよ、関わり合いにならぬ方がよいだろう」
女中が朝餉を運んでくる。米の飯に干し魚の焼いた物、汁、漬け物。
朝から豪勢である。
女中が聞きもしないのに心中だと告げる。
「簡単に死ぬ時勢にわざわざ自ら命をたつとは」
おにちゃがため息をつく。
付近でも散策しようと宿を出ると、さっきの女中が出てきて心中現場に案
内するという。別にそんなものは見たくない。

つづく

131 :自夜 :2007/03/14(水) 19:33:15 ID:8kxTQjgG0
前世物語 第二部乱世編 第二十一話 喧噪 その三

「いえね、お客さんの案内だとでも言わないと、見に行けないですから」
なるほど、そういうことか。特にこれといって寺以外は娯楽のない町であ
る。何か事件があると、格好の気晴らしになるのだろう。
入水だという。
女中に連れられ川端に来る。
仏は既に川から引き上げられ、河原に横たわり菰をかけられている。
今から荷車にでも載せられて、番屋に運ばれるのであろう。役人が数名、
人夫に指示を出している。それを野次馬が囲んでいる。三四十人くらいか。
女中はもっと近くに寄りたがったが、私達は土手の上から遠目に見る。
「水に浸かった死体は水を吸ったり障気が貯まって膨らむ。雪解け水で冷
 たいのを考えても、そう間は経っていないな」
確かに菰越しだが、膨らんだ気配はない。
人夫が一体を抱えて荷車に載せる。菰がずれて顔が見える。
「まだ若いな。商家の若旦那か跡取りってとこか」
もう一体が載せられる。
「おにちゃ」

第二十二話へつづく

133 :自夜 :2007/03/14(水) 23:57:25 ID:8kxTQjgG0
え〜、終結宣言ということになるのかな。皆様にはご迷惑かけました

弥生千三百年君(命名自夜、旧名風物詩)がアク禁になりました

経緯を知りたい方は、Web Site をどうぞ(以下は該当部分の直リンです)
PC用: http://anime.geocities.jp/ojiya1539/jiyavip/dai005yayoi.html
携帯用: http://anime.geocities.jp/ojiya1539/jiyavip/dai005yayoi_m.html

削除依頼は既に出していますが、実際に削除されるのはまだ先かと思います
それまでの一時的なものですが、僭越ですが、すっきりROMしたい方の為に、除霊済版を用意しました
http://anime.geocities.jp/ojiya1539/mujinabunko/sureloga/2007030701s.html
(携帯用はありません)

除霊済版は当然ながら書き込めません。更新も一日あたり、一〜数回ですが
旧スレの方も除霊済版を Web Site の方に用意しています

ほいじゃ、引き続き、ご歓談下さい                 じや

142 :自夜 :2007/03/15(木) 19:03:04 ID:RdhifAK00
まさか、そこまでまぬけじゃないよねと思いつつ、成り行きを注目してます
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/sec2chd/1173941156/2

143 :自夜 :2007/03/15(木) 19:11:13 ID:RdhifAK00
前世物語 第二部乱世編 第二十二話 活劇 その一

おにちゃも頷く。あの年増だ。
昨日は早めに割と気分良く帰ったはずだ。そこまで思い詰めている様にも
見えなかった。
若旦那の父親らしいのが駆けつける。役人に何か懸命に訴えている。
うちの息子が自ら死ぬはずがない、こんな女のことは聞いたことがない、
この女に騙されたとか何とか、大方そう言うことだろう。
役人は取り合わない。荷車が動き出す。残された父親は膝をつく。
おにちゃが顎で合図する。私は目の端でとらえる。素性のあまりよくなさ
そうな男達が土手の向こうを立ち去ろうとしている。
女中に礼を述べ、私達は男達と反対側に行く。女中はたまらず、野次馬の
方に行く。野次馬から知り合いを見つけ、話をしたいのだろう。帰りが遅
くなって、宿の亭主に怒られなければよいが。
土手が見えなくなるあたりから、おにちゃは歩を速める。おにちゃは急ぎ
足、私は小走り。
家並みを抜け、いくつか角を曲がる。ある角で、おにちゃが止まる。
「ちびは、ここで見ていろ」

つづく

144 :自夜 :2007/03/15(木) 19:13:39 ID:RdhifAK00
前世物語 第二部乱世編 第二十二話 活劇 その二

目を閉じなくても判る、禍々しい気配。
おにちゃはすっと通りへ出る。おにちゃの前に男達。六人。
男達はちょっと驚いたようだが、おにちゃを避けて通りすぎようとする。
「昨夜もすれ違ったな」
男達が立ち止まる。疑惑の顔。仲間達で小声で話す。
「へへ、何かの勘違いじゃありませんか」
声は卑屈を装っているが、目には怒り。それとも怯え?
「なら、何故皆立ち止まる」
顔を合わせる男達。
「おいおい、変な因縁付けるなよ」
男の一人がおにちゃの襟を掴もうとして、おにちゃに手首を掴まれねじ曲
げられる。
「うわぁぁぉあぁぁ」
「この野郎っ」
男達が襲いかかる。おにちゃが素早く腰に手を伸ばし、手が空を切る。
男の一発がおにちゃの顔面をとらえる。

つづく

145 :自夜 :2007/03/15(木) 19:16:12 ID:RdhifAK00
前世物語 第二部乱世編 第二十二話 活劇 その三

おにちゃは仰け反ったが、足を踏ん張り持ちこたえる。
更にもう一発。いや、避けた。おにちゃの反撃。
おにちゃも素手の戦いは勝手が違うのだろう。時々、手が腰のあたりを探
す。致命的な一発は浴びていない。むしろ優勢。だが、相手もさほどやら
れていない。
男の一人が板塀に投げられ大きな音がする。家の中から悲鳴。野次馬も、
ちらほら集まりかけている。
さっさとけりを付けて、この場から消えた方がいい。私は懐に隠した手刀
に手をかけた。
「そいつは、仕舞っておいた方がいいですよ」
驚いた。気配も感じさせず、肩を掴まれた。
振り返ると妙にひょろっとした男。町娘の晴れ着のような赤、いや桃色の
派手な柄の着流し、総髪。そして二本差し。さむらい?
「あなたのおにいさん?けっこう遣り手ですね。だが多勢に無勢だ。素手
 でやりあうには相手が多すぎる」
おにちゃでもここまで気配は消せない。何者?

第二十三話へつづく

146 :自夜 :2007/03/15(木) 19:25:16 ID:RdhifAK00
まとめて回答ですみませんです

>>117さん
はい、いつのまにかの再開です
私も贔屓の作家さんの小説は好きだけど、エッセイは嫌いとかよくありますよ
まぁ、それぞれの人がそれぞれの楽しみ方をすればいいんじゃないですかねぇ

>>119 sageさん
本物の妖怪さんはこんなもんじゃないですよ。時として、命に関わります
まぁ、本物の妖怪さんは、こんな陰湿なことしませんがね
本物の力をもってるから、陰湿なことする必要がないんでしょうね

>>120さん
パイパンに風当てても、なにもそよぎませんからねぇ、無駄なことですね

>>132さん
なんとか頑張らせて頂いてますです

ほいじゃ、皆さん、今後とも宜しくです

147 :自夜 :2007/03/15(木) 19:41:07 ID:RdhifAK00
まとめて回答ですみませんです

>>134さん
皆さん、これで終わったとは思っていないようで

Web Site の方でも書いてますが、

自夜:嵐は滅びぬ。何度でも蘇るさ。嵐こそちゃねらーの夢だからだ
狢 :あの嵐が最後の一匹だとは思えない

第一部 完

です

あと、蘊蓄・・・でなくって、与太話なんですが、ちゃんとつづけますので
今、ちょっと、書き貯め分が少なくなってきていて、物語も再開したことですし、
姑息な延命策をとっていたところです。あっさりバレちゃいましたね

>>135-138さん
予知・・・そんな能力があれば、もうちょっと楽に生きれるのかなぁ
先が判る人生なんてつまらん と、思っちゃいますけどね

>ちょっと情報をね、仕入れに来たのさ
どんな情報でしょう? ここに書いておいてくれたら、判る範囲で回答しますよ

ほいじゃ、皆さん、今後とも宜しくです

148 :自夜 :2007/03/15(木) 19:43:01 ID:RdhifAK00
まとめて回答ですみませんです

>>139さん
そのとおりだお
物語を放棄する時は、逃亡宣言だお

>>140-141さん
誰も笑わない駄洒落スレでによによ笑ってしまいました
四十代かぁ、はぁ〜〜。  いえ、私は肯定も否定もしませんよ

まぁ、荒れること自体は活気のうちと思ってますんで、ここで続けたいと思ってます

ほいじゃ、皆さん、今後とも宜しくです

149 :自夜 :2007/03/15(木) 23:49:16 ID:RdhifAK00
もし、幽霊がそこにいて、未知とはいえ何らかの光線、すなわちエネルギーを放射しているとすると、ちょっと
離れた人に見せたりするためのエネルギーは膨大なものになります
従って、先に未知の物質、未知の光線という仮説を残しましたが、それがどんなものであれ、エネルギー源および
その変換メカニズムは大がかりになってしまいます。仮説を放棄するほどのものではありませんが、かなり悲観的
にはなります
ところが、百万分の一ともなると話は違います。四百グラムのステーキを食べなければ動けない人と、零・四ミリ
グラムで済む人とが同じ成果を出す訳ですから、多少メカニズムが複雑でもその規模から実現は比較にならないほ
ど容易でしょう。ましてや、目の中の話ですがら、発光メカニズムの大半を生体から借用することだって可能な
わけです
さて、目の中で光った光の半分は無駄になるといいましたが、その中で瞳から外に出て行く光はどのくらいでしょう
発光する場所にもよりますが、十分の一も無いんじゃないでしょうかね。瞳から外は更に光は広がりますから、
幽霊を今まさに見ている人の目玉が光って見えることはまずありません
でも、高感度フィルムなどを使用すれば、この現象を撮影することは可能かも知れません
瞳から出なかった光は目玉のどこかにあたります。そのうち視細胞にあたる確率は更に半分くらいでしょうか
この光は像を結びません。また、目玉が丸い、虚像を見せるとしたら黄斑部ならびに近傍と考えられることから、
この光は主に網膜周辺部を照らすでしょう
その光は見えるほど明るくないと思いますが、感じるとしたら視界の周辺部がもやもやと明るく感じられるでしょう
ということは、視界の中央部は実際よりも暗く感じられ、虚像自体はその暗さに浮き上がって見えるような効果
があるのかもしれません
そう言えば、幽霊を描写する時に周辺部にもやもやとした霧状のものがあったりしますが、まぁこれは偶然かも
しれませんね

151 :自夜 :2007/03/16(金) 22:56:17 ID:+2xMgVIk0
>>150さん
なんか、今日は、度々出会いますねぇ

で、仰せの件ですが、私のことでしょうか、それとも・・・・・・
いずれにしても、答は同じになるんですけどね

私もそう思いますです

152 :自夜 :2007/03/16(金) 22:59:50 ID:+2xMgVIk0
前世物語 第二部乱世編 第二十三話 優侍 その一

二発目がおにちゃの顔に決まった。おにちゃはたまらず転がるが、すぐに
足をつき、男共の足蹴をかわす。
「では、ここで特効薬でも差し上げましょうかね」
派手ざむらいはそう言うとすっと戦いの真ん中に進む。
「なんだぁ、てめぇは、てめぇもやられてぇのか」
逆上した男共は派手ざむらいにも襲いかかる。派手ざむらいは攻撃の拳を
足を体躯を何事もないようにひょいひょいかわす。
攻撃の手が分かれ、おにちゃに余裕ができた。
「おい」
派手ざむらいがまるで友を呼び止めるように、おにちゃに声をかける。
派手ざむらいの手には朱鞘。大刀の柄はおにちゃに向けられている。
おにちゃが柄を握り、捻るように鯉口を切った。ぼきっ。抜き打ちの一刀
が、男の足を払う。足がありえない方向に曲がる。
その男が悶絶の悲鳴を上げる前に、棟が三人の男を打ちのめす。腕を折ら
れ、肩を砕かれ、腹を打たれた男は口から赤黒いものを吹き出す。
四人の男がのたうち回り、切先は頭格の鼻先に突きつけられる。

つづく

153 :自夜 :2007/03/16(金) 23:02:10 ID:+2xMgVIk0
前世物語 第二部乱世編 第二十三話 優侍 その二

頭格は動けない。下手に動くと鼻が無くなる。
切先が静かに鼻先から眉間、額と皮一枚の距離で動き、棟が静かに脳天に
降ろされる。頭格は白目をむき、口から泡を漏らしながら崩れ落ちる。
最後の一人、一番弱そうな男が四つん這いのまま逃げようとする。
「逃げるな」
おにちゃの一喝。
男は尻を落とし、ぶるぶる振るえる。小便が漏れて地面に輪が広がる。
「切ってもよかったのに」
いつの間にか、派手ざむらいは私の後ろに立っていた。朱鞘を天秤棒のよ
うに両肩に載せ、両の腕を絡ませている。
「まぁ、この先不具者として、死ぬまで苦しむのも閻魔さんの手間が省け
 ていいのかもしれんね」
おにちゃがこちらを向く。肩で息をしている。
「よう、ご苦労さん」
派手ざむらいは朱鞘をおにちゃに渡す。おにちゃは大刀を鞘に収め、返す。
「大切なものをお借り致しました」

つづく

154 :自夜 :2007/03/16(金) 23:04:47 ID:+2xMgVIk0
前世物語 第二部乱世編 第二十三話 優侍 その三

「なぁに、なまくら刀だ。ひん曲げてもらってもよかったんだがね」
派手ざむらいはからからと笑う。
「それにしても、いい腕だ」
「あ、いえ、無我夢中で」
「べつにおれの前で取り繕わんでもいいよ。だけど、あの連中の前では、
 その腹は見せん方がいいな。廻船屋の放蕩息子がそんな傷跡付ける理
 由を考えるのは骨だろう」
私は派手ざむらいがしゃくった顎の先を見る。野次馬の向こうから役人
が駆けてくる。おにちゃはさりげなく襟を合わせる。
「さぁ、このおれが悪党共をばったばったと見事に成敗した様子を証言
 してくれる人は残ってくれんか」
派手ざむらいが、野次馬に声をかける。野次馬は互いに顔を合わせ、一
人二人と散っていく。
「しずまれぇ、しずまれぇ」
役人が叫びながら近づく。
「何言ってんだか。もうしずまってるって」

第二十四話へつづく

156 :自夜 :2007/03/17(土) 18:08:40 ID:ENF/CtsV0
>>155さん
そうで〜す

157 :自夜 :2007/03/17(土) 18:22:17 ID:ENF/CtsV0
前世物語 第二部乱世編 第二十四話 詮議 その一

「まぁ、朝早くから心中だ喧嘩だとご苦労なお役目だ。同情はするね」
派手ざむらいが涼しげに言う。
おにちゃは大人しくしている。逃げ出したいところだが、そうもいかない。
私は派手ざむらいが何故私達の仮の素性を知っているかが気になった。
役人共は一通り悶絶する男達を眺め回した後、派手ざむらいに近づく。
「なんだ、おぬしのその格好は。近頃流行の婆娑羅とか言う奴か」
「失礼な奴だな」
役人の問いかけに、にやにや笑いながら派手ざむらいは答える。
「拙者は田無家家臣、臼井総之助割規、貴公らの上役筋に当たる」
「う、臼井・・・いや、失礼致しました。喧嘩騒乱の報を受け、駆け付け
 た次第でありますが、騒動の経緯をご存じでありましょうか」
「おお、よく存じてるよ。おれがやっつけた」
えらそうにふんぞり返る派手ざむらい。おかしなもので、こうされると、
さっきまで河原で威張っていた役人共がますます下手になる。
「ここの旅の兄妹がからまれておったから、おれが助けた。切り捨てても
 よかったのだが、この名刀村正に下らん血を吸わせても悪いのでな」

つづく

158 :自夜 :2007/03/17(土) 18:25:11 ID:ENF/CtsV0
前世物語 第二部乱世編 第二十四話 詮議 その二

派手ざむらいは、刀をすらりと抜き、刃を光らせる。
「それとも、殺っちゃってた方が、調べが楽かい」
「いえ、滅相もない」
「どうだい、おまえらは。番屋に行くのと、改めて切られるのと、どっち
がいい?」
男達の目に新たな恐怖が浮かぶ。
「死にたくはないらしいや。今、死んだ方が楽なのによう」
派手ざむらいは刀を収め、役人の方に向き直る。
「ついでだから、いいこと教えてやろう。こいつらの昨日からの足取りを
 調べてみな。面白いことがわかるぜ。今の喧嘩が子供の遊びくらいに思
 えるほどの面白いもんがな。さぁ、調べするんだろ。早いとこ番屋に行
 こう。町方の詮議に付き合う必要もねぇけど、協力したるわ」
派手ざむらいは強引に役人を急き立てる。役人が私達を気にしている。
「あの兄妹は急ぎの旅っていうんだ。喧嘩の当人のおれがいるんだ。あの
 兄妹の足止めする必要はないだろう。それとも宗形屋を怒らせたいかい」
「む、宗形屋。あの」

つづく

159 :自夜 :2007/03/17(土) 18:29:12 ID:ENF/CtsV0
前世物語 第二部乱世編 第二十四話 詮議 その三

役人の声が裏返る。
「そうそう、あの宗形屋。宗形屋に臍曲げられると、田無の兵糧は止まっ
 ちまうんだぜ」
宗形屋など知らない。おにちゃが小声で教えてくれる。
「ここいらで、一番の廻船屋だ。そこいらの大名より強くて豊かだ」
派手ざむらいに肩を抱かれんばかりに連行されながら、役人は顔色を失う。
不意に、派手ざむらいだけ引き返し、私の所に来る。
「おじょうさん、昨晩は、おれ、あの店の奥座敷で呑んでたの。不思議で
 もなんでもないから」
「いえ、あの」
そして、おにちゃの方に向く。
「わるいね、手柄を横取りしちゃって」
おにちゃは答えない。
「じゃぁな、旅の兄妹。また会おうぜ、いつか、どこかで」
そう言うと、派手ざむらいは、役人のところに戻っていった。
私とおにちゃは予定を取りやめ、宿に戻り荷物をまとめた。

第二十五話へつづく

161 :自夜 :2007/03/17(土) 19:16:28 ID:ENF/CtsV0
>>160さん
>こういう言い方は失礼かも知れませんが、
全然大丈夫です。思ったことはズバズバ書いて貰って結構です っていうより書いて欲しいですね

さて、あと二話で、第二部は第一部と同じ分量になるわけですが、どう考えてもそこで終わりそう
にはないですね。まだまだ続くはずですが、宜しくおつきあい願います

163 :自夜 :2007/03/17(土) 19:26:43 ID:ENF/CtsV0
>>162さん
あははは、三流以下の物書き(自称)が二流の時代劇書ければ立派なもんです

なんちゃって

164 :自夜 :2007/03/17(土) 19:46:51 ID:ENF/CtsV0
えぇ、>>142で報告した件ですが、あっさりとスレ自体が倉庫逝きになってしまいました
真相は闇の中という所でしょうか。まぁ闇に蠢くものということで相応しい気もします

さて、明日(三月十八日)日曜日はお休みします ほいじゃ、また来週
あ、そうそう。昨日になりますが、Web Siteの方も更新しています。よろしくです

無縁墓地に嗤い声が木霊する

166 :自夜 :2007/03/19(月) 20:11:13 ID:lOGfqI960
真相は闇の中・・・と思ったら・・・
まさか の第二弾です
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/sec2chd/1174203226/2

167 :自夜 :2007/03/19(月) 22:11:01 ID:lOGfqI960
延々と話を続けて、ようやく仮説としての目玉の中にたどりついたというところでしょうか
目の中でも網膜の直前で光ったり、光を吸収したりの現象です
それ以外でも、網膜への光以外の物理的な刺激も考えられます。理科の時間とかで、針先を軽く皮膚に当てて
動かしてみるという実験をされた方も多いと思いますが、冷たく感じる神経細胞のところを針先が通過すると、
ひんやり感じたりというあれです。別に針が冷たい訳でもないのに、冷たく感じる神経細胞が刺激されて
ひんやり感じる訳です
網膜も同様で、特に病的という訳ではないですが、眼内閃光として医学的に認知されている現象などがそうです
更に進んで考えれば、視神経そのものに干渉すれば、実際にはない影像を見ることになりますし、脳そのもの
に干渉しても同様でしょう
すなわち、そこに何もなくても見えるという現象は特別なものではなく、その原因として幽霊を排除するほどの
明確な理由が存在しない以上、幽霊がそこにいなくても幽霊を見るという現象の仮説はいくらでも立てられるし、
今の段階でそれらの仮説を否定する必要はないといえるでしょう
さて、幽霊がそこにいる必要がないことから、こんどは幽霊の成分についてもなにも物質である必要はないと
いう考えも成り立ちます。物質でないというのは奇異に感じるでしょうか
例えば、川。川の成分は何でしょうか。水?ではその水は川に属しているものでしょうか。一時的に属して
いるとも言えますが、あまりに関係が希薄ではないでしょうか。生物の場合、吸い込んだ空気はその生物の
成分の一つでしょうか。魚の浮き袋の中はともかく、普通は違うでしょう
そう言う意味で川とは水がその位置エネルギーを失うに当たって通過する半恒常的な通路とでも言えるでしょう
常時水が存在しなくても、川は川として存在します。つまり川とは一種の空間であって、物質ではないという
ことです

168 :自夜 :2007/03/19(月) 23:11:44 ID:lOGfqI960
前世物語 第二部乱世編 第二十五話 遠回 その一

「あの店に奥座敷などない」
宿を出る時、おにちゃがぽつりと言う。
私達は、宿を出て町を出て、小屋のある山とは反対の東に進む。
派手ざむらいのことが気になるが、おにちゃはもう何も言わない。
丸一日歩いて国境の宿場町に着く。目の前の峠を越えると隣国だ。ここで
宿を取る。さほど銭の手持ちがあるわけではない。今日は相部屋。馬小屋
の隣部屋。峠を越えた荷駄が休む宿でもある。
遠い昔、平安の時代から駅として栄えたという。
相部屋に不振な者はいない。行商の一行、親類でも訪ねるのであろう百姓。
私達のような物見遊山の一行もいる。
翌日は峠には向かわず、国境の山並みに沿った脇街道を下る。
途中、街道に人影が無いことを確かめた上で、国境の山並みに分け入る。
そこで野宿。更に翌日、山を出て元の街道に戻る。万一、尾行されていた
としても、これで巻けたはず。
それから二日脇街道を進み、別の道に入る。あと一日も歩けば、小屋のあ
る山が見える。この辺りともなると宿はない。この日は百姓屋に泊まる。

つづく

169 :自夜 :2007/03/19(月) 23:14:15 ID:lOGfqI960
前世物語 第二部乱世編 第二十五話 遠回 その二

百姓屋を出て西に進む。なだらかな丘陵と田畑が交互に表れる。まだ田植
えの時期ではない。長閑な農村の風景が眼前に広がる。
いくつ目かの丘陵の頂で、不意におにちゃが足を止める。
「先回り?」
「いや、ちがう」
私の目では異変は見えない。禍々しい気配もない。
行く手にはなんの変哲もない農村があり、田畑が広がる。小川沿いには黄
色い菜の花畑。百姓が何人か野良仕事をしている。
ちょうど、午の刻。村はずれの小寺の鐘が鳴る。
おにちゃは歩き出す。
村に差し掛かる。小寺から坊主が一人出てくる。見送りの坊主に比べて見
窄らしい姿。旅の僧だろう。
この時代、坊主の姿で旅をするものは多い。医者、ある種の修験者、琵琶
法師。小寺に一夜の宿を借りた様子から、本物の坊主であるらしかったが、
僧籍があるかどうかまではわからない。
別に不審なところはない。だが、おにちゃはまた立ち止まった。

つづく

170 :自夜 :2007/03/19(月) 23:16:50 ID:lOGfqI960
前世物語 第二部乱世編 第二十五話 遠回 その三

おにちゃの目つきが尋常ではない。怒りに燃えている。
帯刀していれば、今にも斬りかからん様子。
坊主は気付いてか気付かずか、見送りの坊主に深々と頭を下げた後、こち
らに歩いてくる。手に錫杖、破れかけた丸笠。他に手荷物はない。
見送りの坊主は早々に小寺にはいる。旅の坊主は近づいてくる。おにちゃ
の拳は固く握られ、かすかに振るえている。
「拙者を見忘れたか」
擦れ違いざま、おにちゃが小声で言う。坊主は素知らぬふりで通り過ぎる。
六十くらいか、かなりの老齢。
おにちゃが振り向く。
「拙者を見忘れたか」
坊主はようやく足を止め、私達を見る。
「さーてなー、ひとのかおはーわすれんよーにしとるがのー」
ひどく間延びした言葉。どこの言葉だろう。知らない。
「さむれいのくせにぃ、ちょうにんにーばけるやつはぁ、しーらんのう」
人を莫迦にしたような笑い方。気に入らない。

第二十六話へつづく

171 :自夜 :2007/03/19(月) 23:22:40 ID:lOGfqI960
>>165さん
はい、今後とも手厳しくお願いします

ところで、ここだけの秘密の話なんですがね。あくまで、内緒ですよ。よそで言っちゃ駄目ですからね

相談スレ時代はともかく、物語スレになってから、今まで一度も正常になったこと
なかったんです。おかげで Web Site の方のネタに困りませんでしたけどね

173 :自夜 :2007/03/19(月) 23:50:17 ID:lOGfqI960
>>172さん
気まぐれオレンジ★ロードの鮎川まどか、らしいです

つttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AC

176 :自夜 :2007/03/20(火) 15:01:34 ID:FvxO7fu60
>>175さん
あのねぇ、ここは、わけわかめ語問合せレスではないんですがね

ゲーム「バイオハザード」。飼育係の日誌に書かれていた「かゆい うま」から派生した言葉
それが、どうなにを間違ったか、既婚女性板の英雄達が集う、夢のような楽園という謳い文句
の板名になりました。掟は「一日 一かゆうま ( ̄ー ̄)ニヤリッ」
http://bbs.2ch2.net/kayuuma/index2.html

言っておきますが、私は出入りしてませんよ
下はその飼育係の日誌の最後の書き込み

May 21, 1998
かゆい かゆい スコット― きた
ひどいかおなんで ころし
うまかっ です。

180 :自夜 :2007/03/20(火) 18:07:22 ID:FvxO7fu60
前世物語 第二部乱世編 第二十六話 坊主 その一

「むかーし、ひゃくしょーのかっこーさせられたさむれいならー、しっと
 るがーのー。せっかくたすけてやったのによー、れいもいわんとよー、
 どっかにいきよったぁ。いまに、ばちがあたるーでよー」
「ふざけるな。ぬしのせいで拙者は命を狙われた。主家にも疑いをかけら
 れて殺されそうになった。全てぬしが裏切ったせいだ」
おにちゃは顔色を変えて怒鳴る。坊主のとぼけた様子はかわらない。
「ほー、さっそくばちがあたったーなー。どーれー、やくばらいのきょー
 でもあげてやーろーか。ただじゃーでけんけどなー」
おにちゃの手が私に差し出される。私は唾を呑み、おにちゃに手刀を渡す。
「それ以上、世迷い言も言えぬように、拙者が引導渡してくれる」
おにちゃが斬りかかる。坊主が錫杖で払う。きん。鋼と鋼がぶつかる音。
体勢を立て直し、再度おにちゃが突く。坊主が払う。三度目の突き。した
たかに手刀が錫杖に打たれ、折れた。
呆然とするおにちゃ。
「ぼうずをころすとー、もっとひでーばちがーあたるでー」
くるりと背を向け、何事もなかったように坊主が去る。

つづく

181 :自夜 :2007/03/20(火) 18:09:53 ID:FvxO7fu60
前世物語 第二部乱世編 第二十六話 坊主 その二

おにちゃは坊主の去った辺りを見据えて動かない。
私は手刀の刃を拾い、おにちゃが動くのを待った。
小一時経って、ようやくおにちゃが大きく息を吐く。
「ちび、悪かった。母の形見」
「ううん」
形見などどうでもいい。おにちゃとの小屋の暮らしが何時まで続くか、そ
の方がよほど私の心を乱す。
「急ごう。日暮れまでに山に入りたい」
小屋のある山の麓に辿り着いたのはもうすっかり暗くなってからだった。
小屋は山の峰の向こう側にある。
山に少し分け入ったところで野宿。山の近くで町人姿を見られたくない。
翌日、峠を避け、山道を避け、峰を越えて小屋まで戻る。小屋の周囲、そ
して食糧貯蔵の洞も念入りに調べたが、人が来た様子はない。一安心。
その夜、夕餉の鍋を囲炉裏にかけていると、おにちゃが黒い石を私に手渡
した。やや光沢のある真黒の石。拳大なのに、鉄の塊のように重い。
「少し削って、火にくべてみろ」

つづく

183 :自夜 :2007/03/20(火) 18:14:34 ID:FvxO7fu60
前世物語 第二部乱世編 第二十六話 坊主 その三

私は言われたとおりにし、黒い粉を火にくべた。
燃えた。石が燃えた。鍋を溶かさんばかりに勢いよく燃えて、粉は消えた。
「刀一本作るのに薪がどのくらいいるか知っているか」
鉄の元の石を溶かし、鉄が出来てからも鋼にし、鍛えるまでに相当の火が
要ることは判る。本当の量は判らない。
刀を作るために、山が禿げる。山が禿げると川が荒れる。川が荒れると農
作物に被害が出る。戦で焼け殺される百姓より、飢饉で飢死ぬ方が多い。
そんなことをおにちゃは語る。
燃える石は燃える水と同じ、土の下に埋まっているという。
「何百万年も何千万年も前の木が固まって出来たという人もいる」
おにちゃは昔、主家の命を受け、燃える石の調査をしていた。そのうち戦
となり、何度か死にかけたが、生き延びた。しかし、あらぬ嫌疑をかけら
れ、浪人になった。それでも燃える石が飢饉をなくし、人々の暮らしをよ
くする可能性を信じ、調査を続けてきた。初めて聞くおにちゃの昔話。
「その石が、新たな戦の元になる。皮肉なことだ」
その年の夏は何事もなく過ぎ、季節は秋になった。

第二十七話へつづく

185 :自夜 :2007/03/21(水) 16:06:18 ID:dNUbfqnM0
>>184さん
ん〜、私は何のために呼ばれたんでしょうかね、どーでもいいですけど

せっかく顔出したんで、もう暫くはそっちも見ることにします

186 :自夜 :2007/03/21(水) 23:12:13 ID:dNUbfqnM0
前世物語 第二部乱世編 第二十七話 明応 その一

燃える石の話をした後は、おにちゃはあまり隠さなくなった。
あの坊主とおにちゃはもともと同じ武家の家臣で、坊主は早くからある国
に草として潜り込んでいた。
まだ直接の戦闘がない時代、おにちゃは主家の命を受け、燃える石の調査
を行うための旅をしていた。そうこうするうち、比較的良好な間柄であっ
た隣国に政変が起き、当主が殺され、幼き当主の甥を擁立した連中が実権
を握り、おにちゃの主家が恭順する守護大名某氏と対立する新興の某氏に
己が保身の為に擦り寄った。隣国との戦が起こるのは必定であった。
おにちゃは呼び戻され、ある砦の守備を命じられた。
戦は隣国のその砦への攻撃で始まった。
堅牢とはとても言い難い急ごしらえの砦。多数の戦死者を出しながらも、
二度までは隣国の攻撃を食い止めた。
この砦を破られると、主家の居城まで平城が幾つかあるのみ。一挙に隣国
の軍勢が押し寄せてくるのは火を見るより明らかだ。
砦に次々と援軍が送られる。急拵えで砦の補強が行われる。兵糧を運ぶ荷
駄隊が送られる。土地が足りない。石が足りない。人が足りない。

つづく

187 :自夜 :2007/03/21(水) 23:15:35 ID:dNUbfqnM0
前世物語 第二部乱世編 第二十七話 明応 その二

足りない物だらけ。
百姓がかり集められる。百姓が血の出る苦労をして山懐に作られた新田が
掘り起こされ、掘りが掘られ、石垣が積まれる。
荷駄の馬も百姓から取り上げたものだ。慣れない荷を背負わされて、慣れ
ない山道を歩かされ、馬も百姓も倒れる。
秋、刈り入れの季節。砦の作業は休まない、終わらない。
馬をとられ、男手をとられ、それでも女子供総出で刈り入れを行う。たわ
わに実った稲も幾反も幾反も無益に土に還っていく。
我も苦しい、彼も苦しい。この苦しみに勝ち抜いた方に勝利が訪れる。
家老連中はそう激励叱咤する。
少し前まで何の不安もなく恙なく暮らしていた人々。その暮らしを守るた
めの戦い。その戦いが人々の暮らしを、命を壊している。
何のための戦いか。おにちゃは考えた。
三度目の隣国の攻撃。砦の正面から押し寄せる兵隊、返す矢。破られる城
壁、打って出る騎馬。
戦いは一進一退となり、やがて膠着状態になる。

つづく

188 :自夜 :2007/03/21(水) 23:17:39 ID:dNUbfqnM0
前世物語 第二部乱世編 第二十七話 明応 その三

戦況が膠着すれば、守り手の方が苦しい。兵糧は日に日に減る。
山腹を大回りして一軍を敵の背後に送り、補給路を遅うと同時に砦から逆
に打って出るという策が練られる。
おにちゃは敵の背後を突く一隊に回される。
夜陰に紛れ、山中を進軍する。雑兵も兜侍も徒。途中敵の斥候の一団を慎
重に回避する。いや、回避したつもりだった。
夜明け前、敵の補給の荷駄隊を待ち伏せすべく、雑木林に配置している時
に、不意を突かれた。奇襲するつもりが、奇襲にあった。
林の中での乱戦。長物は効かない。刀と刀で切り結ぶ白兵戦。
先手を取られたが、数で勝るおにちゃの軍は何とか敵を押し返そうとして
いた。だが、企みは暴かれた。相当の犠牲、いや全滅を覚悟しても、敵本
体に背後から強襲をかけないと、砦の命運は尽きる。
そう思案したその時、おにちゃは背後から斬られた。
振り向きざまに斬り返す。二人までは倒した。二刀、三刀と斬られる。躰
に力が入らない。意識が混濁してきたころ、味方が駆け寄ってきた。
おにちゃはその場に崩れ落ちた。

第二十八話へつづく

189 :自夜 :2007/03/22(木) 22:45:14 ID:M1FYz7Ju0
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/saku/1164191881/186
だそうです

レスアンカーなしで会話を続けるのもしんどいでしょうが、
まぁ、その節はご協力宜しくお願いします です

あぁ〜、すっきりいい気分

190 :自夜 :2007/03/22(木) 22:47:11 ID:M1FYz7Ju0
前世物語 第二部乱世編 第二十八話 落武 その一

気がつくと、戦いは既に終わっていた。砦が炎上しているのが遠望できる。
負けた。おにちゃはそう思った。
やがて、落ち武者狩りが行われよう。武士に生まれた以上、死ぬことは覚
悟している。しかし、惨敗者として捕らえられ、頸を跳ねられた上晒され
るのは我慢がならない。
さほど、名誉を重んじる時代ではなかったが、生き恥を晒すことは耐えら
れない。おにちゃはよろよろと立ち上がり、歩き出した。山の奥へ。
幾日歩いたのだろう。山を越え、谷を渡り、田畑を深夜に横切る。
田畑から生の野菜や芋を盗み食い、ある山中で洞窟を見つけ、そこで倒れ
込んだ。
「猟師が助けてくれた。村まで運び、疵の手当をし、食事を出してくれた」
運ばれたのは村の寺。こその坊主に手当をしてもらったという。
「拙者は素性を名乗らなかった。落ち武者だ。知られれば捕まる。素性を
 話さなくとも、いずれその筋に知れる。拙者は覚悟を決めた」
ところが追っ手は来なかった。最初のうちは村人にいろいろ聞かれたが、
次第に何も聞かれなくなった。

つづく

191 :自夜 :2007/03/22(木) 22:50:09 ID:M1FYz7Ju0
前世物語 第二部乱世編 第二十八話 落武 その二

食事は近郷の村人が交代で世話をしてくれた。やがて疵も癒え、動けるよ
うになった。おにちゃはとある百姓屋に居候の身となり、野良仕事も手伝
うようになった。
「このまま百姓になるのもいい。その時は心からそう思った」
このまま過去を捨て、平凡な一百姓として生きる。だが、その想いも突然
断たれる。
坊主が侍に連れ去られた。どうやら間者の嫌疑をかけられているらしい。
おにちゃは寺に忍び込み、証拠を漁った。大きな寺ではない。探すところ
はすぐに尽きた。侍達も何もないので早々に寺を放置したのだろう。
諦めて戻りかけた時、ふと仏具を仕舞う道具箱に目が行った。中を漁くる
間は気付かなかったが、箱に紋が彫り込んである。長尾三つ巴。間違いな
い。おにちゃの主家の紋どころ。
聞いたことがある。諸国情報を得るため、間者を主家が放っていること。
いくつもある間者のうち、土地に住み着き、土地の住人になりきる者がい
ること。そういう間者を草と呼ぶこと。
いつの間にか処分された武具を見れば、おにちゃが何処の者かは判る。

つづく

192 :自夜 :2007/03/22(木) 22:53:32 ID:M1FYz7Ju0
前世物語 第二部乱世編 第二十八話 落武 その三

坊主は最初から判っていたのだろう。その坊主が捕まった。
おにちゃはその日のうちに、村から消えた。
「結局、侍は侍として生きるしかないということだ」
追っ手の方が早かった。これだけ早く追っ手が来ると言うことは、坊主が
あっさり白状したに違いなかった。
おにちゃは山に潜み、川に隠れ、谷に潜って追っ手をまいた。
国境を越え、追っ手の心配が無くなってから暫くは流浪をしていたが、風
の便りに主家が守護大名某氏の保護を受け、とある郷で再興を企している
ことを知った。
おにちゃは主家を追った。途中適性の武家が納める土地が幾つかあったが、
なんとか越えた。
おにちゃの最後の試練、それはその姿であった。百姓、いや既に流浪の民
の姿である。これで、はたして判ってくれるか。
幸いにして、おにちゃをよく知る武将も落ちのびており、おにちゃは快く
招き入れられた。てっきり死んだものと思われていた者の帰還である。そ
の夜、歓迎の宴が催された。

第二十九話へつづく

193 :自夜 :2007/03/23(金) 11:30:45 ID:DScqYr3f0
あはははは

ttp://www.37vote.net/2kote/1174576285/

是非、上位入賞を果たしてみてみたいものです

194 :自夜 :2007/03/23(金) 23:00:31 ID:DScqYr3f0
前世物語 第二部乱世編 第二十九話 英雄 その一

おにちゃは英雄であった。負け戦が続き、その勢力はかつての半分にも満
たない。再興を図るものの、意気消沈している者も少なくない。
その中での帰還である。主家当主直々に労いの言葉があった。皆がおにちゃ
の話を聞きたがった。
だが、そんな日も長くは続かなかった。何故、一人生き残った。何故、草
は捕まり、一人逃げ延びた。極めつけは燃える石の調査で、おにちゃがか
の土地に足を踏み入れたことがあるという事実。
疑惑の目が注がれていることには気付いていた。だが、おにちゃには少し
でも疚しいところはない。堂々としていよう。じきに疑いも晴れる。
それよりも、武芸を高めることだ。戦場で自分を守れるのは自分しかいな
い。
ある夜、寝込みを襲われた。刺客の一人を斬り伏せた。家中の者であった。
自分は忠ただそれだけのために、危険を冒して戻ってきた。だが、主家は
その気持ちに応えるつもりはないらしい。
何が忠義だ。
おにちゃは主家を捨てた。

つづく

195 :自夜 :2007/03/23(金) 23:03:48 ID:DScqYr3f0
前世物語 第二部乱世編 第二十九話 英雄 その二

武家の主従から解き放たれ、何をなすべきかを考えた。
自ら浪人となり、剣の極意を極めようと修行に明け暮れる者がいる。これ
はこれでいい。剣は自分を守る。ただ、その先にあるものはなんだろう。
結局は、いい条件で仕官することではないのか。
幸いにして自分には鉱物の知識がある。今すぐに役立たなくとも、いずれ
何年後か、何十年後か、何百年後か、鉱物が全ての人を幸せに導く日が来
るだろう。その為に今調べることは無駄には終わらない。
そう悟るまで一年以上かかった。
おにちゃは山に入り、小屋を建てて住むようになった。一人武芸を高め、
鉱物の調査をし、生きるために獲物を捕った。
それだけではなかなか生活できない。里に下りて、毛皮や乾肉を売り、雑
穀や生活のための細々したものを買った。
燃える石に関係のない土地の情報を侍に売ることもあった。本来ならその
侍が上役の命により直接調査しなければならないものであったから、あり
がたがられたし、いい金になった。
だが、特定の侍との強い結びつきは好ましくない。

つづく

196 :自夜 :2007/03/23(金) 23:06:56 ID:DScqYr3f0
前世物語 第二部乱世編 第二十九話 英雄 その三

おにちゃは時に行方をくらまし、住処を変え、遠方の国まで情報を売りに
行った。
「その帰りだ。雪の峠でちびを拾ったのは」
「落ちてたんじゃない」
岩の壁をよじ登りながらおにちゃは話を続ける。
「あの時ちびは死のうとしていた。そういうのは道端の石ころと同じだ」
「・・・」
「誰が何処で死のうとそんなことには興味はない。だが、ちびは死の意味
 を知るにはあまりに幼すぎた」
「そりゃ、まぁ、あのときはよく判ってなかった」
「だから、拾う気になった」
岩の頂からは意外なほど平坦な地。おにちゃと私は雑木林に分け入った。
「これだ」
目の前に大地から顔を覗かせた黒い岩があった。
「雨が降り、水が谷を削り、地下に眠っていたこいつを掘り起こした。こ
 れだけまとまった露頂は珍しい。普通はもっと判りにくい黒い泥だ」

第三十話へつづく

198 :自夜 :2007/03/24(土) 02:47:23 ID:6L5j8sHF0
>>197 代さん
あははは
加由でなしに、私のオッパイでいいんですか?
それじゃぁ、まず、旦那を倒してきて下さいな

200 :自夜 :2007/03/26(月) 16:27:24 ID:9x4jxa3k0
>>199さん
どうも、有り難うございます

まぁ、占有する気はさらさら無いんですが、私が物語の連載をしていて、他に書き込み
がなければ結果的あるいは事実上の占有状態になっちゃいますからねぇ

これでスレ削除されたら、コテ止めて連載続けるか、ここでの連載はやめるかしかない
かなぁって思いつつ、昨日は娘達と遊んでました。てへ

まぁ、今後も従来通り続けて行きたいと思いますんで、これからもよろしくです

201 :自夜 :2007/03/26(月) 17:44:05 ID:9x4jxa3k0
前世物語 第二部乱世編 第三十話 黒石 その一

おにちゃは燃える石の調査にも私を連れて行くようになった。
「よく見てみろ。罅の入り方が同じ向きだ。この罅の向きが鉱脈が伸びて
 いる方向だ。どのくらいの量が埋まっているかは判らない。おそらくこ
 の山の木を全部燃やした以上の火力を持った分よりは多いだろう。だが、
 この国中で使い出せば、一日か二日で使い尽くす」
よく見ると、確かにその通りだ。まるで泥が固まった岩みたいに板状の層
になって罅が入っている。簡単に剥がれそうだが、人の手くらいではビク
ともしない。
「力では駄目だ。こつこつと叩いていれば、剥がれ落ちる」
石を拾って叩いてみる。叩いているうちに、黒い石の板が剥がれ落ちる。
「黒い石だけでなく、周りの土の色、手触り、石ころの大きさ、色、しっ
 かり見ておけ」
私達は記録を取らない。人々を幸せにするかも知れない燃える石だが、そ
の価値を知れば、私利私欲で狙う連中が出てくる。
どうやって、人々を幸せにするか。その方法が判るまでは、頭の中だけに
刻んでおかなければならない。

つづく

202 :自夜 :2007/03/26(月) 17:47:14 ID:9x4jxa3k0
前世物語 第二部乱世編 第三十話 黒石 その二

黒い石の周りも充分見聞した後、私達は尾根を越えて向こう側に出た。
「ちび、この辺りからだ」
私は足元を注意深く見る。この辺りはごつごつとした礫が多い。そして、
湿った土が続き軽石混じりの砂が多いところに変わる。
「同じ」
「そうだ。先ほど見た峰向こうと同じだ。向こうから地下を通ってここに
 繋がっている」
「だけど、黒い石はない」
「そうだ。燃える石の層もここに繋がるはずだが、峰の下の何処かで途切
 れている」
目をこらしても、黒い欠片どころか粉さえ見えない。
「もし、峰の両側で燃える石の露頂が見つかればどうだ」
「だいたいの量が判る」
「そのとおりだ。ここのように片側しか露頂がない場合は実際に掘ってみ
 ないと判らない。なかなかそのような手間はかけられない。簡単に土の
 中の様子が判る方法があればいいのだが、皆目見当もつかん」

つづく

203 :自夜 :2007/03/26(月) 17:50:21 ID:9x4jxa3k0
前世物語 第二部乱世編 第三十話 黒石 その三

「燃える石は山にしかないん?」
「いや、田畑の下にも埋まっている。泥沼があちこちあるだろう」
「うん」
「泥を乾かすと、火がつくものもある。黒い石の粉が泥と混じっている」
「泥が、燃える」
「そう、そういう沼があるところの下には燃える石が埋まっている」
ここから見えるあの田畑の下にも、この黒く輝く石がある。想像できない。
「そういうところは人目がある。露骨に調査は出来ん。だが、周りの山々
 を調べれば、大体の予想はつく」
おにちゃは他にも土の種類による植物の生え方の差や、燃える石が埋まっ
ている上に障気が吹き出すこともあることなどを私に教える。
「古い文献で鬼火とか書いてあるのはこれに火がついたものだ」
「見たことある?」
「・・・・・・ない」
果酒の元になる木の実を採りながら、小屋に帰る。今の季節、一番木の実
が多い。鳥達も木の実が好物だ。

第三十一話へつづく

207 :自夜 :2007/03/27(火) 10:35:41 ID:hddwQbyB0
>>205さん
ねぇ、ねぇ、何で160って名乗るの止めて、口調も変えたの?

208 :自夜 :2007/03/27(火) 18:47:03 ID:hddwQbyB0
>>204さん
私の場合は自分の Web Site で鬱憤晴らしをしているので、なんとかなってます

というわけで、Web Site の方に鬱憤晴らしも出来る掲示板を設けました
元々は、にちゃんが嫌いな人でも書き込める場を設けようと言う企画だったんですが
ここでにちゃん嫌いな人は是非どうぞ、というのも無意味なんで、どう宣伝しようか
と迷っていたところです

それでは、Web Site の方も更新したのでよろしくです

210 :自夜 :2007/03/27(火) 18:50:34 ID:hddwQbyB0
前世物語 第二部乱世編 第三十一話 策略 その一

鳥?まだ明るい。鳥達が塒に戻る刻じゃない。
「おにちゃ、鳥がいない」
「ふむ、妙だな」
私は木の実の袋をおにちゃに預け、手近な木に登る。周りを見渡す。何も
変わったことはない。目を閉じて気配を探る。何も感じない。
「なにもない。だけど変」
木を降りておにちゃに言う。
「鳥は?」
「向こうの山並みには居る。でも、こっち側には一羽も見えない」
「ふむ。用心に越したことはない。裏手から戻ろう」
私とおにちゃは少し戻り、山の頂の方へ進んだ。尾根沿いに森を抜ければ
周囲の様子をより見ることが出来る。見られる危険も少ない。
かなりの回り道になるが、明るい内には小屋が見えるところまでは行ける。
「ちび」
おにちゃが顎をしゃくる。煙。山懐から薪に火を点けた白い薄い煙。すぐ
止まる。

つづく

211 :自夜 :2007/03/27(火) 18:53:00 ID:hddwQbyB0
前世物語 第二部乱世編 第三十一話 策略 その二

「事情を知らない雑兵が煮炊きしようとしたというところか」
「もう夕餉の刻だもんね」
かなりの軍勢が動いている。問題はその目的。
「常道ならまず少人数で様子を探るところだ」
「でも、いきなり大部隊を差し向けてきた」
「逃げられるのを警戒してる?」
「倒すのが目的でなく、捕らえるのが目的というとこだな」
ならば、どうするか。
「ちびなら、是非捕らえたい場合、どうする?」
「完全に囲む」
「そうだな。ならば、山向こうにも手が伸びていると考えた方がいい。大
 部隊の懸念事項は?」
「兵糧、連絡の齟齬、同士討ち」
「うむ。拙者らは二人だ。向こうがどう考えているか知らないが、少人数
 だとは思っているだろう。背後を突かれる心配はしていない」
「そこを突いてみる?」

つづく

212 :自夜 :2007/03/27(火) 18:55:52 ID:hddwQbyB0
前世物語 第二部乱世編 第三十一話 策略 その三

「うむ。まぁ無理だな。せいぜい粘って兵糧の無駄使いをさせるのが関の
 山だ」
おにちゃは考え込む。なかなかいい手が浮かばない。
「あとは、攪乱」
「少人数にいいようにあしらわれたと知ったら、相手も意地になるだろう。
 その場はいいかも知れんが、後々不利になるな」
おにちゃは先ほどの煙が出た辺りを見る。
「かと言って、他に手はないか」
「義仲みたいなことが出来たら」
「倶利伽羅峠か?あれは作り話だ。いざというとき、獣は信用出来ん」
それもそうだ。折角心が通い合ったかと思っても、獣はどうかすると、予
想のつかない行動をとる。
「さて、相手は何者だろうな」
「相手が違えば策が変わる?」
おにちゃがきょとんとした顔で私を見る。
「そうだな。今は相手の素性など考えても詮無し、か」

第三十二話へつづく

213 :自夜 :2007/03/27(火) 19:00:53 ID:hddwQbyB0
>>209さん
ごめんなさい、物語の投稿が始まっちゃったもんで、返事が後回しになりました

前世の記憶話は既に終了し、今は幽霊時代の記憶を元にした話が連載中です
が、このスレの主旨は、それをネタにして、いや、それでなくてもいいんですけど、
前世・幽霊・妖怪をつまみにお気楽にお話ししましょう、というものです

よかったら、どうぞ

215 :自夜 :2007/03/28(水) 09:53:19 ID:nviY2P5/0
>>214さん
>幽霊だった自分も、「現在の自分」でないという意味では前世に含まれる
そうですね。とすれば、スレタイは当分このままでいいのかな

>連載の行われている雑談スレという認識
まったくもって、そのとおりです

よろしければ、ごゆっくりしていって下さい

220 :自夜 :2007/03/28(水) 18:32:45 ID:nviY2P5/0
まぁ、次スレのスレタイは、まだ先の話しなんで、ゆっくり考えます

それまでは従来通り、第二部と幽霊談義をここで連載、楽しい妖怪ライフ等は
Web Site の方のみに掲載していきますので、それはそれとして、前世・幽霊・妖怪
についてまったりでも殺伐でもいいですけど、ごゆるりとご歓談下さいです

明日(三月二十九日木曜日)は物語の方は勝手ながらお休みします

221 :自夜 :2007/03/28(水) 18:41:04 ID:nviY2P5/0
前世物語 第二部乱世編 第三十二話 攪乱 その一

とにかく三日間は正面の攪乱に努める。山向こうの部隊が浮き足立つよう
であれば、そこから脱出する。山向こうが動かなければ、正面から脱出す
る。
「小屋正面以外には手を出すな。放っとかれれば、相手は余計なことを考
 える。それがこちらの付け入る隙だ」
脱出後、落ち合う場所の確認だけ行い、おにちゃと私は別れた。
小屋に戻ることはない。幸い今年作った果酒は飲み干している。未練はな
い。
命が無事であれば、何回でもやり直せる。それが、長年の経験でおにちゃ
が身につけたもの。そして私がおにちゃから教わったもの。
私は森中を慎重に進み、小屋の見えるところまで出た。相手はまだ隠れた
つもりになっている。まず、見えるところに敵を出さなければいけない。
小屋は一見何事もないように立っている。既に一通りは詮索されたのだろ
う。何もなくて、さぞ気落ちしたことだろう。
私は小石を拾い集め、懐に入れる。そして、髪の毛を数本千切り、拳大の
石に結びつけ、木立の生え具合を測った。

つづく

222 :自夜 :2007/03/28(水) 18:44:46 ID:nviY2P5/0
前世物語 第二部乱世編 第三十二話 攪乱 その二

髪の毛を端を持ち、石を回す。あまり強く回すと音が出る。あまり弱いと
小屋まで届かない。小屋まで五六十間くらいか。頃合いを見て、髪の毛を
手放す。石が音もなく、飛んでいく。
私は傍らの木に登り始めた。暫くして、石が小屋の屋根に当たる。ちょう
ど屋根の上の錘石の縁にあたり、石は屋根をはね回り大きな音を立てる。
私は木の途中で小屋の方を伺う。案の定、小屋の中で騒動が起こっている
気配。一人の雑兵が入り口から外を伺う。きっと、私達が小屋にはいるの
を待ち伏せていたのであろう。
木の枝振りのいい高さに落ち着き、目を閉じる。動揺の気配。小屋の外。
あの草むらの中、あっちの藪の中。
私は枝伝いに木を移動する。慎重に、音を立てないように。
何も急ぐことはない。これからこの辺りは真の闇に向かう。闇は人に恐怖
を与える。それに小石でほんのちょいと後押しすればいい。
おにちゃの気配は近くにない。おそらく最前線の小屋の辺りの部隊と本体
と思しき正面の部隊の間の伝令を待ち伏せしているのだろう。
情報の途絶は恐怖を倍にする。

つづく

223 :自夜 :2007/03/28(水) 18:47:32 ID:nviY2P5/0
前世物語 第二部乱世編 第三十二話 攪乱 その三

最初の動揺は収まった。私は手を出さない。おそらく先ほどの音の原因に
は思い至ってないだろう。疑問は時間と共に不安に変わる。その不安が大
きくなり、行動に出る直前、私は小石を投げる。
今度は屋根の上で小さな音。だが、小屋の中の騒動は先ほどと比べものに
ならないくらい大きい。悲鳴さえ聞こえる。
たまらず、雑兵が一人小屋から飛び出す。草むらから侍が飛び出し、雑兵
を叱責する。
雑兵は渋々小屋に戻り、侍は草むらに戻る。
もう隠れなくていい。あなた達の企ては露見した。
私はゆっくり草むらの侍の方に移動する。小石を四つ手に持つ。
草むらの侍の背後に小石を落とす。侍がビクッとする。二つ目の小石、一
間ほどずらして落とす。侍が振り向く。侍は音がした方を凝視する。その
目線から外れてまた一間先に小石を落とす。侍はすぐさま目線を移す。
侍の右手が刀の柄にかかり、音の方へ躙り寄る。
最後の小石を更に一間先に落とす。その先には別の侍が潜んでいる。
「でやぁぁぁ!」

第三十三話へつづく

226 :自夜 :2007/03/30(金) 18:29:09 ID:9IJ/Kepm0
あのねぇ、おばちゃんじゃなく、おねいさ・・・・・・いえ、何でもありません
楽しみ方はそれぞれですので、好きに楽しんでいって下さい

えっと、明日の土曜日はこれないかもしれません。明後日の日曜日はこれませんです

227 :自夜 :2007/03/30(金) 18:32:17 ID:9IJ/Kepm0
前世物語 第二部乱世編 第三十三話 相討 その一

侍が刀を抜き、草むらに斬りかかる。
がきん。鋼と鋼がぶつかる音、悲鳴、喧噪。
私は懐の小石を他の侍共が隠れていると思しき藪に、林に、そして小屋の
屋根に投げる。
広がる喧噪、そして明らかに肉を断ち切る音。
「ぎゃぁぁぁ」
「静まれ、静まれ」
頭格の侍が小屋の前に顕れ叱責する。もう影でしかない。
徐々に静まる喧噪。
「集まれ」
わらわらと小屋から、草むらから、藪から出てくる。ざっと三十人。半分
は雑兵。
怪我人は腕をやられたようだ。雑兵の一人が手当をする。
侍が数人小声で相談する。二人一組で付近を捜索することに決めたようだ。
残りは小屋の前で円陣を組み、守りの姿勢。
捜索組が私の木の元を通る。無駄無駄。そんな所には野鼠一匹いない。

つづく

228 :自夜 :2007/03/30(金) 18:34:14 ID:9IJ/Kepm0
前世物語 第二部乱世編 第三十三話 相討 その三

酒をぐいと呑み、乾肉をいくつか取る。洞窟の中は心地よいが、出口を塞
がれると万事休す。私は洞窟を出て山の峰に向かう。肌寒いが、四方に視
界が開けている方が安心できる。
峰に着き、適当に下草で塒を作り、横になる。
星空を見上げながら、乾肉を囓る。酒も持ってくればよかった。
小屋の連中はさぞかし腹を空かせ、喉を渇かし、不安に震えているだろう。
伝令はまだか、本隊からの指示はまだか、交代はまだか、いつまで張り付
いていなければならないのか。
小屋の連中は長持ちすまい。さて、本隊はどう動くか、山向こうの部隊は
どう動くか。
なるようにしかならない。そう思うと、気が楽になり、私は眠りに落ちた。
翌、暗いうちに目を覚まし、昨夜の残りの乾肉を食べる。
山向こうは変化はない。私は小屋に引き返す。
再び木に登り、小屋に近づく。再び侍共が小屋の前で相談している。
雑兵共は寝穢くへばり込んでいる。一睡も出来なかったのだろう、皆、動
きが不自然だ。

第三十四話へつづく

229 :自夜 :2007/03/30(金) 18:37:51 ID:9IJ/Kepm0
前世物語 第二部乱世編 第三十三話 相討 その二

この暗さではたとえ見上げても私を見ることはない。そこまで気が回らな
いのか、二人とも上を見ようとしない。
小一時間の捜索が空振りに終わり、捜索組が円陣に加わる。再び相談。
伝令を出して、再度待ち伏せ態勢を採ることに決したようだ。
約半分が小屋に入り、残りが草むらに隠れ、一人が小屋を後にする。
怪我人は小屋に引き入れられたようだ。
連中は糧食を持っていただろうか。雑兵はいくらかは持っていただろう。
侍はどうか、持っていなかったに違いない。いずれにしても、煮炊きせず
に喰えるものはさほどなかろう。そして、小屋の中には僅かしか食料はな
い。水も酒も知れた量。
暗闇でも目を閉じて、気配を探る。伝令の気配。孤独、不安。そして、唐
突に消えた。
連中の飢えに付き合う義理はない。私は用心深く木の上を移動し、小屋か
ら充分離れたところで降りる。
食料庫の洞窟に遠くから石を投げ入れた上で気配を探る。何もない。
乾肉が幾つかと、酒が少々無くなっている。おにちゃだ。

つづく

230 :自夜 :2007/03/30(金) 18:40:47 ID:9IJ/Kepm0
嗚呼、ついにやってしまった。お間抜けな私をどうぞ罵って下さい

その上で、

>>227
>>229
>>228

の順番でお読み下さい。うつだしのうもういっかい・・・

233 :自夜 :2007/04/02(月) 19:37:49 ID:hzUsxIvD0
今度死ぬと多分消えちゃいますので、とりあえず死ぬのはやめました
仮に生まれ変わっても連載再開が数百年後になっちゃうでしょうし・・・

>>231さん
ありがとうさんです

>>232さん
私の同い年でも本当のおばぁちゃんはちらほらいますねぇ
まだ未通女もいますが

234 :自夜 :2007/04/02(月) 23:03:45 ID:hzUsxIvD0
前世物語 第二部乱世編 第三十四話 仕掛 その一

ひぃふぅみぃよぉ、私は頭数を数える。昨夜より二三人少ない。いずれも
伝令に出されて戻らなかったのだろう。
暫くすると侍が雑兵達を纏めている。本隊に引き上げることに意を決した
ようだ。賢明。
周囲が明るくなり、部隊は出発した。怪我人も一緒。
充分に時間をかけ、気配を探った後、私は木を降り、小屋に近づく。
罠。これは猪罠と同じ構造のもの。うっかり踏むと、鋼の歯が足を銜える。
上手く隠したつもりだろうが、土の色の違いで判る。私は罠を土から取り
だし、少しずらしておく。元会った場所は元通りに違う土の色にし、新し
い場所は、簡単には見つからないように土を被せる。
小屋の入り口に仕掛けられているのは鹿罠。入り口に近づくと、矢が飛び
出す仕掛け。罠はそのままに、引き金となる糸を入り口の反対側にも張る。
小屋の周りの木々にも矢を仕掛けていく。立木の様子が変わるが気付くだ
ろうか、多分気付かないだろう。
小屋の中にも仕掛けを作る。木の枝と町人娘の着物で人気を作る。そして
囲炉裏に最後の仕掛け。

つづく

235 :自夜 :2007/04/02(月) 23:07:42 ID:hzUsxIvD0
前世物語 第二部乱世編 第三十四話 仕掛 その二

私の仕掛けで何人か死ぬだろう。直接人を殺めたことはないが、殺らなけ
れば殺られる。躊躇することはない。
足跡を残さないよう小屋を後にした頃、遠くで悲鳴が聞こえた。
おにちゃは人を斬るのに躊躇うことがあるのだろうか。
一旦本隊とは反対方向の谷に降り、沢伝いに移動する。水音は足音を消し、
足跡を消す。私は周囲にのみ気を配りながら進む。
かなり下って、徐に谷から出、尾根を目指す。尾根の向こうは本隊が布陣
しているはず。
尾根に着く。いるいる。うじゃうじゃと。かなりの大部隊。
周囲に目を配る。およそ半里先の谷、何人かが倒れている。おにちゃは思っ
たより敵の本隊近くで猟をしていたようだ。本隊に近づき安心したところ
を襲いかかる。理にはかなっているが、危険でもある。
本隊は目立った動きは見せていないものの、混乱している様子が判る。
おにちゃが討ち漏らした兵が帰隊したのだろう。討ち漏らした?ちがう。
わざと幾人かを逃がしたのだ。
私達の目的は、殺戮ではない。

つづく

236 :自夜 :2007/04/02(月) 23:10:33 ID:hzUsxIvD0
前世物語 第二部乱世編 第三十四話 仕掛 その三

本隊に直接手を出すのはまだ先。それまでに、私は尾根で弓矢作りをする。
狩猟用に即席で作る弓は小振りだが、それでは届かない。私は立木をその
まま利用して大振りの弓を作る。
矢は木の枝を削って作る。鏃が欲しいところだが、小石で代用する。
午の刻を回るころには相当数の矢も出来た。
私は小屋から持ち出した乾飯を直接囓る。旨くはないが、腹には貯まる。
極微かな地響きを感じ、私は小屋の方を見る。微かな煙が上がる。本隊か
らは尾根が邪魔で見えないはずだ。
交代で出された部隊が何人かは知らないが、何人かは小屋めがけて飛ぶ矢
に射抜かれ、何人かは猪罠で身動き出来ず、最後の仕掛けの恐怖を味わっ
ただろう。
最後の仕掛け。そう。囲炉裏に吊した鍋一杯に入れた燃える石の粉。紐に
引かれ、残り火の上にぶちまけられる多量の粉は、まるで蒙古が使ったと
いう砲のように周囲をはじき飛ばして燃える。
南蛮から渡来した鉄砲に使う火薬もそうだと聞く。
乾飯を食べ終えた私は塒を作り、躰を休めて目を閉じた。

第三十五話へつづく

242 :自夜 :2007/04/03(火) 18:53:05 ID:Q31qwNrH0
>>237さん
本人に確認してみました。本名が出なければ書いてもいいそうです
にちゃんで、と言った瞬間に絶交を言い渡されてしまいました    おろおろ

>>238さん
とある名家のお嬢さんでした・・・じゃなかった・・・です
仕事はされてますが、私ら庶民のように通勤しなくてもいいご身分です

ちょっとしか、羨ましくありません

243 :自夜 :2007/04/03(火) 19:04:45 ID:Q31qwNrH0
>>239さん、>>240さん、>>241さん
まとめてレスで済みません

・死んで幽霊になるのは全体の一厘くらい(人の場合で)
・死んで幽霊にならなければ、所謂思念若しくは魂は消える
・幽霊から転生するのは半分くらい、転生しなければいずれ消える
・転生はともかく、「輪廻」「成仏」「あの世」はない

まぁ、既に何回か書いてきたことですけどね
あと、ついでに言えば、転生で記憶などの転写が完全に行われるとは限らない、ですか

245 :自夜 :2007/04/03(火) 21:40:31 ID:Q31qwNrH0
>>244さん
宗教的、というより、人文科学的な意味でのあの世の存在は否定しませんがね
まぁ、それが宗教であったり、哲学であったり、心理学であったり、民俗学であったり
は人によるんでしょうけど

私は経験上、幽霊や転生、思念の消失などは自然科学の範囲でとらえています
その意味では消失した思念の行き先としてのあの世は定義できても、あの世に
逝ってしまった思念はこの世に帰ってきませんので、存在確認不可能、すなわち
ないのと一緒です

私の事例では幽霊時代の記憶と転生まで約二百年の空白があるわけですが、この空白期間
をあの世(霊界)での転生準備期間と説明する方もいましたが、実は転生するまでは元気に
幽霊やってたのが、転生する際に記憶の転送が完全に行われず、約二百年分の記憶が消えて
しまったと考える方が私にはしっくりきます

ぷっつり途切れているんですよね。私の幽霊時代の記憶。映画が途中で止まったみたいに
他の幽霊さんが消えたり転生したりする場面にも幾度も立ち会いましたが、そういう記憶
が私の場合にはないんです

246 :自夜 :2007/04/03(火) 22:51:56 ID:Q31qwNrH0
前世物語 第二部乱世編 第三十五話 夜襲 その一

夢を見ていたような気がする。どんな夢だかはよくは覚えていない。
夢の中で、私は平凡な百姓娘で、村の優男に憧れを抱いていた。
目が覚めると空は夕暮れ。そして、平凡な百姓娘ではないことを思い出す。
尾根から本隊の様子をうかがう。小屋での異変は気付いていないようだ。
昼間作った弓矢の具合を確かめ、私は暗くなるのを待つ。
鎮西八郎為朝は三人張の弓で数里先を射抜いたというが、私にそんな力は
ない。それでも立木の弓をいいことに、全身の力を込めて矢を引き斜め上
に放つ。矢はひゅんと音をたて、星空に消えていく。
耳を澄ましていると、暫く経って矢が着地する音が聞こえる。かなり奥手
の方だが、陣内についたようだ。
それでいい。斜め上に放たれた矢は真っ逆さまに落ちる。何処から飛んで
きたか判らない。
先ほどより心持ち上向きに二矢目を放つ。雑兵の群れの側にでも落ちたの
だろう、ざわめきが感じられる。続けて三矢目、四矢目。そして五矢目。
鏃代わりの小石が頭蓋を砕く音。陣内は騒然となる。
更に五矢、違う場所に打ち込む。残念ながら、直撃はない。

つづく

247 :自夜 :2007/04/03(火) 22:54:54 ID:Q31qwNrH0
前世物語 第二部乱世編 第三十五話 夜襲 その二

陣内は蜂の巣をつついたような騒ぎ。こうなっては暗闇はますます騒ぎを
大きくする。たまらず幾つか松明に火がともされる、が、火は格好の的に
なると悟ったか、すぐに消されるものもある。
安心していい。弓は尾根の反対側で直接は狙えないし、それほど立派な弓
矢じゃない。その代わり陣内からは見えないし、何処に矢が落ちるか判ら
ない。
騒ぎが陣内全体に広がった頃、私は更に三本の矢を放つ。その内の一本が
鋼に当たる。兜にでも当たったか。この落差だ。無事では済まない。
案の定、騒ぎが更に大きくなる。
びしゅっ、鏃が肉を射抜く音。私の矢ではない。おにちゃだ。
何処かは判らないが、おにちゃが矢を射ている。おそらくどこかの食料庫
の洞穴に隠していた弓矢を使っているのだろう。
私はその矢に呼応するように、更に矢を放つ。
半刻も経たないうちに、矢が尽きた。おにちゃの矢も尽きたようだ。
だが、充分だ。陣内の混乱は当分収まりそうにない。
私は弓を分解し、谷に降りた。

つづく

248 :自夜 :2007/04/03(火) 22:58:30 ID:Q31qwNrH0
前世物語 第二部乱世編 第三十五話 夜襲 その三

沢伝いに登り、小屋を目指す。小屋に近づいて、驚いた。
地形が変わっている。
かつて小屋があった場所を中心に、下草が、灌木が、侍共が外になぎ払わ
れ、小屋の辺りは穴になっているようだ。小屋は跡形もない。
燃える石の粉に火薬と同じ程度の威力があるのか。
火薬を作るには炭、硫黄、硝石が要るという。硝石はこの国では採れない。
全て南蛮から運び込むものと聞いている。
硝石を使わない火薬。私は初めて侍共の真剣さが判ったような気がする。
侍共に生きているものはいない。皆、ぼろぼろになり倒れている。
中には矢が刺さったままの者もいる。
これだけ大きく変わっていると、小屋の跡を簡単に偽装するわけにもいか
ない。私は諦めて立ち去りかけ、小屋から少し離れた木立に上半身もたれ
かかった屍の異様さに気が付いた。
頸がない。いや、目をこらすと傍らに頸が落ちている。
暗がりの中、近寄って切断面を調べる。明らかに刀傷。
おにちゃだ。おにちゃが斬ったんだ。

第三十六話へつづく

250 :自夜 :2007/04/04(水) 12:54:46 ID:/Fq378Cy0
>>249さん
えっと、「あの世」についてでいいんですかね
質問の意図が判りかねるところもありますが、「あの世」のことのつもりで回答します

問:自然科学の範囲で無いものをどう捉えるの?
答:自然科学の範囲かどうかの検討がまず必要でしょう
 一、幽霊になることの検討
  私の場合は生前の記憶と幽霊の記憶は連続して存在します
  また、生命体が死ぬ時に消えてしまう場合も幽霊になる場合も目撃していますし、
  生まれたての幽霊とのコンタクトもしています
  従って、現代の自然科学で全て説明可能かどうかは抜きにして、幽霊になる、即ち
  生命体が死ぬ際に生命体の中にあった思念(若しくは魂などと表現されるもの、以下略)
  が生命体から離れ継続して存在するという現象は実際に存在する現象であり、
  自然科学の範囲です
  死ぬ時に消えてしまう、即ち、生命体が死ぬ際に生命体の中にあった思念が生命体から
  離れた後、継続して存在することが出来ずに放散してしまう現象も実際に存在する現象
  であり、自然科学の範囲です
 二、転生の検討
  私は幽霊が転生する場面も目撃しています。また、転生後の生命体が確かに前世の記憶
  をなんらかの形で持っていることも目撃という形で確かめています
  従って、転生する、すなわち幽霊として存続していた思念が生命体の中に記憶として転写
  されるという現象は実際に存在する現象であり、自然科学の範囲です

つづく

251 :自夜 :2007/04/04(水) 12:56:33 ID:/Fq378Cy0
つづき

 三、幽霊が消えることの検討
  幽霊の形で存続していた思念は転生の際にその存続を維持できなくなり放散する現象、また
  転生しなくてもある期間幽霊の形で存続していた思念もやがてその存続を維持できなくなり
  放散する現象も目撃しており、こういう所謂幽霊が消える現象も実際に存在する現象で、
  自然科学の範囲です
 四、あの世の検討
  以上示した現象は現象の目撃があり、それが実際に存在する現象として自然科学の範囲としたものです
  一方、あの世とは目撃でなく概念が先行しているものです
  従って、その概念が実際に存在する現象なのかどうかを検討する前に、しっかりした定義が必要に
  なるでしょう
  どう定義してもいいんですが、死んだ際や幽霊が消える際に放散する思念が逝くところと私は定義
  しました
  あの世に逝った思念がなんらかの方法で転生するのであれば、その転生を糸口にしてその現象が
  実際に存在するかどうかを検討することが出来ます
  また、なんらかの方法で生命体あるいは幽霊があの世と接触することが可能なら、あの世が実際に存在
  するかどうかを検討することが出来ます
  ところが、私の経験ならびに信頼性が高いと思われる転生事例からは、そのような可能性は見いだせません
  従って、あの世が実際に存在するもので自然科学の範囲としても、この世となんら関わり合いのない世界
  ということになりますので、それを考えるのは無意味ということになります

つづく

252 :自夜 :2007/04/04(水) 12:58:08 ID:/Fq378Cy0
つづき

 五、人文科学の範囲
  さて、自然科学の範囲でないものは、人文科学で科学的アプローチは可能です
  正確じゃないですね。自然科学で科学的アプローチを行うのとは別に、普通の
  物事は人文科学でも科学的アプローチが可能です
  例えば、幽霊。上で述べたように幽霊の存在についての科学的アプローチは自然科学の
  範囲で可能ですが、人文科学の範囲でも可能です
  幽霊の正体を物理現象としてとらえる手法も可能なら、民俗学的にとらえる手法も可能
  ということです
  ちなみに、民俗学での研究によると、太古の幽霊の概念は荒魂であり、世界的に
  かなり不偏な概念だそうです。つまり、原始的な宗教発生以前に既に幽霊は認識されていた
  ということですね
  話を戻しますが、あの世については自然科学の範囲では考えても無意味=ないのと一緒
  としましたが、人文科学の範囲では次のように捉えることができるでしょう
  ・ひたすら教祖、あるいは教義を信じる(ここまでは宗教)ようなことを
   している集団のあの世を含めた世界観やその世界観に至った歴史、また信じることによる
   効用などを研究する(宗教学的アプローチ)
  ・あの世の存在意義などを研究する(哲学的アプローチ)
  ・あの世を信じている人と信じていない人の行動様式を研究したり、どのような情報が
   あの世を信じるあるいは信じない原因となったかを研究する(心理学的アプローチ)
  ・あの世があるとして行われた、あるいは行われている政治体制などを研究する
   (社会学的アプローチ)
  ・あの世の概念ならびにその概念に基づく風習などの歴史的変遷を研究する(民俗学的アプローチ)
  人文科学系には疎いので、「的」を付けています

つづく

253 :自夜 :2007/04/04(水) 13:00:08 ID:/Fq378Cy0
つづき

問:自分で結論として無いのと同義であると書いているように思えるのですが・・・
答:「考えても無意味」というのと「無い」というのは同義ですね
  強いて言うなら「考えても無意味」というのは存在の可能性は否定していません
  可能性は否定しませんが、あってもなくてもこの世には物理的な影響ありません
  そういう意味で>>245では「ないのと一緒」と書きました
  まぁ、よくこういう書き方をするんで、ずるいと言われるんですがね
  あの世があるとして、それはどういう世界なのか
  そう考えるのは可能だと思いますし、考えるのは自由です
  ただ、私はあの世には興味ありませんから考えません
  私にとって興味があるのは、私の前世の記憶と幽霊だった頃の記憶、これはいったい
  何なのだ、ということだけです

最後になりましたが、
問:一つ聞いていいですよね?
答:何でもどうぞ
  何でも答えるかどうかは保証しかねますが

こんなもんで、どうでしょう

257 :自夜 :2007/04/04(水) 19:47:13 ID:/Fq378Cy0
>>254さん、>>255さん
その二行は>>250-253の要約にはなり得ますが、>>249さんへの回答にはなり得ないと思いますがどうでしょう

もっとも、その二行は私の言いたいこととは異なるので、要約にはならないんですがね
まだ、>>254さんの某スレへの当スレ>>243-245のリンクの方が私の言いたいことが伝わるので助かります

258 :自夜 :2007/04/04(水) 19:51:13 ID:/Fq378Cy0
>>256さん
「突っ込み所満載」という突っ込みはよく受けますが、
具体的なまともな突っ込みにお目にかかったことが残念ながら、ありません

そう言う訳で、>>all
具体的なまともな突っ込みをお待ちしております

260 :自夜 :2007/04/04(水) 21:12:26 ID:/Fq378Cy0
>>259さん
最初に質問に答えておきます

問:自夜さんの言う「自然科学」と「科学的方法」とは、どういった定義なのでしょう
答:自然科学や科学的方法自体が研究対象ではないので私が定義することではありません
  意味合いとしては常識的な意味合いで使ってます
  つまり、自然科学=自然の現象を研究する学問
  なお、前スレも含めて本スレで私は「科学的方法」という言葉は私は一度も使っておりません
  従って、科学的方法の意味合いについてはお答えしません

さて、上記「科学的方法」もそうですが、「長々しくわけのわからん」など事実でない記述が>>259さん
の書き込みにはあります。>>249さんの質問の対象となる私の発言は>>245の「あの世は定義できても・・・
中略・・・ないのと一緒です」だけだと思いますが
悪意かどうかはさておいて、今後ともこのような事実でない書き込みが続くようでしたら、私は相手にしません

263 :自夜 :2007/04/04(水) 23:09:02 ID:/Fq378Cy0
>>261 249さん
別に荒れているとは思ってませんし、261=249さんのせいでもありませんので
気になさらなくてもいいですよ

それより、私の回答でよろしかったでしょうか?
納得されれば、それでよし。どうでもよくなったのであれば、それでもよし
疑問が解消されないのであれば、何でも聞いて下さい
もし、回答が的はずれなものであれば、その旨指摘して頂くと助かります

265 :自夜 :2007/04/04(水) 23:51:33 ID:/Fq378Cy0
>>262=264さん
ん〜、その「わかりにくい」の具体的な箇所を指摘して頂けると回答もしやすいですし、
今後の私の書き込みの参考にもなるんですがね
「長々」については>>245の書き込みは、私にしては短い方なんですが・・・

さて、「経験がないからわからん興味もない」に関してですが、
私は自分の経験ならびに他の幽霊さんの目撃などから「あの世」はないと言ってますし
人文科学的にあの世を考察することは可能だが、それには私は興味はないと言っている
わけです。従って、>>262さんがそれとは異なる要約をしたということは、(失礼ながら)
>>262さんの読み方が悪いか、私の書き方が悪いかのどちらかなんでしょう

さて、幽霊を普通の自然の現象として捉えるのはオカ板で前世話を始める前からの私のスタンス
ですから、唐突に今回自然科学という言葉を出した訳じゃないんですがね(「自然科学」という用語
自体は本スレでは>>245が初出ですが、これは単に人文科学との対比で使っただけで、最近では科学
=自然科学と勘違いする人が多いので、意識的に使い分けるようにしています)

ところで、>>264にあるように事実をいっこヌルーすると、「」しか残りませんが、いいんですか?

266 :自夜 :2007/04/04(水) 23:53:43 ID:/Fq378Cy0
前世物語 第二部乱世編 第三十六話 退却 その一

多分、瀕死でも生きていたのだろう。そしておにちゃに問いつめられ、素
性を明らかにした。おにちゃは敵の正体を知った。
どうでもいいとは思っていたが、気になることは気になる。さりとて、打
つ手はない。
私は洞窟に寄り、昨夜の峰に向かう。
乾肉を食べ、酒を呑み、乾飯に食らいつく頃、夜が明けてきた。
御来光を仰ぎながら呑むのは初めてだ。
山向こうは変化はない。私は昨日の塒に横になり、目を閉じた。
何かおかしい。
私は飛び起きて、周囲を見回す。何もおかしな所はない。
目を閉じて気配を見る。何もない。でも、何かおかしい。
私は別の尾根伝いに敵の本隊の方に移動する。
昨晩の騒動が嘘みたいに本隊は落ち着いている。軍隊らしく、きびきびと
動き、よく統制がとれている様が遠目にも判る。もはや、隠れて行動しよ
うとはしていない。
本隊は午の刻までには撤退を開始した。

つづく

267 :自夜 :2007/04/04(水) 23:56:00 ID:/Fq378Cy0
前世物語 第二部乱世編 第三十六話 退却 その二

どういう事だろう。無視できない数の死傷者を出しておきながら、また、
何一つ戦果を上げずに撤退することがありえるのだろうか。
でも、現実には目の前で本隊は幾つかの分隊に別れて山を整然と降りてい
る。こういう事態は想定しなかった。
おにちゃと私の戦略はこうだ。三日間、とにかく本隊並びに小屋分隊への
攪乱を行う。まだ攪乱が続くと見せかけて、本隊の裏に回り脱出する。
もし、山向こうの部隊が動くようであれば、山向こうの部隊の裏に回り脱
出する。
今、本隊が動いたと言うことは、一番に警戒しなければならないのは罠。
本隊撤収の後にのこのこ現れるとまず間違いなく待ち伏せにあって捕まる。
山向こうの部隊の背後に回り込むか?もし、山向こうの部隊も撤退するよ
うであれば、そちらにも罠が仕掛けられていると考えてよい。
今度はこちらが疑心暗鬼に囚われる番。
私は危険を承知で木に登り、枝伝いに本隊に近づいた。撤退の真意が知り
たい。
私の下、山道を二列縦隊で雑兵が進む。侍は徒もあれば騎馬もいる。

つづく

268 :自夜 :2007/04/04(水) 23:57:59 ID:/Fq378Cy0
前世物語 第二部乱世編 第三十六話 退却 その三

殿は侍の騎馬団。ざっと七八騎。皆、厳めしい甲冑姿。いや、真ん中の一
人は派手な桃色の着流し。それでも二本差し。侍だ。
臼井。
騎馬団が足下を通り過ぎる。
「まったく、おれに内緒で何やってんだか。こんな大部隊で刈り上げよう
 なんて、できるわけないだろ、頭悪いねぇ」
周りの騎馬侍がばつの悪そうな顔をする。
「案の定、いいようにやられちゃってさぁ。これで、すっかり警戒されちゃっ
 たよ。一からやり直しだね」
臼井がどれだけ偉いのかは知らない。だが、これだけの大部隊を自由に動
かせるのは確かだ。臼井は初めから私達の素性を知っていた?
騎馬団が通り過ぎて暫くして、私は又峰に向かった。
山向こうの部隊も整然と撤退している。臼井は包囲を解いた。
おにちゃはこの事態をどう見るだろう。今山を降りるのは危険だ。それだ
けは、はっきりしている。
だが、この山にはもう住めない。臼井はきっぱり言った。やり直しだと。

第三十七話へつづく

274 :自夜 :2007/04/05(木) 20:08:24 ID:BC6Zz2fq0
>>269-271さん
問:こういう類いのわかりにくさなので、具体的にどこ、と言われると困ります
答:(問ではないですけど、この形式で答えます)
  それはあなたの独か威力が足りない、と言いたいところですが、私の文章が下手なんでしょう
  判りやすく書くように心がけて入るんですがね
  下手だと自覚しているから、こんなところで書いているわけでもあるんですが

問:「経験が(ry」と要約したのですが…マチガッテマシタ?
答:>>265で既に回答してますが、
  >私は自分の経験ならびに他の幽霊さんの目撃などから「あの世」はないと言ってますし
  >人文科学的にあの世を考察することは可能だが、それには私は興味はないと言っているわけです
  を「あの世については経験がないから知らん興味もない」とするのを要約というのは無理でしょう
  使っている単語を適当に拾って繋げただけとしか思えませんが
  もちろん、あなたがそういうふうに受け取るのは自由ですが、さも私の書き込みが要約どおりで
  あるように書き込むのは本人に悪意がなくても私が迷惑しますので、しないで下さいね
  (今までの書き込みは疑問形なんで、かまわないです)

問:「自然科学」的存在のあの世はある、「かもしれない」とも取れますが('A`)
答:取れますが、でなしに、そう書いてます

つづく

275 :自夜 :2007/04/05(木) 20:11:02 ID:BC6Zz2fq0
つづき

問:自然科学という言葉の初出はどうでもいいんですが('A`)
答:(問ではないですけど、この形式で反論します)
  それでは、>>262での
  >それを自然科学だのという用語を持ち出したので、わかりにくくなった
  というのを訂正して頂けません?
  こういう言われ方されたら、今回初めて使った用語じゃないですよ、前々から使ってますよ
  って言いたくなるのが普通でしょ
  それを「どうでもいい」と言われたら怒り出す人がいても不思議でないと思いますけどねぇ

問:自夜さんの中の科学的アプローチってどんな感じなんでしょうか('A`)
答:前スレ>>865でがいしゅつです
  ●やモリタポを持っていない方でも私の Web Site の「三悪漫遊記」から見れます
  前スレは弐千六年書込み開始分にあります
  三悪漫遊記は携帯用はないんで、携帯からどうしても見たいという場合は未公開部分ですが、以下をどうぞ
  http://anime.geocities.jp/ojiya1539/yuureidangi/dai009kagakumesu.txt

問:事実→の代わりに適当と思われる単語を放り込んでおいてください('A`)
答:(問ではないですけど、この形式で答えます)
  いやです。ご自分の発言は、ご自分で責任を取って下さい

276 :自夜 :2007/04/05(木) 20:14:22 ID:BC6Zz2fq0
>>272さん
蛇足があっても不足がなければ回答としては外れでなかったということでいいですかね

>>272さん、>>273さん
科学的などの用語に関してお二方のご要望があることは理解してますが、
がいしゅつの事項に加え、

・言葉が柔らかいと言え、理由も明示せず人の発言を制限しようとしている
・要望に応えると、現在連載中の幽霊談義、科学メスのはなし が連載できなくなる
・上記連載の容認意見を持つ人がいる
・特殊な用語でなく、特に説明を要しないごく普通の用語である

の理由により、ご要望には応じられませんので、悪しからず です

277 :自夜 :2007/04/05(木) 22:00:08 ID:BC6Zz2fq0
前世物語 第二部乱世編 第三十七話 洞窟 その一

私はここのところ使っていなかった小屋から一番離れた洞窟へ向かう。
この洞窟は、最も山の険しいところにあり、最も深い洞窟。
単なる穴でなく、奥は幾つにも道分かれし、上から、下から、石の氷柱が
生えている広間がある。
奥は寒く、夏でも氷が溶けない。
私達はこの洞窟の奥を生肉の保存として使っていたが、入り口近くには普
通に乾肉、雑穀類など、そして武器を置いている。
例によって充分確かめた後、私は洞窟に入る。入り口は狭く、中は暗い。
私は手探りで食料を確かめる。おにちゃが来た様子はない。
暫く山に籠もるにしろ、脱出するにしろ、当分食料を得る手段はないだろ
う。私は乾肉、乾飯など嵩張らないものを中心に袋に詰め込み、腰に巻く。
酒も持っていきたいが、我慢する。代わりに銭を少々懐に入れる。
それまで腰に差していた木刀を置き、長脇差しを腰に差す。大刀はちょっ
と迷ったが、袈裟懸けに背負う。
準備は整った。私は洞窟を出ようとして、脚が止まる。
「また、今日は一段と勇ましい出で立ちだねぇ、おじょうさん」

つづく

278 :自夜 :2007/04/05(木) 22:03:05 ID:BC6Zz2fq0
前世物語 第二部乱世編 第三十七話 洞窟 その二

洞窟の入り口にいつの間にか人の影。顔は見えないが、聞き間違いようが
ないふざけた口調。
「臼井」
「覚えてくれたとは嬉しいねぇ。中で待ってようかとも思ったんだがね、
 思いの外寒いんで、外で待たせてもらった。おじょうさんも出てきな。
 風邪ひくよ」
私は無言で臼井を睨み付ける。真意はわからないが、今は敵だ。
「そんなに怖い顔しなさんな。なにもとって喰おうって訳じゃない。おに
 いさんも出てきたらどうだい。そんな足場の悪いところにじっとしてい
 るのは難儀だろう?」
おにちゃがいる?ここからでは見通しが効かない。だが、臼井に近づくの
は嫌だ。
臼井はおにちゃがいると思しき方を向く。臼井の横顔。緊張もなにもない、
相変わらずのにやにや顔。
「そうそう、そうやって素直に出てきてくれると助かるわ。うちのもんが
 いろいろ迷惑かけたみたいだね。まず謝ろうかね」

つづく

279 :自夜 :2007/04/05(木) 22:06:27 ID:BC6Zz2fq0
前世物語 第二部乱世編 第三十七話 洞窟 その三

「貴様らの目的は何だ」
おにちゃの声だ。おにちゃは来ていた。
「目的ぃ?あっはっは。そりゃ、あんたの方がよくご存じでしょ」
「なにぃ」
「それよりも、おにいさん。あんた、相棒をもっと信じてあげなくっちゃ。
 せっかく別行動してるのに、心配だからってついて回っちゃ意味無いで
 しょ」
おにちゃの顔が見たい。でも動けない。
「それが、あんたの命取りになるぜ」
おにちゃが動く気配。柄に手をかけた?
「おっと待った待った。おれは別にあんたと斬り合いしにきたんじゃない。
 言うなら勧誘だ。あんたの知識ごと焼石のことを買いたい。どうだい、
 いい条件で優遇するぜ。おれより偉くってのは無理だがね」
おにちゃを召し抱える?つい先刻まで殺しても構わない態度だったところ
が?
私は怒りがこみ上げた。

第三十八話へつづく

290 :自夜 :2007/04/07(土) 09:50:10 ID:C60te8Lp0
>>287さん、>>289さん
昨日(金曜日)は予告なしにお休みして済みませんでした
お詫びというわけでもないですが、今日は二話分、うぷしますね
二話目の第三十九話は、夕方くらいになるかもしれませんが

291 :自夜 :2007/04/07(土) 09:52:04 ID:C60te8Lp0
前世物語 第二部乱世編 第三十八話 転落 その一

「拙者は侍の世界から足を洗った。二度と戻る気はない」
「何があったか知らねぇけどよ、じゃぁ何で侍の格好してるんだい?何で
 侍の格好して、一文にもならない焼石のこと調べてるんだい?」
「・・・それは・・・」
「なぁ、悪いことは言わねぇって。千石でどうだ。千石っていやぁ、大身
 だ。侍大将だ。場合によってはもっと考えてもいい」
刀を抜く音。臼井が後退りする。
「あぁ、もぅ、あんた短気だなぁ。何が不満なのかね」
洞窟の入り口におにちゃがちらりと見える。私は入り口に駆け寄り、長脇
差しに手をかける。
おにちゃは八相の構えで臼井に躙り寄る。臼井は微妙な間合いで後退する。
「まず、話をしようや。なぁ。そんなに短気じゃ長生きできないぜ」
おにちゃが白井に顔を向けたまま背後の私に囁く。
「ちび、抜くな。逃げろ」
そうか、私が洞窟から出れるよう、おにちゃは刀を抜いたのだ。
一、二、私は心の中で数え、三で向きを変え走り出す。

つづく

292 :自夜 :2007/04/07(土) 09:56:03 ID:C60te8Lp0
前世物語 第二部乱世編 第三十八話 転落 その二

険しい山道。獣道。時に森を抜け、岩を登り、藪を突きる。
小柄であることを幸いに、私は一気に駆け抜ける。後ろからおにちゃが追っ
てくる気配はあるが、徐々に離れる。そう。今、臼井と戦う必要はない。
ふと寒気を感じ、立ち止まる。臼井の言うように風邪でも引いたか?
そんな筈はない。氷の洞窟にいたのは僅かだし、秋空に野宿が続いたとは
言え、ちゃんと塒をこしらえて寝た。熱もない。だが、この脊椎からくる
寒気は何だろう。
私は頭を振る。大丈夫。すっきりしている。
おにちゃが近づく気配。臼井の気配はしない。私は再び走り出す。
岩肌の細い道をましらのように駆け抜け、眼前に人影を見る。
両の腕を広げ、通せんぼするような透き通った白い影、冷たい目。
私は足を踏み外す。
「かかちゃ」
夢の中の母の冷たい顔。私は勢いで、肩を岩にぶつけ、宙に舞う。
視界をよぎる小道に母の姿はない。一転して谷底を見る。再び視界に空。
そして、私は岩の上に背中から落ちる。背負った大刀が折れる。

つづく

293 :自夜 :2007/04/07(土) 09:58:57 ID:C60te8Lp0
前世物語 第二部乱世編 第三十八話 転落 その三

全身が硬直して自ら動けない。悲鳴を上げようとし、口中に鉄の味が広が
る。血が口から溢れ、耳朶を濡らす。
霞がかかった視界に遠く先刻の小道。甲冑侍が二人、谷を覗き込む。
そこに抜刀したおにちゃが斬りかかる。たちまち二人を斬り伏せ、おにちゃ
が谷底を覗く。
「ちびーぃ」
大丈夫、私はまだ生きている。口が動かない。
「ちびーぃ」
おにちゃが駆けるように降りてくる。視界がぐらりと揺れ、遠くの山並み
がよぎると谷底が写る。私は谷底に落ちている。
「ちびーぃ」
遠ざかるおにちゃの声。
幾度か躰を何処かにぶつけ、私は冷たい水に落ちる。
痛くはない。冷たくもない。このまま死ぬのだろうか。それでもいい。死
ぬのは思ったより楽なことかも知れない。
そして、私は何も考えられなくなった。

第三十九話へつづく

294 :自夜 :2007/04/07(土) 10:04:49 ID:C60te8Lp0
>>285さん
あなたのような口調で書き込みなさる方が、いままでに何人もいましたが、私が真面目に
レスをしても、まともな会話になったためしがありません
あなたがそうとはいいませんが、今回は黙殺致します

よろしければ、どういうのが「自夜語」なのかを具体的に指摘の上、再度書き込んで下さい

296 :自夜 :2007/04/07(土) 11:08:58 ID:C60te8Lp0
>>295さん
誰かの名誉を傷つけるとか、公共の福祉に反するとかそういうのならともかく、
人の書き方を制限するような発言を至極真っ当というあなたが私には理解できません

ご要望のとおり直球で返します。以後、同様の意見の書き込みは私は黙殺させて頂きます

298 :自夜 :2007/04/07(土) 17:31:39 ID:C60te8Lp0
>>297さん
学術用語なんてのは学会が違えば違ったり、重複していたり、
また、研究者によっても違うことは珍しい話ではなく、
学会誌の投稿規定に当学会の用語集の用語を使用することと書いておきながら、
その投稿規定に用語集に反した用語を使っている場合すらあります
私自身は学会は三つにしか所属しておりませんが、似たような分野でありながら
三つの学会で用語が異なる場合も多く、同一主題の論文でも学会によって異なる用語
で書くこともよくあります(その時の主査が誰かによっても異なったりします)
そのような事実も認識せず、さも科学者の世界が完璧であるように思いこんだあげく、
具体的に私の書き込みのどこが貶めているかも指摘せずに言論封殺にも繋がり
かねない意見のどこに正当性があるのでしょうね

ちょっと変化球でしたかね。直球で言うと

知らんくせに偉そうなこと言うな

になるんですが、こう書くと私が言論封殺してしまいますので、書きません

299 :自夜 :2007/04/07(土) 18:07:03 ID:C60te8Lp0
前世物語 第二部乱世編 第三十九話 旅立 その一

胸が重い。息を吸うと締め付けられる。息を吐くと、軋む。
ここは何処だろう。今、何時だろう。
そっと目を開く。霞がかかったままの視界。天井張りのない屋根が灯を受
けてゆらゆら揺れる。
「まーだぁ、うごかんほーがーえぇ」
誰?聞いたことがある声。口に棒のようなものが触れる。
「かゆじるじゃぁ。なんばんとらいのとうをいれとー。これくーときゃー
 はらはへーても、しぬこたーねー」
甘いがしみる。
「ぬしはうんがえーのー。かたなーせおーとらんかったらー、せきついや
 られーてー、いまごろはー、わしのきょーでもきーちょーでよー」
思い出してきた。私は崖から落ちた。
「こっちのごじんはー、うんがねーのー。ずがいをーやられーちょー」
おにちゃもいるのか?私は起きあがろうとして、呻いた。
「あばらやられちょーけーのー、うごきとーても、うごけんでーよー」
目だけを動かす。半分以上布が巻かれたおにちゃの顔が霞みの先にあった。

つづく

300 :自夜 :2007/04/07(土) 18:11:06 ID:C60te8Lp0
前世物語 第二部乱世編 第三十九話 旅立 その二

幾日か経って、ようやく私は動けるようになる。
胸の粘土で固めたあて板はまだ外せない。
おにちゃの意識は戻らない。熱がひどい。私は布を水に浸し、おにちゃの
躰を冷やす。
坊主はおにちゃの頭蓋が割れて、脳髄が傷ついているので、絶対に頭を動
かすなと言う。
口に糖入り粥を含ませると飲み込む。坊主はまだ望みがあるという。
「おきてーはおらんがーのー、まだのーずいはーいきとーる」
坊主は時々出かけ、戻ってくる。
私達のことは何も聞かない。自分のことも何も話さない。
気休めは言わない。いつ死んでもおかしくない。坊主はそういう。
幾度も死にかけたおにちゃだ。今度も大丈夫だ。何日も念じ続ける。
ある朝、おにちゃがうめき声を立てる。ここにきて初めて。
おにちゃの枕元で見ていると、おにちゃの目がゆっくり開く。
「ち・・・び・・・、かゆ・・・か・・・」
「はい」

つづく

301 :自夜 :2007/04/07(土) 18:15:09 ID:C60te8Lp0
前世物語 第二部乱世編 第三十九話 旅立 その三

「無事・・・で・・・よか・・・た」
「はい」
涙が出そうになるのを堪えて、私はおにちゃに返事する。
「ちび・・・」
「はい」
「こを・・・う・・・め・・・ちびの・・・くにを・・・つく・・・れ」
「はい」
坊主がおにちゃを覗き込む。
「ぼうず・・か・・・ぬしを・・・うらま・・・ん・・・酒を・・・」
坊主は黙って立ち上がり、瓢箪を持ってきて、酒をおにちゃに含ませる。
ふぅ、と大きく息を吐くと、おにちゃは目を閉じた。
これだけ喋れたんだ。おにちゃの脳髄はまた動き始めたんだ。もう大丈夫
だ。その時はそう思った。
「かな・・・しみ・・・の・・・ない・・・・かい・・・・・か・・・」
おにちゃの顔色から赤みが消え、やがて青白くなり、冷たくなっていく。
おにちゃの気配が静かに消え、私は心を閉ざした。

第四十話へつづく

305 :自夜 :2007/04/07(土) 19:49:10 ID:C60te8Lp0
>>304さん
こぴぺして、一行一行原文と対比させて、ようやく読むことが出来ました

もう、ギャルには戻れないんだと、しみじみと思い知らされました(遠い目・・・)

306 :自夜 :2007/04/07(土) 20:08:23 ID:C60te8Lp0
なるほど、変換してくれるサイトさんもあるんですね
それでは、ご要望が強ければ、今後幽霊談義の方はギャル語でお届けしましょうかね(嘘)

それはともかく、明日(日曜日)はお休みします。それまで、ごゆるりと、ご歓談ください
では、また来週

328 :自夜 :2007/04/09(月) 10:40:31 ID:k6ORNTec0
>>325さん
Web Site の方にお墓を使わせて頂きました。支障あるようでしたら、お知らせ下さい

お墓の場所は、>>1のURLより
[一緒に死ぬ]->[三悪漫遊記]->(短気な人はクリック)->[浪人之墓]
です。なお、三悪漫遊記は携帯には対応していません

330 :自夜 :2007/04/09(月) 23:48:04 ID:k6ORNTec0
>>329 325さん
とってもサンキューです

331 :自夜 :2007/04/09(月) 23:50:07 ID:k6ORNTec0
前世物語 第二部乱世編 第四十話 末期 その一

浪人の肉体から何かもやもやしたものが出、八方に散っていく様を私は冷
たい目で見ていた。その時から加由の心が判らなくなった。
加由が助けられた河原に穴を掘って浪人は埋められた。墓標は折れた鞘。
茜色の空の下、坊主の読経が流れる。加由は手をあわせ瞑目している。
あれだけ坊主を嫌っていた浪人のことだ。経をあげられて、さぞ迷惑して
いることだろう。いや、その浪人はもういない。消えてしまった。消えて
しまった魂はどうなるのだろう。田袋と同じ所に行ったのだろうか。瑞穂
やととちゃ、かかちゃ、そして洟垂れ弟もそこにいるのだろうか。なぜ、
私はここにいるのだろう。
経を聞きながら、ぼんやりした頭で私はそんなことを考えていた。
「せめてー、あてものがー、はずれーてからにーしたらーいい」
坊主の問いに加由がぎこちない笑顔で答える。
「いえ、ここにいると、きっと私はあなたを殺します」
「しーっておったかー」
「はい。兄の頭の布を取った時。あの崩れ具合は岩にぶつかったとか、そ
 ういうものじゃない。刀でもない。何か、固い細い棒のようなもの」

つづく

332 :自夜 :2007/04/09(月) 23:53:06 ID:k6ORNTec0
前世物語 第二部乱世編 第四十話 末期 その二

加由の出で立ちは浪人の着ていた服の裾を詰めたもの。二本差し、草鞋。
髪も多少短くし、総髪に垂らし髷。多少華奢ではあるが、若武者姿。
「そう、おそらく錫杖」
「そーかー、しーっておったかー」
坊主はしゃがみ込んだまま、土まんじゅうを見ている。
「ぼーずになるときにー、もーせっしょーはぁせーまいおもーたがのー、
 あーでもせなー、わしがーここにーはいっちょーた」
「兄は相当あなたを恨んでいたようです」
「わしのほーは、とーんとこころあたりがなーでぇこまるのー。うんにゃ
 ありすぎてーかのー」
「兄は侍を捨てました。そして、生きるために侍をやってました」
坊主は答えない。
「兄は皆が幸せになれる国を夢見てました。幼い頃死んだ私の父も百姓だ
 けの国をつくるんだが口癖だったと聞いてます。私には言葉こそ違え、
 その想いは同じだったように思えます」
坊主が立ち上がり、裾を払う。

つづく

333 :自夜 :2007/04/09(月) 23:56:22 ID:k6ORNTec0
前世物語 第二部乱世編 第四十話 末期 その三

「わしはーさむらいにーむげにーころされたーものどもーをーとむらうた
 めにーさむらいーをーすてーてーぼーずにーなーた」
「それで、慰められますか」
坊主は落ちゆく陽を見る。
「さーなー。いいわけにーはーなるなー」
今度は加由が土まんじゅうの前にしゃがむ。
「私は兄と同じ夢を見ていたと思っていました。だけど今はよく判りませ
 ん。ゆっくり考えてみたいと思います」
加由が再び手をあわせ、瞑目した。
「わしはーのこりのときをーむかしのーためにーつかおうー。ぬしはーさ
 きがーなげーでー、すきにーいきたらーええ」
加由が立ち上がる。
「はい。私を助けて頂いたこと、兄の手当をしてくれたこと。感謝します」
「れいはえーでー、かわりにー、そのうちうまいめしでもくわせーや」
「心からあなたを許せる時が来れば、是非」
そう答えた加由の笑顔は爽やかだった。

第四十一話へつづく

336 :自夜 :2007/04/10(火) 13:57:24 ID:DL5lOrpr0
>>334さん
こっちきちゃだめだーっ!!!

>>335さん
私の母から順に

湖亜
自夜
加由
須磨

でございます。私の曾孫は美厨とでも名付けられたでしょう
ちなみに、私の父は鬼霧でございます
もちろん、仮名で、実際はこんなふざけた一族ではございません
前世物語通して実名は二人だけでございます(一人は姓だけ実名)

物語の視点ですが、この先どうなりますやら・・・によによ

337 :自夜 :2007/04/10(火) 20:36:15 ID:DL5lOrpr0
前世物語 第二部乱世編 第四十一話 別離 その一

不思議な感じ。
十年近く離れたくても離れられなかった加由が夕陽に向かって旅立つのを
私は憎くて憎くてたまらなかった坊主と見送っている。
もう加由の心を知ることもないだろう。加由も二度と私を見ることはない
だろう。
これが子別れというものか。加由は自分の足で歩き始めた。もう親の出る
幕ではない。ましてや、生者でもない私がすることはない。
あの、雪の日、私の骸にすがり泣き叫ぶ加由を上の方から見降ろした時に
私は私が死んだのを理解した。
自分の死そのものは悲しくも何ともなく、むしろあっけないものだった。
加由が私の後を追ってもいいと考えた時、私はそれでもいいとさえ思った。
加由と二人で待っていたら、いずれ迎えが来て田袋が待つ悲しみのない国
へ連れて行ってくれる。
代わりに来たのが浪人だった。
一目であのときの青年だと判った。
しっかりした身なり。てっきり元の侍に戻っていたと思った。

つづく

338 :自夜 :2007/04/10(火) 20:38:54 ID:DL5lOrpr0
前世物語 第二部乱世編 第四十一話 別離 その二

その青年と加由が私の土まんじゅうを作っている。何故だろう。
加由が浪人の後を追う。何故だろう。
私はその加由の後を追う。何故だろう。
何故だかさっぱり判らない。判らないが、判らなくてもいいと思う。何故
判らなくてもいいと思うのだろう。
その時はこんなことを考えていた。
どうやら、私は加由から離れられないらしい。そう気付くのに時間はかか
らなかった。
私は加由とともに時を過ごした。
あれほど愛しい加由、その逝く末を案じていた加由。離れられない理由は
簡単だ。
だが、それならばなぜ冷静に、いやむしろ冷酷に加由のことを見るだけな
のだろう。
加由が倒れようが、怪我をしようが、重い水に苦しんでいようが何も感じ
ない。
何故感じないのか考えようとするが、続かない。

つづく

339 :自夜 :2007/04/10(火) 20:41:59 ID:DL5lOrpr0
前世物語 第二部乱世編 第四十一話 別離 その三

死者とはそういうものかもしれない。自夜、おまえは死んだのだ。生者と
同じように考え行動することが出来るはずがない。
これで簡単に納得してしまう。そして、ただ冷酷に見るだけ。
加由の考えることは大体判る。別に加由の心を覗き込む訳ではない。親娘
だ。通じるところがあるのだろう。
しかし、それだけのこと。考えが判ったところでそれに対して何も感じな
い。
加由が臼井から逃げた時、どうして私は加由に私を見せたのだろう。
崖の向こうに臼井の仲間がいることは判っていた。だけど、加由を助けな
ければという気持ちは私にはなかった。意識して見せた訳でもない。しか
し、確かに私が加由に見せた。そして、気が付いたら、加由と一緒に崖を
落ちていた。
坊主にしてもそうだ。あれほど憎くて憎くてたまらなかった坊主、もちろ
ん今でも憎い。だが、今はなんの感慨もない。
今、夕陽の向こうに加由が去ろうとしている。
さようなら、加由。

第四十二話へつづく

341 :自夜 :2007/04/11(水) 20:41:33 ID:YWWqXdmA0
>>340さん
遅くなって済みません。以下に回答します

問:水に関して何か思うところはありましたか?
答:特段なかったですねぇ
  水の中でも移動はできましたけど、わざわざ橋がかかっているところを
  とぼとぼ歩いて渡ったりしてましたが
  あとは、そうですねぇ。雨とかは、別に濡れる訳でもないので気になりません
  でしたが、晴れの日の方が気分が多少はよかったような気がします

こんなところでよろしいでしょうか

343 :自夜 :2007/04/11(水) 22:26:58 ID:YWWqXdmA0
前世物語 第二部乱世編 第四十二話 彷徨 その一

加由は夕陽に旅立った。
坊主は私の方を見て、何か言いたげな表情をした。そして、くるりと向き
を変え、夕闇に旅立っていった。
坊主には私が見えていたのだろうか。そんなことはないだろう。加由でさ
え、私が見せなければ私を見ることはなかった。
亡者とはいえ母として加由に憑いていた私は今その使命を終えた。ここに
いれば、誰か迎えに来て、田袋が待つ黄泉の国に連れて行ってくれるのだ
ろうか。
ずいぶん長い間立ち尽くしていたような気がするが、迎えは来なかった。
気が付くと、私はとぼとぼと歩いていた。
目的はない。行き先もない。亡者はこうやってあてもなくさすらうのが定
めなのだろう。
その気になれば、宙を飛んでいくことも、今までの経験で知っていた。だ
が、私はとぼとぼと歩いた。
歩いても疲れない。急ぐこともない。理由は何とでも付けられる。
だが、特に理由もなく歩いた。何日も何日もとぼとぼと歩いた。

つづく

344 :自夜 :2007/04/11(水) 22:29:59 ID:YWWqXdmA0
前世物語 第二部乱世編 第四十二話 彷徨 その二

百姓屋の横を通り過ぎる。夕餉の楽しいひとときの声が聞こえる。
別にたいした興味は覚えなかったが、私は百姓屋に入る。壁を通り抜けて
もいいのだが、何故か入り口を通り抜けてはいる。
中年の夫婦に加由くらいの長子を筆頭に子供が五人。夕餉は私が生きてい
た頃と大して変わらない質素なもの。それでも一家揃って楽しげに囲炉裏
を囲んでいる。
父親が食事の後、子供達を前に座らせて、何か自慢話をする。そして、袋
から大事そうに小さな粒を取りだし、一つづつ子供達に与える。
金平糖という南蛮菓子だと父親の話から判る。
こんな百姓屋でも南蛮渡来のものが入り始めている。私が生きている時に
はなかったことだ。
暫く一家の様子を眺めていたが、私はふらりと裏口から出る。
何も不幸なことはなさそうな一家だが、入り口の近くに小さな土まんじゅ
うが幾つかあるのを私は気付いていた。
私はまたとぼとぼ歩き出す。
ふと空を見ると無数の星達が煌めいている。

つづく

345 :自夜 :2007/04/11(水) 22:37:04 ID:YWWqXdmA0
前世物語 第二部乱世編 第四十二話 彷徨 その三

星を見ると自然に思い出す。満天の星の元、田袋が夢を語る。加由が目を
輝かせて聞く。私が微笑みながら揶揄する。
私達の団欒はいつも空の下。
そして、涙をこぼしながら浪人の小屋で飯を食う加由。加由にとって、あ
れが初めての屋根の下での団欒だったのだろう。
あれから随分時が経ったような気もするし、つい先ほどの出来事のような
気もする。
野良犬が五月蝿く吠え立てる。私の気配を察しているのか?
近づくと、尾尻を股に入れ怯える。私はその場でしゃがみ込み、身を小さ
くする。犬はきょとんとし、鼻をひくつかせながら去っていった。
なるほど、そういうわけか。私が普通にしていると、何かしら感じるとこ
ろがあるらしい。坊主が気になったのもこれか。
その何かしらは、ある程度、私の意志で消すことも出来るようだ。
判ってしまえば、もう興味はない。
私はまたとぼとぼと歩き出す。
いつしか、道は山に入っていった。

第四十三話へつづく

347 :自夜 :2007/04/12(木) 22:50:34 ID:tfi/1f/V0
 (−_−)
m   m 〜〜トボトボ

348 :自夜 :2007/04/12(木) 22:54:37 ID:tfi/1f/V0
前世物語 第二部乱世編 第四十三話 飢狼 その一

夜の山道。行き交う人はいない。明かりは星。ただそれだけ。
多分、生きている間はとても恐ろしくて、こんな夜道は歩けなかっただろ
う。死ぬっていうのは不思議だ。こんな夜道も怖くない。
獣の大半は夜山で蠢く。
では、獣は私のような亡者か。ちがう。彼らは生きている。
彼らは彼らを喰らう生き物に怯え、彼らは彼らが喰らう生き物を探す。
単純明快で言い。私は喰らわれる心配はない。彼らを喰らう必要もない。
彼らを怯え、彼らを求める必要もない。
目の前を黒い影がよぎる。
私が死んだ時にも会った連中。犬神様。
ふと、道の傍らに板きれが立っているのに気付く。風雨にさらされ、色あ
せているが、かろうじて星明かりでもなんとか字が読み取れる。
×ゆの××じや××い
なんのことはない。ここは私が死んだところだ。
ずいぶん彷徨って遠くに来たような気がしていたが、元に戻っただけ。
もうすぐ冬が来て、あの日のようにこの峠も雪で閉ざされるのだろう。

つづく

349 :自夜 :2007/04/12(木) 22:57:59 ID:tfi/1f/V0
前世物語 第二部乱世編 第四十三話 飢狼 その二

すると、私の目の前で峠道を横切るこの連中は、あの時の一家だろうか。
いや、あれから十年近く経っている。
狼の寿命がどのくらいか知らないが、とっくに代替わりしているだろう。
犬神様達は私には目もくれず、道をよぎる。最後の一頭だけが、私の方に
顔を向ける。
その一頭は峠道で立ち止まり、私を見据える。表情に怯えや怒りはない。
涼しい顔。
その一頭は群れから離れ、峠道を歩き出し、立ち止まってまた私の方を見
る。ついてこいと言うのか。
私は犬神様のあとをとぼとぼと歩き出す。
峠を越えて、郷を越えて、また峠を越えたところで背後の東の空が白みだ
した。三つ目の峠で犬神様が立ち止まる頃にはすっかり明るくなった。
犬神様は峠の先に顔を向けては私を見る。
おまえのいばしょはここではない。このさきにおまえのいくところがある
そう言っているような気がした。私は犬神様の差す方に歩き出す。
随分歩いた頃振り返ると、犬神様は峠から私を見ていた。

つづく

350 :自夜 :2007/04/12(木) 23:01:28 ID:tfi/1f/V0
前世物語 第二部乱世編 第四十三話 飢狼 その三

そして、くるりと向きを変え、峠の向こう、朝日の方に姿を消した。
ずいぶんと深い山。道はやがて細くなり、枝分かれし、地面と区別がつか
なくなる。生身だと大層歩きにくそうだが、今の私には関係ない。
鳥達がさえずり、その上を大きく弧を描いて飛ぶ鷹。
栗鼠は口いっぱいに木の実を詰め込み巣へと運ぶ。狸共も冬に備えて丸々
と太り、それでも足りぬとしきりに餌を漁っている。
それにしても、狸が多い山。連中は私のことなどお構いなしだ。
やがて日が沈み、日が昇り、また日が沈む。この活気のある山で私だけは
ふらふらと幾日か過ごした。
目の前にあるこれはなんだろう。それは木。幾本もの木が重なり合い、ま
るで来るものを阻むように壁として立ちはだかっている。
木の向こうは何百尺も高くそびえる崖。その崖の麓にその木の壁はあった。
幾度目かの夕刻。あたりは徐々に暗くなる。
目の前にあるこれはなんだろう。
私は立ち尽くしてその木の壁、そして崖を見ていた。
周囲に獣の気配はない。

第四十四話へつづく

352 :自夜 :2007/04/13(金) 17:47:27 ID:GD+rKICI0

              / /,.!  .、| , |        ,,,-ニ―'"゛
               、l゙,/,||,,,,,,, ,   "'ギ豸┬‐ニニニ=ニ、  ,,,,,,,,,二. .,/L
              ,Mll'"″    フ,,彳,,,,, '゙゙彡ニ.    ^,,,>--‐ニ'''",,/"
         / /         ` ''"゙r‐ '''''z-ー'''"^ ,,,,,r'"  /゙‐-,,、
        .,/,   .,|                 彡   _,///  /
      ._,/ .l゙   ィ″             `イ.////` ./
    _,/"  /i、 //,、                ////  ./
   彡    |::l,ト.//./   .,/y゙' ニ彡,    ィ   ´`''″ _/
  .〃/    ,, フ///.//'′    `"゙゙゙彡      r'"
  .彡   /`  ´.'゛ //   _       '"     .、V
   Vレ'"         ,vニニ:::::ァッッ-    、、   ヾi i
  ./       , ./  - .、、 ` ̄^   、,_-,ミ 、  .l|.゙ |          ヽ
./::冖-.、   //`    ミ \\ミぃ, ヽ\\ヽ`'' ^   i|   |
||:::::::::::::ヽ       、,;-"     ``'` `       ミ   .l.        |
!゙l::::::::::::::::)   、、,,ヽ     .、、.、      、 i、.゙l爪 |. |         l .|
ヽ`!'¬‐'"    ゙`    _,,_,,,__ ヾ,'ヽヽ     ヽ .N,|″ .| .|      .| ,l゙
 ^'lヽ、     ._,,,--ニ二,,,ニ,,."`゙' ヽ    、゙l゙iヘ"  .i .| .l      i l゙.l
  .\゙ ‐―ー'二ィニ゙、    ゙ヾミヽ,ヾ、,,ゝミミ^「     l |       .|│
    `゙''~゙'"`|.!|.ll .ヾ \\    ` `  ``      , | .|     ., .レ
        ||| | .ll゙ .ヽ ゙\\               .| | .l゙    ,/ /        何時までついてくるんだ? この変なの・・・

>>351さん
というわけで、そのAAかわゆいんで、Web Site の方の挿絵に使っていいですかね

354 :自夜 :2007/04/13(金) 23:07:14 ID:GD+rKICI0
>>353さん
とってもサンキューです
早速、使わせて頂きました

あと、狢さんが、「わしゃ、女じゃ」といじけてました

355 :自夜 :2007/04/13(金) 23:10:20 ID:GD+rKICI0
前世物語 第二部乱世編 第四十四話 狢庵 その一

暗闇から小さな光がちらちらと近づいてくる。狐火?この山では狐は見か
けない。まるで狸の住処のような山。狐ではない。
光が大きくなる。手提げ提灯。人?提灯はとても高価なもの。蝋燭はとて
も高価なもの。とても庶民の手が届くものではない。
では貴族?京から何百里も離れた山中に貴族の別荘があるとは思えない。
提灯は私に近づき、私の傍らを通り抜け、木の壁に向かう。
驚いた。狸が後ろ足だけで歩き、大きな袋を背負い、手提げ提灯を持って
いる。なんだこれは。
狸は木の壁の前に立つ。木がぎしぎしと動いて狸が通り抜ける隙間が出来
る。狸はその隙間を通り、奥にはいる。また、木がぎしぎしと動いて隙間
が閉じる。
暫くして、上の方、木の枝と枝の間から光が漏れる。
私は木の壁に近づき、木の中にはいる。木々の思念がからみつく。嫌な感
じ。木々は私を嫌っている。いや違う。嫌悪とは異なる感情。でも好意で
はない。出来ることなら通って欲しくない。そんな感情。
特に拒まれることなく私は木を通り抜けた。

つづく

356 :自夜 :2007/04/13(金) 23:13:02 ID:GD+rKICI0
前世物語 第二部乱世編 第四十四話 狢庵 その二

中は大広間。奥に別の部屋が幾つかあるのだろう。そのための入り口の穴
が壁にある。そして、階段箪笥。部屋をぼんやり照らすのは灯。
水屋には見たこともない磁器の鉢に皿、そして硝子の椀。広間の中央には
大きな台。毛皮の敷物。
なんだここは。
上の部屋から狸が降りてきて、私をちらりと見る。
「中まで入って来おったか。立木の結界も役にたたんな」
私が見えているのか。
「おんしは人間の幽霊じゃな。あ〜、どうしてわしは人間の幽霊やらわし
 に喰われたい人間やら物の怪になりたい人間やら望みを叶えて欲しがる
 わけのわからん人間に好かれるんやろうなぁ、たまらんで」
別に狸のことは好きではない。なぜこの狸は人間の言葉を喋っているのだ
ろう。狸がじっと私を見つめる。
「おんし、ぬしには会うたことがあるな。もう何十年かまえじゃ。おんし
 はまだ子供じゃった」
私は喋る狸など知らない。

つづく

357 :自夜 :2007/04/13(金) 23:16:16 ID:GD+rKICI0
前世物語 第二部乱世編 第四十四話 狢庵 その三

「忘れおったか。まぁ、無理もない。だが、わしはよく覚えておる」
狸は水屋から小皿を取りだし、袋から出したものを盛る。
「ぬしはわしに飯を喰わせてくれた。そういう恩をわしらは忘れん」
飯?思い出した。しものおにちゃが間違えて捕ってきた狢。すると、これ
はあのときの狢?そういえば、ふて腐れたような表情はあの時のまま。
「思い出したか。わしはあの日、人間の子供でも捕まえようとうろついとっ
 たら反対にぬしの兄に捕まった。油断じゃったな。まぁ、いつでも逃げ
 れる。どうせなら、郷の一番美味そうな子供を土産にしようとおとなしゅ
 う普通の狢のふりして連れて行かれた。そこで、ぬしが飯を喰わせてく
 れた。恩のある人間を喰うわけにもいかん。幸いぬしの親父が物知りで、
 わしは無事に放された」
狢はなにか盛った皿を三つ持って奥のある部屋に行く。私もついて行く。
「ぬしの名前はなんやったかのう。思い出した。自夜やったな」
部屋の中には土まんじゅうが二つに石の墓標が三つ。狢は手前の土まんじゅ
うの墓標の前に一つ目の皿を置く。
「これは、物の怪に喰われたいと言うとった姫さんや」

第四十五話へつづく

358 :自夜 :2007/04/14(土) 17:41:23 ID:diBaMMmL0
前世物語 第二部乱世編 第四十五話 物怪 その一

狢は墓標の前でしゃがみ込み、手をあわせる。
「この姫さんはなぁ、死んでぬしみたいに幽霊になって、生まれかわって
 また死んで、人の一生分の不幸を何度も何度も味わった姫さんや」
生まれかわり?
「結局幸せになれんと、最後は消えてしもうた」
狢は隣の墓標の前に皿を置く。
「これは臼井という侍。亡骸はここにはないがな」
臼井?侍?
「姫さんの家来や。姫さんのために生き、姫さんのために死んだ。立派な
 侍や。姫さんのためならわしに魂を渡すと言うた。そんなもんいらんけ
 どな」
狢は最後の土まんじゅうに皿を置く。
「これは、物の怪になりたかった娘や。人の世に疎まれ、蔑まれ、見切り
 をつけてわしのところに来た。人まで喰ろうて物の怪になろうとしたが、
 結局人間に殺された」
狢は手をあわせ、瞑目する。

つづく

359 :自夜 :2007/04/14(土) 17:45:01 ID:diBaMMmL0
前世物語 第二部乱世編 第四十五話 物怪 その二

「皿に盛っとるもんは、南蛮菓子や。昨今は珍しいもんが出まわっとるの
 う。珍しいもんが手に入ったら、最初にこいつらにくれてやることにし
 とる。生きてる時はたいした楽しみがなかった連中や」
狢は大広間に戻ると、また別の部屋にはいる。ちらりと見える肉の塊。あ
れは人間の腕?
私は大広間で待つ。狢は瓢箪を下げて戻ってくる。
「ぬしもやるか?」
狢は硝子の椀を取り出す。
「そうか、幽霊は飲み食いはせんかったのう」
狢は毛皮の上に座り、台に置いた椀に酒を注ぐ。
「悪いけど、勝手にやるで」
狢は美味そうに酒を呑む。
「どがいした。喋れんのか。普通に喋ってみぃ。わしには何となく何を喋っ
 とるか判る。生身には判るもんと、判らんもんがおるみたいやが」
私は試しに喋ってみる。
「なんとお呼びすればよかでしょうか」

つづく

360 :自夜 :2007/04/14(土) 17:49:14 ID:diBaMMmL0
前世物語 第二部乱世編 第四十五話 物怪 その三

「わしの名を問うたか。名などない。好きに呼べばええ」
私は少し、考えた。
「では、狢さん。狢さんは何なんですか」
「次はわしの素性か。わしは齢数百年、物の怪の世界の貴族中の貴族や」
狢はにやにやしながら答える。
「物の怪、妖怪、化け物、同じ意味や。言葉自体に大して意味はないわい。
 人智の及ばぬ生き物や。ただそれだけのことや。本質は他の生き物と大
 差ない。腹が減れば飯を喰らうし、眠たくなったら寝る。ほいで、その
 うち、病気か怪我か寿命かで死ぬ」
「私は何なんでしょう」
狢は少し真面目な顔をする。
「ふむ。成り立てという風やないが、まだよう判っとらんようやな。死ん
 で幽霊になった。これは判っとるか」
「はい」
「他の幽霊に会うたことがあるか」
「すれ違う程度なら」

第四十六話へつづく

361 :自夜 :2007/04/14(土) 17:55:47 ID:diBaMMmL0
さて、Web Site 用のバナーなるものを作ってみました。ちなみに Site はリンクフリーです
前世物語:ttp://anime.geocities.jp/ojiya1539/jiyacon/title-zense02.gif

手間暇かけて作ったんですが、下の狢さんがちゃちゃっと作ったのに負けてるような気がします
狢屋敷:ttp://anime.geocities.jp/ojiya1539/jiyacon/title-mujinahouse02.gif

では、明日、日曜日はお休みします。また、来週〜〜〜

405 :自夜 :2007/04/16(月) 11:26:54 ID:7xzTAMny0
>>362さん
まずは Web Site の方に来て頂きまして、ありがとうございます

軽率でしたかね
「旦那の墓を侮辱され怒る自夜、そして加由のとった意外な行動」
みたいなサブタイトルは避けてはいたんですが

ところでネタバレと言えば、人生相談 オカルト相談というスレの
>>198>>199>>201>>202>>204>>205あたりで既に第二部の
最終回を書き込んでますので、物語スレから読まれている方は
Web Site の三悪漫遊記でこの最終回を読まない方がよろしいかと
思いますです

406 :自夜 :2007/04/16(月) 11:30:07 ID:7xzTAMny0
>>363さん
似たような記憶を持つ人ってのはやっぱりいるんですかね

まぁ、私も記憶が蘇った当初は多少戸惑いましたが、記憶にある場所に
行ってみて確かに記憶にあるものがあることを確認したりして、
あぁ、この記憶は本物なんだと確信してから気が楽になりましたね
記憶があろうがなかろうが、実生活にはなんら影響しませんし

人の類似体験を読むのもいいもんです。私だけじゃないんだって思えるし
私の場合は勝五郎の話なんかがそうでしたかね。読んでて、そうそう
そういう感じだったよねっていう箇所が多かったです
もっとも私がやってる物語は私にとってはノンフィクションですが、
一応娯楽作品のつもりで書いてますんで、お気楽にお楽しみ下さい

と言ってもまぁネットだから書けるんですけどね。実生活では秘密にしてます

407 :自夜 :2007/04/16(月) 11:34:15 ID:7xzTAMny0
>>370=373さん
「まだかな、まだかな、まなかな」を見ていた限りでは、この時点では
まだ弥生三千年君のアク禁は解けてなかったようです
今現在も解けてないようですが

408 :自夜 :2007/04/16(月) 11:39:49 ID:7xzTAMny0
>>384さん、>>387さん
上の>>407のレスに同じです

409 :自夜 :2007/04/16(月) 11:41:31 ID:7xzTAMny0
>>376さん、>>380さん、>>401さん、>>403さん
まぁ、この程度はあらしとは思ってませんがね

日常生活に支障があるとか、自殺とか、人のことが判る特殊な能力を持ってる
人の方が一度しかるべきところで見てもらった方がいいんじゃないかとは
思ったりもしますが

あと、素性がバレるから秒刊スレから直接来ない方がいいですよ〜とか、
製薬会社勤務だそうですけど医師以外が医療上の判断をするのは医師法
第十七条違反ってことを教えないような会社の薬は使いたくないな〜とか
ちなみにネット上の医療上の判断は安易なものであれば医師であっても
第二十条に抵触するんじゃないですかね

いずれにしても、病院に行った方がいいよ〜みたいな書き込みに対しては、
幽霊は本当にいるのか2スレで>>690さんの書き込みに対する私の>>693
表明済み、つまり「済んでます、お構いなく」っていうがいしゅつの話題
なんで、私は黙殺しますけどね

426 :自夜 :2007/04/16(月) 17:17:17 ID:7xzTAMny0
>>425さん
ヒント:二回目

429 :自夜 :2007/04/16(月) 17:34:22 ID:7xzTAMny0
さて、Web Site の方ですが、ようやく忘れかけてた頃にJOYに登録されました
まぁ、それはいいんですが、「ジョーク・ナンセンス」に登録されてしまいました

それもまぁ、かまわないんですが。どの分類で申請したか忘れちゃいましたしね
他でも「オンライン小説」で登録してるところもありますんで、見かけたら、
お手柔らかにお願い致します

433 :自夜 :2007/04/16(月) 22:37:42 ID:7xzTAMny0
>>430=432さん
敢えて黙殺という言葉を使ってるんですがね。最近ではこの言葉は通じないんですかね
返事しないという意味では無視と同じですが、無視は認めないというような否定的な
意味が含まれますが、黙殺には否定的な意味はありません

無視=書き込みの意図は認めない、だから返事しないよ
黙殺=書き込みは読んだよ、返事はしないけど

まぁ、こんな感じですかね
一応、黙殺の理由も書いているつもりです。まず、人の書き込みを悪意を込めて改変
したものを引用する行為、それから、既に回答しているものへの同じ内容の繰り返し
あとは、書き込み内容が全然具体的でなく大上段に決めつけているような言い回し
ですか
こういうのは過去の例からすると会話が成立しませんので、理由を書いた上で黙殺
しますよとまぁ宣言している訳です

もちろん、弥生三千年のような明確なあらしは無視ですけどね

ところで、別にかまわないんですが、>>409で私が示したのを敢えてぺたぺたした意図
は何なんでしょう?

434 :自夜 :2007/04/16(月) 22:54:35 ID:7xzTAMny0
ちょっと気になったので、いろんな辞書に目を通してみました
最近は黙殺=無視なんですね。やはり私は古い人間か・・・・・・

ほいじゃ、今までの私の書き込みの「黙殺」は、「書き込みは読んだよ、返事はしないけど」
の意味に変換して下さい

435 :自夜 :2007/04/16(月) 23:01:24 ID:7xzTAMny0
前世物語 第二部乱世編 第四十六話 死霊 その一

「人でも獣でもええが、幽霊になってから死に立ち会うたことがあるか」
「はい」
「そんときどうやった」
「頭から白いもやもやしたものが出てきてちょっと戸惑ったような動きし
 て、霧が晴れるように薄くなって消えていきました」
狢はぐいっと呑み、また椀に酒を注ぐ。
「魂、霊魂、思念、気持ち、心、まぁいろいろ言い方はあるが、どれも同
 じもんや。ぬしが見た白いもんがそれや」
狢はなんだか楽しそうである。
「もちろん、生身のもんには見えん。わしにも見えん。ぬしが幽霊やから、
 感じることができるだけや」
狢は立ち上がり、肉の塊が見えた部屋に行き、鉢をもって戻ってくる。
「わしはこれが好物でな。なんの汁かは言わんでおこう」
「わかります」
「せやな。幽霊には隠し事もできん。ぬしも生前はいろんな獣を喰うたや
 ろう。かと思えばわしに餌をくれたりする。同じ事や。恨まんでくれ」

つづく

436 :自夜 :2007/04/16(月) 23:04:06 ID:7xzTAMny0
前世物語 第二部乱世編 第四十六話 死霊 その二

「わかります」
狢は人肉を煮込んだ汁を器用に箸を使って食べ始める。
「人に限らず、獣なんかは生きてる間は頭の中にそういう思念がぎっしり
 詰まっとる。生きてるからそういう思念が外に出んような仕組みが働い
 とる。それでも多少は漏れ出しとるがな。それが気配っちゅうもんや」
兎は美味い。兎は可愛い。それと同じ。
「死ぬ時はこの仕組みが働かんようになって、思念が外に漏れ出す。漏れ
 だした思念は大気に広がり、薄くなって何も考えられなくなる。そして
 思念は大気と同化して消えて無くなる。つまり、躰は活動をやめ、心は
 大気に散る。これが死や。後には何も残らん」
相当に長時間煮込んだのであろう。骨すらも柔らかくなり、狢は容易に囓っ
ている。
「希に、ごく希に、外にあふれ出した思念そのものが、思念の散るのを防
 ぎ、一つの塊に纏まる時がある。もともと頭の中に閉じこめられてたも
 のや。思念そのものが閉じこめるからくりを持っとって不思議やない。
 ただ、普通は外に出てきた時に薄くなるんで働かんだけや」

つづく

437 :自夜 :2007/04/16(月) 23:07:26 ID:7xzTAMny0
前世物語 第二部乱世編 第四十六話 死霊 その三

狢は残った汁と酒を少しづつ交互に呑む。
「その纏まった思念の塊が幽霊や。ぬしの正体や」
狢は汁を飲み干し、手をあわせる。
「いただきました。さて、ぬしは自分の今の躰をどう感じている?生きて
 いた頃のつもりでおるやろう。落ち着いて自分の躰を感じてみい」
そう言えば、幽霊になってこの方自分の躰がどうなっているかを意識した
ことはない。落ち着いて感じてみると、確かに腕もなければ足もない。何
となくかたまっているなにかだ。だけど、腕を動かそうと思えば、動いて
いるような感じはする。ただ、その腕は何も掴めない。
「今のおぬしは差し渡し十尺くらいのもやもやしたまるいかたまりや。や
 が、実際にもやもやした物で出来てるわけやない。宙に浮かんだ思念や。
 水面に立った波や。波は水が作る形やが、水そのものではない。波自体
 は水から他の物に移ることが出来る。ぬしはそうやって木の結界を通っ
 てここに入ってきた」
私は物ではない。波のような塊。思念だけが波となって存在する。
「まぁ、元は人間や。人間のような形をしている気になっても誰も困らん」

第四十七話へつづく

439 :自夜 :2007/04/16(月) 23:33:36 ID:7xzTAMny0
>>438さん
元々 reject と noted くらいに違う言葉なんですがね
イメージ的にはある書類が回されてきた時に破り捨てるとファイルだけはしておく
くらいの差ですね
もっとも、黙殺を reject と誤訳されて、終わる戦争も終わらなかったこともあり
ますし、前述の通り現代では同義とする出版社も多いんで、今後誤解をうまないよう
黙殺という言葉は使わないようにしたいと思います

ぺたぺたの件は了解しました

>>424さんの件は、>>316さんの焼き直しにしか見えなかった点と、「工学系で3学会」
のところに悪意のある改変があったからです。もちろん、おそらく御本人さんは
そういう気(悪意)はなかったでしょうが、そう言う意味では私の感じで判断して
ますから、にんげんだもの(元幽霊ですが)と思って頂いてけっこうです

443 :自夜 :2007/04/16(月) 23:48:04 ID:7xzTAMny0
>>438さん
えっと、>>424さん以外で、私の意見なり何なりを求める書き込みで、私が回答しない
としているもの以外で私が回答していないのってどれでしょう

別に回答の義務はないとは思いますが、極力回答するようにしているんですがね
元幽霊ですが、にんげんだものですから見落としているのがあるかも知れません
よければ教えて下さい

498 :自夜 :2007/04/17(火) 12:52:33 ID:1REaKRge0
>>496さん
>敵を作るような発言をしてきた自夜も自夜だしな。
えへへ、芸風です

>>497さん
その「都合の悪い話題」ってのがさっぱり判らんのですよ
よろしかったら、具体例を一つでも教えて頂けません?

500 :自夜 :2007/04/17(火) 13:45:20 ID:1REaKRge0
>>498さん
>うっせハゲ!
旦那も知らない私の肉体的欠損部を知ってるあなたは何者?   は、いいとして

>まぁ頑張れ
とってもサンキューです

501 :自夜 :2007/04/17(火) 13:47:23 ID:1REaKRge0
埋もれてて、気付くのが遅れました。済みません

>>462さん
>自夜に嫉妬w
是非とも替わってくれませんかね

504 :自夜 :2007/04/17(火) 15:23:41 ID:1REaKRge0
>>502-503さん
ん〜、そうなんですよね。その方の>>424の書き込みについては既に返事をしない
理由を書いてますが、>>441の書き込みに対しては「具体的に書いて不都合がある」
の例を聞いてみたかったんですがね
どういう聞きかたしようかなぁ、と考えているうちに
>もういいよ
と言われてしまいました

ほかにありませんかね

505 :自夜 :2007/04/17(火) 15:39:34 ID:1REaKRge0
すれ違いになりますが、一応まぁローカルルールというか、常識的な事項だと思うんですがね

医療系サイトに妥当な文章がありましたので二件ほど引用いたします

>当伝言板内の発言のみだけで病名を判断し、具体的な治療法や医薬品名を勧めることはお控えください
>それが純粋なご好意によるものであっても、過度な書き込みは医師法・薬事法等に違反する恐れがあります。
>また、仮に「医療関係者」として書き込まれていましても、書き込みだけからはそれを証明することはできませんし、
>利用者もその信憑性を判断できません。
>どのような立場の方であれ、このような書き込みはご遠慮ください。

>日本では、規制が強くて医師法により、医師といえども診察無しに診断行為を
>継続的に行うことは禁止されています。近々この医師法も見直されるようですが、
>このページでは現行の医師法に従い最終的診断は下さないように注意してご相談
>に応じております。

引用元は示さなくても医療系サイトを適当に検索すれば似たような文章はいくらでも出てくると
思いますので示しませんが、

医師法・薬事法等に限らず、法令に違反するような書き込み、すなわち犯罪行為は控えて下さいね
まったりご歓談が高じて罵り合いになろうが、それは私の関知するところではありませんが

509 :自夜 :2007/04/17(火) 17:40:49 ID:1REaKRge0
>>507さん
このスレは目にしないほうがいいと思いますです

>>506さん
その方は、私が>>260で「事実でない書き込みが続くようでしたら、私は相手にしません」
と一度言い、>>262で悪意があった点を謝られた(別に私は怒っているわけではありません
ので、謝られても仕方ないんですが)ことから、その後も会話をしたんですがね
>>281で違法駐車並みに悪いというつもりはないとの書き込みから、少なくとも自然科学
という用語を使うのが何か悪いことのような印象操作をなされているから、それ以降、
約束どおり相手にしなかったんですが、何か

自然科学については、私は>>260で、常識的な意味合い、つまり、自然科学=自然の現象を
研究する学問という意味で使ってますと回答してますし、科学的アプローチについても
>>275で回答しています
一方、自然科学とか言う用語を使わないほうがいいという意見については、一切その理由が
示されていませんので、うやむやにされてる方はむしろ私だと思っているわけですが、
それはさておいて、私は用語を使うなという意見については>>276にて理由を付けて要望に
応じられないといってるんですがね
>>276で私が書いた理由に対する反論みたいなのはどこかにありましたっけ

510 :自夜 :2007/04/17(火) 17:44:32 ID:1REaKRge0
509の訂正

>>507さん
この「レス」(>>509のこと)は見ないほうがいいかもです

509の最後に追加

私が意味もなくスルーしたというレスの中に

514 :自夜 :2007/04/17(火) 20:32:10 ID:1REaKRge0
>>511-513さん
あなたは>>509の私の質問に質問で返してます
せめて、私が>>276で挙げた理由のどれかに具体的な反論があれば別ですが、
いつまでも裁ちバサミみたいな発言をされては、会話にならないというものです

ちなみに、>>308-310>>313さんや>>314さんが言われているとおり、何が言いたいか
さっぱりわかりません。しかも、>>506であなたがスルーされたと言われた>>280-281
書き込みから一日半も経った書込みを示して、その理由です、もないものです
それが許されるのなら、私がスルーに対して、してませんよ。そのうちレスしますよ
っていうのも許されますよね

では、>>316さんには改めて返事しましょうかね

私の気の短さは認めますが、以降、あなたのいままでの書込みと同様な書込みは会話に
なりませんので、それがあなたであろうとなかろうと私からはレスしないと思います

515 :自夜 :2007/04/17(火) 20:33:51 ID:1REaKRge0
>>316さん
遅くなりましたが、>>317さんと同じです

520 :自夜 :2007/04/17(火) 21:34:09 ID:1REaKRge0
>>517さん

問:言葉の使用法に特別な想いがあるのかな?
答:想いの意味合いがいまいち限定できませんが、
  ・ここでこういうことをしている以上、言葉は選んで使ってます
   まぁ、自分の書き込みに責任を持つためですけどね
  ・例えば仕事上では別の意味で言葉には気を遣ってます
   自分の意図していることが正確に伝わるようにです
   同じ業界でも人によって用語が異なる話は以前書き込みましたが、
   当たり前と思っている言葉が違う意味でとられるのはよくあることです
  ・例えば、論戦をやる場合、相手を言い負かす為にいろいろ言葉上の技法
   を使うこともあります。また、相手が技法を使うのを意図的に阻止する
   ために言葉を選んで使います

問:物語を書く人だから当然あるのかな?
答:物語を書いている時は言葉の厳密な意味合いより、感性の方に重きを置いて
  ますかね
  同じ用語でも前後のつながりや、その物語の場面によって意味合いは違って
  きますし、普段は全く意味合いの異なる用語でも同じ意味になったりします
  しね
  パッと思いついた言葉の方が、校正段階でもしっくりくる場合が多いようです
  用語の意味合いを悩み出すと、どんどん文章が理屈っぽくなって、ストーリーが
  進まなくなる弊害もあります
  まぁ、一概には言えませんけど

問:言葉とはなんだと思いますか?
答:情報交換の為の一つの手段と思ってます
  情報交換は異なる個体間とは限りません

質問が観念的なので、回答に苦労しましたが、こんな回答でよろしいでしょうか?

525 :自夜 :2007/04/17(火) 21:52:57 ID:1REaKRge0
>>522さん

問:情報交換には何が必要だと考えていらっしゃいますか?
答:情報交換に必要不可欠なものという意味では回答は「わかりません」です
  利用できるものは何でも利用したらいいと思いますんで
  日本語がわかるもの同士だったら日本語を使えばいいし、
  恋人同士だったら見つめ合うだけでもいいんじゃないですかね
  言葉が全く通じない国に行ってもちゃんと三度のご飯たべて帰ってこれますし、
  ん〜、必要不可欠なものって無いのかもしれない・・・やっぱりわかりません

今回も回答には苦労したというか、回答になってますかね?

526 :自夜 :2007/04/17(火) 21:56:05 ID:1REaKRge0
>>517さん
では、今度は私からですが、

言葉にこだわっているのは、私の方ではなく、私の用語の使い方に四の五の言ったり、
用語を制限するような発言をされる方のほうだと思うんですが、どうでしょう

その用語も、私の書込みの中味の方だったら、まだ有意義な議論ができるかも
しれないと思ってるんですがねぇ

528 :自夜 :2007/04/17(火) 22:05:33 ID:1REaKRge0
>>524さん
私も吃驚
でもまぁ、質問には答えておかないと、後で何言われるかわかりませんからねぇ

529 :自夜 :2007/04/17(火) 22:09:08 ID:1REaKRge0
>>527さん
ちゃんとしますよ〜

えっとですね、Web Site の方にも連載分、同時うぷしてるんですが、いろいろ都合
があって、こっちと Web Site と掲載時間が前後することがよくあるんですよ
今日の分は Web Site の方には既に掲載していますんで、もうそろそろ寝たい、
でも今日中に読んでおきたいって場合は、よろしければ Web Site の方をどうぞ

530 :自夜 :2007/04/17(火) 23:28:03 ID:1REaKRge0
前世物語 第二部乱世編 第四十七話 荒魂 その一

狢は饒舌、そして物知り。
いろいろな話を狢は私にする。
物の怪に喰われたかった姫さんの話し、物の怪になりたかった娘の話、遠
い遠い昔、まだ狢が普通の狢だった頃の話し、他の物の怪共の話し。
「人と付き合うとなぁ、ますます人が嫌いになる」
それが狢の口癖。大概の人が絡む話はこう言って締めくくる。
狢は妖怪になってからは独りで暮らしているという。普通の狸や狢共は、
狢に近づかない。
偶に同じく妖怪の灰色狐が訪ねてくることもあるというが、私がいる間は
来ることはなかった。
「あいつは物の怪やけど、神さんでもあるからな。死人が嫌いなんや」
そう。私は死人。穢れ。でも、鳥居は平気でくぐれるし、うっかり神殿を
通り抜けたこともある。
「それは、あれやな。人間が太古の祭りを形だけ受け継いどるからや。第
 一、神さんをあんなところに閉じこめておけるはずがない。空っぽや」
では、神様はいるのか。

つづく

531 :自夜 :2007/04/17(火) 23:32:02 ID:1REaKRge0
前世物語 第二部乱世編 第四十七話 荒魂 その二

「さあ、どうやろうねぇ。物の怪でない神さんには会うたことがないから
 しらんけどな。たとえおったとしても、相も変わらず人間共は阿呆なこ
 とばっかりしとる。人間には興味ないか、嫌っとる神さんやろう。なら、
 わしら物の怪といっしょやな」
狢は私がいようといまいと普段と変わらぬ生活をしているようだ。
食材を調達に行く時は、何日も庵を空ける。
私は何故だか知らないが、庵に居ついている。
「幽霊を追い出そうとしても無駄や。引き留めようとしても無駄や」
狢の長い経験がそう悟らせる。
「幽霊自身がなぜいるか、どこ行くか、わかっとらん。そんなもん、そと
 から何やったって無駄や。まぁ、別にわしは迷惑しとらんから、好きに
 すればええ」
狢の話はいちいち真っ当だ。たしかに私自身判っていない。
ずいぶん長いこと私は庵にいた。一年くらいいたかもしれない。
「ぬしも行ってしまうか」
上階の部屋、枝の隙間の窓から外を見つめて、狢がぽつりと言う。

つづく

532 :自夜 :2007/04/17(火) 23:35:11 ID:1REaKRge0
前世物語 第二部乱世編 第四十七話 荒魂 その三

「幽霊でもいずれは消えてしまう。生まれ変わる場合もあるが、以前のこ
 とを覚えておるとは限らん」
私は狢と並んで外を見ている。
「まぁ、お互い残された時間はまだまだ長い。そのうち、またどこかで会
 うこともあるやも知れん」
窓から見る景色は深い山々。遠くを鳥達が飛ぶ。
「ないやも知れん」
狢は何を言っているのだろう。
「まぁ、せっかく幽霊になれたんや。飽きるまで彷徨うたらええ」
飽きるまで。そんな感情を私が持つことがこの先あるのだろうか。
急にもたれかかっていた枝が薄れ、私は木の中にはいる。今度はからみつ
く木の思念は感じない。木は無関心。
木を通り抜け、私は外に出る。そして、ふわりと地面に降り立つ。
そのまま、私はとぼとぼと歩き出す。どこへ行くのか、私は知らない。
振り返ると、私を窓から見ていた狢がぷいと横を向く。
狢の顔を見たのは、それが最後。

第四十八話へつづく

533 :自夜 :2007/04/17(火) 23:48:13 ID:1REaKRge0
え〜、今まで第二部に関しては極力その内容に関わる事を言うのは避けてたんですが、

次回からグロ表現があります
(今までなかったんかいというご指摘には「ごにょごにょ」と回答させて頂きます)

グロ表現に弱い方は、読まないようにするとか、食事の時は避けるとか、ご自分で
ご対処なさるようお願い致します

まぁ、たいしたグロじゃないですし、オカ板で敢えて言うのも変ですがね
万一体調を悪くされて、私が訴えられても困りますんで

544 :自夜 :2007/04/18(水) 12:34:53 ID:vaTrZKxS0
>>535さん
いろいろ転ぶのはそれなりに楽しくもありますが、
中味の話題にならないのは悲しいものがあります

によによ

545 :自夜 :2007/04/18(水) 12:38:14 ID:vaTrZKxS0
>>538さん
まずは回答を

問:情報交換にはある程度以上の共有可能なものが必要ってことですかね?
答:ん〜、言葉は選んで使ってると言った割には私の言葉の使い方が悪かった
  ようです
  情報交換と書いてしまいましたが、これだと情報のやりとりになってしまいますね
  私としては相互だけでなく一方向についても含めていましたので、情報交換と
  いう用語は不適切でした。情報伝達に訂正させて頂きます
  さて、情報伝達という意味合いでは必要な共有可能なものというのは、さして
  多くないと思います
  強いて言えば情報の送り手と受け手がいる、ということくらいじゃないですかね
  いる、というのも同時存在する必要はありません
  遠い未来へのメッセージだって可能な訳ですから
  まぁ、相互すなわち情報交換に限って言えば、同時存在が必要なのかもしれま
  せんが、例えばパイオニアやボイジャーに搭載された地球人からのメッセージの
  返事が遠い未来に地球に届いたとして、その時に人間が滅亡していてもその
  返事を受け取る何かがいれば、地球と返事を出してくれた何かとの情報交換は
  成り立つ訳ですから、個体レベルでの同時存在の必要はないということになります

脳味噌ヨーグルトのような回答になってしまいましたが、どうでしょう

546 :自夜 :2007/04/18(水) 12:40:46 ID:vaTrZKxS0
>>538さん
私の質問に答えて頂きまして有り難うございます
全面賛同してはいませんが、なるほど、そういう読み方もあるのかと認識しましたし
大いに参考になりました

重ねてお礼申し上げます
とってもサンキューでした

547 :自夜 :2007/04/18(水) 12:44:45 ID:vaTrZKxS0
>>542さん
あなたの目は悪くありません
多分殆どの人があなたと同じことを思ってます

本人にパスとのことですが、
とうに前世の話は終わっており、このスレには載っていない前世の話について
読んだと言ったり、それを妄想だの創作だの言ったり、死んだら殆ど消えてしまうと
言う意味の文章を生まれ変われると読み取る方の相手をする気はさらさらありません
なんか急に文体を変えて、善意の第三者を装っているようですが、過去書き込んだ
事実は消えないということに思い当たらないらしいですね。こんなところで油売る暇が
あるんなら、もっとやることがあるでしょうにとは思いますが、この先その方がどうなろうと、
私の知ったことではありません
そういうわけで、パスされましたが、返されても迷惑でしょうから、そこらにうっちゃっときます
ポイ

でも、上のことをにちゃん語で書けば、下の一行で済むんですよねぇ

だが、断る

549 :自夜 :2007/04/18(水) 12:53:10 ID:vaTrZKxS0
>>548さん
>大きなお世話だろうけどw
とんでもない。そういう意見は大いに参考になりますよ
ご意見とってもサンキューです

552 :自夜 :2007/04/18(水) 13:47:10 ID:vaTrZKxS0
>>550さん
あー、やっぱり Web Site のソース見てくれてた人だぁ
違うかな? 違ったらごめんなさい

来ていてくれてたんですね
とってもサンキューです

意味は違うけど、ちゃんと中味を見てくれる方だったので、嬉しかったです
Web Site の方は現在中味をいじるより、とにかく増え続けるコンテンツを
うぷすることで手一杯状態ですが、お気づきの点があれば教えて頂くと
うれしいです

では、今後とも宜しく

554 :自夜 :2007/04/18(水) 13:56:02 ID:vaTrZKxS0
>>551さん
受け手にとってその情報が理解できない形であった場合は理解しようという意志
が必要かなとも思いましたが、共通の言語を使っている場合は理解しようという
意志がなくても、例えば一方的に罵倒された場合、いやでも意味がわかってしまう、
つまり情報の伝達は成立してしまう
その意味において、理解しようという意志は必要不可欠な条件ではないなと考えて
しまったりしました

まぁ、私にはわかりません、ってのが答えになるんでしょうかね

だいぶ、スレ違いになってきましたので、そろそろやめようかと思ったりしますが
なかなかに私にとっては有意義な問答でした

>妥当と思われる答えを提示できず、申し訳ございません。
とんでもございません。私の方が頓珍漢な回答をしていると思います

とってもサンキューでした

555 :自夜 :2007/04/18(水) 14:07:38 ID:vaTrZKxS0
>>553さん
私は「止(と)めて」と読んだんですが、>>553さんは「止(や)めて」と読んだんでしょうか?

まぁ、それはどちらでもいいんですが、>>535さんが私の知っている人なら、言葉遣いは悪い
ですけど、いろいろ教えてくれる親切な人ですよ。だが断るの出典も教えてくれたし
言葉遣いは悪いけど

もちろん相手にする価値のない書込は相手にしませんのでご安心(?)を

557 :自夜 :2007/04/18(水) 14:50:05 ID:vaTrZKxS0
>>556さん
上の>>552でも書きましたが、前スレに書き込んでくれた方です。多分
知ってるって言ってもリアルの知り合いじゃありません

あの時から言葉遣いは悪かったけど、言ってることはまともだし、不思議に悪意を
感じない書き込みだったですね
いろいろ教えてくれますし、私にとっては親切な人です

他スレでもたまに似たような文体(言葉遣いは悪いけど、言ってることはまとも)
を見かけてたんで気にはなっていたんですがね
短い書き込みでも特徴あるから判りやすいです。言葉遣い悪いし   によによ

561 :自夜 :2007/04/18(水) 15:16:16 ID:vaTrZKxS0
>>558=560さん
>俺の実態はあなたに嫌われた人間の一人だから
え”、そうなの?
そう言えば、○○くんも言葉遣いは悪かったなぁ
本当? ん〜、わからん

もしあなたが○○くんなら、あなたや○○○○○○くんや○○○くん(この方は
実はよく知らない)個人を嫌った訳じゃないですよ
あの時のあなたたちの遣り方が逆鱗に触れただけで

ん〜、でも○○くんとは違うような気がするなぁ

まぁ、どうでもいいや

とにかく私は個人そのものを嫌うことはまずありません
やられたら三倍にしてやり返すだけです
その時だけですけどね

だから、その後は(出来れば他人の振りして)ここで楽しんでいってくれればいいと思います

Web Site の方でいつまでも晒されるのが嫌だったらメール下さい
メールは Site のトップページの下の方の苦情箱から出来ます
(他の晒されている方も同じです)

562 :自夜 :2007/04/18(水) 15:23:17 ID:vaTrZKxS0
>>559さん
どうもお騒がせして済みませんです
どうやら、私は物の怪の類に憑かれる体質のようです

某映画の予告編をパロって、冗談で>>2を書いたんですが、冗談じゃなくなったようで
言霊って怖いですね

まぁ、物語の方、よほどの事がない限り予定通り続けていきます
万一、ここで書けなくなっても、避難所か Web Site の方でやりますので、宜しくです

564 :自夜 :2007/04/18(水) 19:31:42 ID:vaTrZKxS0
>>563さん
いや、別に自分からばらさなくてもそのまま素知らぬふりしてたらよかったのに・・・
記号の分まで○書いたつもりなんですが、間違ってました?

>声の多きさや顔の表情、その人の雰囲気、身振り手振り等
そうそう、そういうのもあるから言葉は情報伝達の為の一つの手段と思います

まぁ、今回のように多少スレ違いの話題でも普通にスレに参加して頂く分には大歓迎です
よろしければ、今後ともよろしくです

566 :自夜 :2007/04/18(水) 22:24:49 ID:vaTrZKxS0
前世物語 第二部乱世編 第四十八話 和魂 その一

狢の庵を出て、私は何年も彷徨った。
時には戦の真っ最中をとぼとぼと横切り、馬の嘶き、矢が飛び交う様、刃
物と刃物がぶつかる時の火花、飛び散る血潮、飛び散る指、絶叫をあげな
がら転がり回る雑兵、割られた額、蹄に踏み抜かれて飛び散る脳漿などを
冷ややかに見ることもあった。
戦の死はほぼ間違いなくそのまま消えてしまう。死ぬまでの痛み、恐怖、
あるいは恨みで開放された思念をかえって纏めることができないのかも知
れない。
戦に巻き込まれた百姓共は、希に幽霊となる。
ある男は一族総出でのんびりと戦見物をしていたが、戦の風向きが変わり、
流れ矢に脳天を射抜かれ倒れた。倒れた男の頭から吹き出る血潮に混じっ
て、まるで血の湯気のように白いものが吹き出し、躰のちょっと上で纏ま
る。男の白いもやもやは、男に縋り付く家族にしきりに逃げろ逃げろと叫
んでいる。当の家族には聞こえないが、私には感じられる。
その後の男の幽霊とその家族はどうなったか知らない。気が済むまで家族
に逃げろ逃げろと叫び続けた後、私のように彷徨っているのだろう。

つづく

567 :自夜 :2007/04/18(水) 22:26:17 ID:vaTrZKxS0
前世物語 第二部乱世編 第四十八話 和魂 その二

幾度かの季節が過ぎ、長雨の後、私は農村を通りかかっていた。
見渡す限りの田圃に水が張られ、村総出で田植えをやっている。
中には首が据わったか据わらないかの赤子を背負った百姓女もいる。
私の最初の子供は年明けのまだ寒い時期に生まれ、一月も経たないうちに
死んだ。加由は年の暮れ、寒さが一番厳しい時に生まれ、首がまだ据わる
前に村を焼け出された。
百姓女の亭主らしき男が女と赤子を気遣う。気の弱そうな、でも優しそう
な亭主。
あの時、村が東の馬鹿者共の焼き討ちに会わなかったら、私もああやって
赤子を背負って田植えをしたのだろう。
それにしても、動きがぎこちない。産後、日が経っていないのか。そんな
ことはない。百姓に育ったものならあんなへろへろの腰つきはしない。
町娘が百姓に嫁いだのだろうか。戦いに敗れ、武士を捨て、百姓に戻るも
のもいる。その縁者かもしれない。
案の定、泥田に足を取られ、倒れそうになる。亭主が女を支える。意外に
しっかりと受け止める。女は顔を上げ、亭主に笑顔を見せる。

つづく

569 :自夜 :2007/04/18(水) 22:33:21 ID:vaTrZKxS0
前世物語 第二部乱世編 第四十八話 和魂 その三

加由。
顔を見るまで気付かなかった。ここのところ、加由がいたことを思うこと
さえもなかった。
でも、あの顔。大きな目。意志の強そうな眉。小振りな口。
加由に間違いない。
そうか。何があったか知らないが、刀を捨てて、百姓の女房になっていた
のか。
元は加由の父も母も百姓だ。今はまだ不慣れでも、じきに慣れるだろう。
赤子は、加由が赤子の頃より元気そうだ。私の孫と言うことになるのか。
男の子だろうか。女の子だろうか。
まるで生きてた頃のような感情が一瞬浮かぶ。でもすぐに色あせる。
水田は陽をきらきらと写している。この明るさ。田植えの活気。赤子をあ
やしながら微笑む夫婦。
みな、生者のものだ。
死者である私は、それでもほんの少し、ほんの少しだけいい気分になって、
ふらふらと田畑の畦を歩き、村を去った。

第四十九話へつづく

570 :自夜 :2007/04/18(水) 22:40:48 ID:vaTrZKxS0
>>568さん
某所で、飯喰って寝ろと言われたので寝ようかと思ってたんですが
まぁ、そう言われることはだいたい予定通りの展開だったからかまわないんですがね

回答というか、その件に関する話題は明日以降ということで、お願いします

583 :自夜 :2007/04/19(木) 23:27:57 ID:tR+VQoVK0
>>568さん
改めて、レスです

まず、誤字の件
あれでも意味はとおる・・・実際大な罵倒は多であることが多いんで、
そのままにしておきました

通訳の件
いいですねぇ。私なんて、何処に行かされても通訳の予算なんてつきません
行く前に一応「おはよう」「いくら?」「ありがとう」だけはその国の言葉を覚えて
いくようにしてますが、飛行機着く頃には忘れてることが多いです
では、どうやって仲良くなるか、北の国ではグリースのような酒を、南の島では
酸っぱい酒を、更に赤道より南では氷のように冷たいビールを一緒に飲むことで
仲良くなることが私には多かったような気がします。で、しょーもないスラングとか
だけ覚えて帰ってくる
そうそう、あいさつのときのその土地風の仕草が役に立つ時もありますね
仕草は簡単に覚えられるし、言葉と違って忘れにくいし
それでも、腰の角度が違うと現地で指導されたりします
仕事面では苦労した覚えはあんまりないですね
技術系ですし、絵が描ければ、なんとか通じるものがあります

まぁ、それぞれの立場で、経験は異なると思いますが、私のような例もあるということで

584 :自夜 :2007/04/19(木) 23:30:22 ID:tR+VQoVK0
>>568さん
宇宙人?の件

>>568さんは、けっこう悲観的ですね
何の映画だったかな、異なる文化の電脳同士がいきなりコンタクトとるはめになって、
最初のうちは、全く情報交換できなかったのが、そのうち自然数についてのコードの
やりとりをやりだして、お互いそのコードを理解できるようになると、あっという間に電脳
同士が共通言語を作り上げて高密度交信をしだす・・・っていうのを見た記憶があります。
オチは、電脳同士が結託して、人間を滅ぼしてしまうってのだったかな
オチはともかく、未知の相手に理解してもらおうとすれば、そういう工夫をするでしょうし、
宇宙船に搭載されたメッセージにはそういう工夫がしてあると聞いたことあります
NASAのサイトでも見てみたら、載ってるかも知れない
で、逆の立場になって、地球人がそういうメッセージを受け取ったら、結構総力を挙げて、
理解しようとするんじゃないですかね。公にやられるかどうかまではわかりませんが

585 :自夜 :2007/04/19(木) 23:35:34 ID:tR+VQoVK0
>>568さん
宇宙人?の件のつづき

また、事例としては異なりますが、今は失われた古代の言語で書かれた遺跡、遺物
って言うべきかな、なんかの解読も出来る場合もあるようで、この場合、送り手は特に
解読しやすいような工夫はしてないわけですよね

そういう意味で私は楽観的です

一方、ほぼ間違いなく周波数帯は人間とは違うものの、音声でコミュニケーションを
同族でとってると思われる海豚なんかの海豚語が未だに解明できてないことを考えると
悲観的になったりもします

話は変わりますが、英語でコミュニケートってのは古文的には食べ物なんかを「わける」
って意味があるそうですね。それを聞いた時、酒呑んで仲良くなることを思い出して
によによしてしまいました

586 :自夜 :2007/04/19(木) 23:38:05 ID:tR+VQoVK0
>>580さん、>>581さん
横から済みませんが、
ttp://q.hatena.ne.jp/1131897968
ご参考までに

ある程度実際に使われてる用法なら、厳密に言えば誤用でも認めようってのが
古来からの日本語のとるスタンスみたいですがね
誤用のみが現代日本まで残って通用してるってのもありますし

587 :自夜 :2007/04/19(木) 23:41:14 ID:tR+VQoVK0
>>582さん
あー、Web Site に関してコメントしてくれた方だぁ
これも多少意味合いは違うけど、中味についてコメントしてくれる貴重な方の一人ですね
替わって、って言っても無視されましたが・・・・・・
でも、ファンなら、冷たかろうがなんだろうが、多謝感謝です

>>582さんのようなやり方が一番いいような気がしますがねぇ
ここで書き込んでいる物語以外の書き込みは与太話の類ですし、
そんなもん、時間のある時に三悪漫遊記から、除霊済のものを読んだ方が精神衛生上よっぽどいいです

再度、申し上げたいと思います。 是非とも替わってくれませんかね
駄目だろうなぁ〜

588 :自夜 :2007/04/19(木) 23:46:03 ID:tR+VQoVK0
前世物語 第二部乱世編 第四十九話 紅人 その一

ここのところ、世の中が変わりつつある。幽霊の私でも感じられる。
土地の盗ったり盗られたりが私が生きていた頃の戦の大義名分。近頃は天
下とりが大義名分。
そのお陰か、考えもしなかったところが戦場となり、民百姓共が迷惑する
反面、長年戦の耐えなかった地に平和な田植え風景が見られたりする。
西の地では盛んに南蛮と交易が行われたり、新しい神様が入ってきたりし
ている。
仏も大昔に海の向こうから渡ってきた神様の類と言うが、この新しい神様
も、仏のように長い年月をかけて、この瑞穂の国に根付くのであろうか。
そして、私はただそれを眺めるだけなのだろうか。
一度だけ、南蛮人の一行とすれ違ったことがある。
その一行の頭と思しき人は紅毛巻き毛。同じく紅毛の立派な髭。顔立ちが
違うので、年の頃は判らない。同行の侍に通詞のより年嵩の南蛮人を通し
てしきりに話しかける。その話から、私と同じ年生まれであることが判る。
南蛮人は実際の年より老けて見える。
私は同じ年ということもあり、ふらりと南蛮人に近づく。

つづく

589 :自夜 :2007/04/19(木) 23:48:05 ID:tR+VQoVK0
前世物語 第二部乱世編 第四十九話 紅人 その二

私は南蛮人に重なった。南蛮人の思念が感じられる。違和感。
私はすぐに離れた。百姓であれ、侍であれ、この国の人であれば、重なっ
た時に感じる思念は大差ない。
南蛮人であってもそれほど大きく違う訳ではなかったが、何かしら、例え
ばものの考え方の道筋は全く異なるような気がした。
その南蛮人は京の先、湖の畔に話には聞く尾張のうつけを訪ねていくとい
う。通詞の方はもう何年もこの国にいるらしい。うつけにも会ったことが
あると頭の南蛮人に自慢していた。
京までは遠い。私は行ったことすらない。何日もかかるのだろう。
彼らの国はきっともっともっと遠いに違いない。そんな彼らにすれば、こ
こから京などほんの目と鼻の先に感じているのかも知れない。
そんなことを考えながら、東に向かう一行を見送った。
それ以降、南蛮人にあったことはない。
この先、加由や、その子供が大人になる頃には彼らの国に行くようになる
のかもしれない。
私は昔ととちゃに連れられて行った港町でのことなどを思い出していた。

つづく

590 :自夜 :2007/04/19(木) 23:51:05 ID:tR+VQoVK0
前世物語 第二部乱世編 第四十九話 紅人 その三

そして、忘れられた漁村。
水軍の漕ぎ手にでも取られたのか、村に働き手はいない。家々の半数は
焼かれ、残り半数は朽ちようとしている。
こんな、何も価値のない場所でも戦があったのか。それとも海賊衆に襲わ
れたのか。
山賊、海賊はこの時代、物の怪よりも怖い存在。戦の影にはこのような輩
が跋扈し、私利私欲のために良民を襲う。
僅かばかりの子供達、そして老人達。彼らの生きる糧は仲間だったものの
屍肉。老人達はさすがに気がとがめるのか、もう屍肉を漁る力もないのか、
臥して死を待つ物が多い。それをまるで餓鬼のような子供達が待っている。
老人の餓死躰だ。さほど喰らうところはあるまい。だが、子供達にとって
他に糧を得る手当はない。屍肉を喰らうことに何の疑問ももっていない。
やがて行き詰まることにも気付いていない。
ほんのわずか。海の反対側の山とも言えない丘を越えたところでは一面に
稲が実り、長閑で豊かな生活がある。
これが、この国のこの時代の姿。

第五十話へつづく

597 :自夜 :2007/04/20(金) 18:00:35 ID:1Yhwcskq0
>>592さん
言語の件に関しては、如何にして幽霊や妖怪と会話するか、なんてのを
冒頭に付ければ、全く問題ないと思いますが、
さすがに、如何にして幽霊や妖怪と酒を酌み交わすか、ってのはむりでしょうから、
スレ違いになりますので、お酒の話はまた、いつかどこかで、ということに
させていただきたいと思います

私も脳味噌ヨーグルト状態議論は嫌いではありませんので、何かありましたら、
前世・幽霊・妖怪にこじつけて、またどうぞ

598 :自夜 :2007/04/20(金) 18:03:34 ID:1Yhwcskq0
前世物語 第二部乱世編 第五十話 童霊 その一

この村で、私は一人の子供の幽霊に出会った。
四五歳くらいだろうか。私が死んだ時の加由と同じくらい。
この子はこの村に降りかかった災いを覚えていない。兄弟や村の子供達が
この子を奪い合うようにして喰らう様子がこの子の幽霊としての記憶の始
まり。そして、仲間が餓鬼道に落ちるのを冷ややかに見てきた。
普通子供の幽霊はすぐ生まれかわりたがるものだが、この子は人間には生
まれかわりたくないという。
暫くは連れて歩いたが、ふといなくなった。
狐狸にでも生まれかわったか。それとも空飛ぶ鳥になったか。
私は知らない。興味もない。
私はまた幾つもの季節を彷徨いつづけ、町人の噂話に尾張のうつけが自害
したことを知った。また時代が動き、戦が起こり、子供達が餓鬼道に落ち
ていくのだろう。
「人間なんてな同じ事を繰り返す莫迦もんや。また姫さんや娘のような子
 が作られる」
狢のふてくされた顔を思い出す。たしかに狢の言うとおり。人間は莫迦だ。

つづく

599 :自夜 :2007/04/20(金) 18:06:45 ID:1Yhwcskq0
前世物語 第二部乱世編 第五十話 童霊 その二

一人の子供が駆け足で私を追い越していく。私にまるで気付かない。
ちらりと見た横顔が気になり、私は子供が駆け去った後をふらふらと追っ
ていく。
まるで男の子のような出で立ち。体つきは女の子だ。五歳か六歳か。
村はずれの丘を登り、丘の向こうにその子は消えていく。
「じーさん。めしだ、めしー」
丘を登りきると目の前に粗末な掘っ立て小屋。そのすぐ先はもう山の森。
「なんだよ、のこして。ちゃんとくわんと元気でんよ」
掘っ立て小屋の中に子供ともう一人、弱々しい人の気配。
私は小屋のすぐ前に立つ。
「すまーよー。おまえのじーさんの・・・・・・」
細々とした声。そうとうの老人。半分以上何を言ってるか判らない。
「またそのはなしかよ。会ったこともないじーさん、ばーさんの話聞かさ
 れても・・・わかってるって・・・だから飯くって元気だせって」
子供の声は大きい。村まで聞こえそうだ。
いきなり、入り口の菰が跳ね上がる。

つづく

600 :自夜 :2007/04/20(金) 18:09:42 ID:1Yhwcskq0
前世物語 第二部乱世編 第五十話 童霊 その三

「かゆにもよー、たまにはよー、かおみせーちよー」
「わかった。かーちゃにゆっとく」
子供は私の躰を通り抜け、村に駆け戻っていく。
かゆ?加由?
私は暫く小屋の前で立ち尽くし、そして菰を通り抜ける。
薄暗い小屋の中、土間とかろうじて区別される板張りに一人の老人が筵に
寝ている。枕元には白い握り飯。
この顔を私は忘れない。いくら老け込んでも判る。坊さん。
私は長い時間、坊主の傍らに浮き、その顔を冷たい目で見ていた。
時折思い出したように深く息をする他は動かない。
この坊主が密告しなければ、一揆は失敗しなかったかも知れない。田袋は
死ななかったかも知れない。私がこうやって彷徨うことは無かったかも知
れない。かも知れない。かも知れない。
もし、取り殺す方法を知っていたら、今、この坊主を取り殺すだろうか。
憎い。殺したいほど憎い。だが、どうでもいい。今の私にはどうでもいい。
坊主の目がゆっくり開く。半開きのまま宙をさまよい、また閉じる。

第五十一話へつづく

606 :自夜 :2007/04/21(土) 11:25:13 ID:7/NGqK4T0
業務連絡です

複合検索エンジンの「葡萄缶」さんへの Web Site の登録が完了しました

チェックが厳しいところは厳しいですね
「オリジナルイラスト」でも申請したんですが、数が少ないと弾かれたところもあります

まだ、一件登録待ちがありますが、これで申請したところは全て登録していただきました
(まぁ、ヤフーは三ヶ月待ちが当たり前みたいですし、普通にヤフーのサイト検索で出てくるからよしとしましょう)

どこかで見かけたら、お手柔らかにお願いします
また、こんな検索サイトも登録してみるといいよっていうところがあれば、紹介していただくと嬉しいです

607 :自夜 :2007/04/21(土) 11:59:49 ID:7/NGqK4T0
前世物語 第二部乱世編 第五十一話 握飯 その一

「だれかぁーおるのかぁー」
そうつぶやいた後、坊主は目を微かに開き、視線を宙に向ける。
「だれかぁーしらんがー、わしにぃーうらみをーばーもつもんかー」
恨み?そう恨み。確かに持ってはいる。
「ながたーむらのーもんかー、よしはらーむらのーもんかー」
末永く田畑が実る村。私が生まれた村。良き田畑が広がる村。田袋と結ば
れた村。わたしの故郷。
坊主の目が私の方に向き、また違う方に向く。
「おなごーのーたましーかー」
坊主はふぅと息を吐き、また目を閉じる。
「じーやーかー」
消え入るような坊主の声。
「おのがーこーにーひかれたーかー、そも、わしがーにくいーかー」
子供、私の子供。加由。だが、加由に惹かれてここに来た訳じゃない。
「さぞかしぃーわしをぉ、にくんじょるじゃろーなー」
どのくらい、憎いのだろう。今の私には判らない。

つづく

608 :自夜 :2007/04/21(土) 12:01:28 ID:7/NGqK4T0
前世物語 第二部乱世編 第五十一話 握飯 その二

「わしをぉー、つれにきたかー」
連れに来た?そんなことはない。
「あんしんしーやー、わしゃー、じきそっちへーいくけー」
こっちに来る?私は顔をしかめる。
暫く経った後、坊主の目がまた開き、首を少し動かす。
「そこのーみてみぃー、にぎりめしー、おめーのまごがのー、まいにちぃ、
 はこんでくれよー」
米の握り飯。米はおろか、雑穀の一粒もなく、只老人の屍を喰らう村もあ
る。やがて老人もいなくなり、餓鬼同士で喰らい合いをするのだろう。そ
して最後に残った者共は、生きながら物の怪にでもなるのかもしれない。
「おめーに、にーてーよー、きのつえーこぉじゃ」
気が強い?私はあの雨の夜。最後に放った矢が雨に滑り、空しく泥田に落
ちたのを思い出していた。呆然と砦を前に立ち尽くしていたのを思い出し
ていた。一矢報いたかった。
「あんときぃ、わしぁのー、たしかにぃーかんじゃやったー」
そんなことは、浪人の話から知っている。

つづく

609 :自夜 :2007/04/21(土) 12:03:57 ID:7/NGqK4T0
前世物語 第二部乱世編 第五十一話 握飯 その三

浪人の主家、南の馬鹿者共が戦いに敗れ落ちのびていた頃、主家に見放さ
れた草の坊主と間者の希人は進退窮まってしまった。
希人は敵方、東の馬鹿者共への寝返りを画策し、坊主と袂を分かつ。
希人は坊主の存在を危険と感じ、東の馬鹿者共の更に敵である天主側に坊
主を売る。
坊主は捕縛されたものの、惚けた口調と証拠のなさから釈放される。
もっとも天主側に坊主一人をかまう余裕が既になかった。
やがて、敵方、東の馬鹿者共が郷に攻め入り、私達は焼け出された。
希人は結局東の馬鹿者共には信頼されず、この時処刑された。
私達が一揆を画策している時、東の馬鹿者共がその一揆の情報を掴んでい
ることを坊主は知っていた。
このままでは一揆は返り討ちに会う。
だが、坊主は私達には何も話さなかった。
一揆に乗じて、東の馬鹿者共の手が空いたところを南の馬鹿者共が襲う、
ただそれだけのために。
一揆は失敗した。南の馬鹿者共も行動を起こせなかった。

第五十二話へつづく

610 :自夜 :2007/04/21(土) 12:06:51 ID:7/NGqK4T0
前世物語 第二部乱世編 第五十二話 黄泉 その一

坊主はとぎれとぎれ、当時の状況を語る。
今更、そんな話を聞かされて、何になるのだろう。坊主の当時の事情が判っ
たところで、あの日、額を射抜かれた乞食の相棒は帰ってこない。一揆に
倒れた村人は帰ってこない。散り散りになった仲間は帰ってこない。
田袋は帰ってこない。
私の故郷はもうない。
南の馬鹿者共も、浪人を捨て、再起もかなわず没落していった。
主家を失った坊主は武士を捨て本物の坊主として戦いの犠牲となった百姓
や町人を弔う旅に出る。
死者を弔ってなんの役に立つのだろう。あの日の加由の言葉を思い出す。
それで、慰められますか。
長い瞑目の後、目を閉じたまま坊主が囁く。
「じーやーよぉー、じんせーむなしーもんだ。はかねーもんだ」
坊主は深く息を吐き、それから動かなくなった。
白い霧が静かに流れ出、一度も躊躇うことなく宙に散っていった。
坊主は私を追い越して、悲しみのない国へ行った。

つづく

611 :自夜 :2007/04/21(土) 12:09:33 ID:7/NGqK4T0
前世物語 第二部乱世編 第五十二話 黄泉 その二

私は坊主の躰が朽ちていくのを見ていた。
窪んだ眼窩が更に窪み、痩けた頬が更に痩け、生気のない顔が更に土色に
変わる様を見ていた。
この枯れた躰のどこに腐る肉がついているのだろう。死臭が漂うのが感じ
られる。
枕元の握り飯の白さで、夜が過ぎ、朝が来たのを私は知った。
「じーさん。めしだ、めしー」
あれは須磨の声。丘を駆け上ってくる元気な声。
握り飯はおそらく加由が握ったもの。
加由は心から坊主を許したのだろうか。
「よー、じーさん。にぎりめし、またもってきてやったぞー」
須磨が勢いよく菰をたくし上げる。
すぐに異変に気付いたのだろう。須磨はその場に立ち尽くす。
その可愛い手から握り飯が落ちて、土間を転がる。
俯いた須磨の肩が震え、涙が頬を伝い握り飯を追うように土間に落ちる。
「ちきしょう」

つづく

612 :自夜 :2007/04/21(土) 12:12:42 ID:7/NGqK4T0
前世物語 第二部乱世編 第五十二話 黄泉 その三

須磨は膝をついて大粒の涙を落とす。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう」
私が最後に涙を流したのは何時だっただろう。
そのうち、須磨は床を叩き出す。最初は弱く、そして強く。立ち上がって、
柱に拳を打ち付ける。小屋が揺れる。何度も何度も打ち付ける。その間も
大粒の涙は止まらない。
「ちくしょう」
私はふらふらと小屋の外に出る。背後から須磨の声がする。
「ちきしょう、なんで死んじゃうんだよーっ。一緒に百姓の国つくるって
 言ったじゃないかー」
百姓の国?
百姓の国。それは田袋の夢、私の夢。そして浪人も見ていた夢。
いつか本当にそんな世の中が来るのかも知れない。そんなことをぼんやり
思いながら、私は掘っ立て小屋を後にした。
さよなら、須磨。
それから十年、尾張生まれの猿が奥州を平定し、戦乱の世が終わった。

第二部 完

613 :自夜 :2007/04/21(土) 12:15:19 ID:7/NGqK4T0
最終回特別ということで、二話分一挙に掲載しました

長い長い連載におつきあい頂けた方々には
心よりお礼申し上げます

とってもサンキューでした

んじゃ、また来週

633 :自夜 :2007/04/23(月) 11:39:49 ID:W153Z+gz0
>>614さん
え”〜〜っ
相談スレ時代から表明してますが、第三部はないですよぉ
連載小説「前世物語」は二部構成で完結です

まぁ、番外編の予定はあるんですが、これも内容次第では
板違いとなりますんで、ここで掲載するのは限られると思いますです

まぁよそに掲載する時も、ここに案内は書き込みますが

634 :自夜 :2007/04/23(月) 11:43:16 ID:W153Z+gz0
>>622さん
横から済みません

年増さんは、実際今から考えれば可哀相な人ですが、
当時はもっと悲惨な方々がいましたので、特別に可哀相な人ではありません
あ、でも私の物語で単に臼井が出てくるだけのためのダシにしか
使われてませんので、やっぱり可哀相な人です
取り調べの結末までは見てませんでしたので、真相は謎なのですが、
まぁ、想像はつきますし、適当に脚色して番外編を作るのは可能かな
機会があれば、そのうちです

浪人さんの死の方ですが、やっぱり書き足りませんでしたね
ちょうど加由視線と自夜視線の切り替え期で、まぁこの切り替えのダシに
使われたようなものですから、浪人さんも可哀相な人ですね
加由は知りませんが、私は覗いてましたんで、これもまた機会があれば、
「最後の決戦 浪人vs坊主」をそのうち

635 :自夜 :2007/04/23(月) 11:47:19 ID:W153Z+gz0
>>629さん
これまた横から済みません

私なんぞに認定されるとは・・・・・・その心中お察し致します
名誉毀損ものですね

ってことは私にとっては名誉なことになるのかな
それじゃ、私から怒ることはないわけですね

きっしっしっし

636 :自夜 :2007/04/23(月) 11:52:49 ID:W153Z+gz0
ここで連載した前世物語などはまとめて Web Site の方に掲載してるんですが、
物書きネット((有)卓宗企画)さまより物書きネットで発表しないかとのお誘いを
うけました
しかしながら、著作物そのものを収益の対象とした商用サイト(オンライン出版社)
への登録は全く考えておりませんので、丁重(?)にお断りしました

(物書きネットさんの名誉のために追記しておきますが、ごく普通のサイトでまるっきり
 うさんくさいサイトではありません。小説(ホラー・オカルト)のジャンルを少し覗いて
 みましたが、無料の作品も多く、いろんな書き物を読んでみたいという方には
 いいサイトだと思います)

>>606で、検索サイトを紹介して下さいと依頼しましたが、上記で判りますように
オンライン出版関係のサイトは登録する気はありませんので、その点宜しくご理解
お願いいたしますです

639 :自夜 :2007/04/23(月) 13:57:59 ID:W153Z+gz0
>>638さん
がっかりさせて、ごめんなさい
坊主が主人公と思って読めば・・・・・・無理ですね

相談スレで、前世の話を聞きたいと言うことで自夜物語を書いた
相談スレで、加由がその後どうなったのかと聞かれたので第二部最終回相当を書いた
自夜物語があまりに稚拙なのとスレ違いなので物語スレを立てて前世物語 第一部を書いた
やはり加由がどうなったか読みたいと言われたので第二部を書いた
私が知らないことは前世物語では書かない(つまり極度な創作はしない)

という経緯です

こういう話が読みたい(例えば加由が刀を捨てた訳)とかリクエストがあれば、
極力ご要望には応えたいと思いますが、その場合は完全な創作物となりますので、
別板でやらせて頂くこととなると思います

643 :自夜 :2007/04/25(水) 19:47:07 ID:2ULH5gz30
え”〜〜ん、断られてしまった〜
(何を替わって欲しかったか忘れたのは内緒)

>>642 582さん
当時の私達はうつけが猿をどう呼んでるかどころか、うつけと猿の関係すら知りません
でしたね。第弐部のラストから七・八年後くらいですか、西の馬鹿者共の要請を受けて、猿が
私達の(っていうか、私が彷徨っていた)所に乗り込んできた時の庶民が呼んでたのが猿、
「さる」と「ましら」と半々くらい
猿の家来の中にも陰口をたたく人がいて、それが漏れ聞こえて庶民に広まったってことは
充分ありうると思います。猿の容姿や性癖なんて知る機会ないし

もちろん、現世の私は常識として信長がおねに送った書状に秀吉をあだ名で記したものが
あることは知ってますがね

まぁ、そういうことはどうでもいいんですが、>>582さんみたいな読者が一番怖いかなぁ
私がここで何らかの話を書き続けるのを当然のようにして、書き込んでらっしゃる
つい、その気になるじゃないですかぁ。今度書くとしたらヤワラカ系と思ってたのにぃ

ん〜、ちょっとお待たせするかも知れません
急に内地帰還が決まりまして、ごたごたが、わやくちゃ状態です
狸の手も借りたい心境ですが、狢さんは独りで嬉々として引っ越し作業やってるし

んじゃ、そう言う訳で・・・

648 :自夜 :2007/04/28(土) 11:24:53 ID:ge27fEAi0
>>646 582さん
ちょ〜〜〜〜〜
執筆の息抜きで引っ越しですかい
え〜ん、582さんが、いじめるぅ〜

で、「んじゃ、また来週」ってのは日曜日はきませんよっていう意味の(ここでの)慣用句
のつもりだったんですが、たしかに、>>613だけ読むと、じゃぁ、つづきは来週って読めちゃい
ますね。これは私が悪かったです。ごめんなさい

商用サイトの件、確かに金が絡むといろいろしがらみが出来るというのもありますが、表向き
の理由はコピーフリーを謳っている私がそのコンテンツで稼ぐあるいは稼げるところにいる訳
にはいかんでしょ、真の理由は多少小銭を稼いだところでこの貧乏生活には焼け石に水(露頂
している焼石=石炭に火を点けて水をかけるとコークスが出来たりします。コークスってのは
天然石炭に比べて火力が強いので製鉄には欠かせませんね。作中には出てきませんでしたが、
浪人はこれの研究もやってました)ですし、税金計算もめんどい
従って、私が文章で稼ぐとしたら、税理士を雇えるくらいに稼げる時、つまりまずないという
ことです

サイトの件は↓で

649 :自夜 :2007/04/28(土) 11:28:00 ID:ge27fEAi0
業務連絡です

私の Web Site 「前世物語」に間借りしていた狢さんの Web Site 「狢屋敷」が
サーバー借りて、生意気にも独自ドメインまで取得して独立してしまいました
「狢屋敷」の新URLは以下のとおりです

PC用:http://nanasi.mujina.info/
携帯用:http://nanasi-m.mujina.info/

では、狢さんからのお言葉です
「物の怪の、物の怪による、物の怪のためのサイトや。人でなしやったら歓迎する
 まちがって、人が入ってきても、すぐには喰われんやろう。たぶんな。よう知ら
 んけど
 ドメイン名は「むじないんふぉ」、調べてもサーバーの持ち主しか出てこんから、
 阿呆が早とちりして迷惑かけんように」

私のサイト「前世物語」は従来どおり、和塩で営業中です。避難所も変化ありません
狢さんとこと併せて、今後とも、宜しくです

654 :自夜 :2007/04/30(月) 21:08:47 ID:WB9n7JEK0
一応、すっきりしましたか

連絡です

狢画廊のジャンク置き場にとっても素敵な風邪蜜がうぷされました

676 :自夜 :2007/05/03(木) 00:55:25 ID:M3CpHE4n0
えっと、久しぶりです(ってな感触、いろいろ個人的にありまして)
こうやって、もりあがっていただけると、占有理由によるスレ削除もないわけで、有り難い限りです

ざっと読んで私がレスすべきは二件くらいですかね。他に私からのレスが必要な方で
私が返事しね〜よって言ってる方以外は、その旨、明記くださいです

>>655さん
見事に正論っぽいんですが、残念ながら、あなたのおっしゃってることはこのスレ及び前スレでがいしゅつなんですよ
もう一ひねりを期待しますです

>>674さん
果物系はですね、ちょっと汚い話になりますが、適当に潰して壺に入れて、唾を混ぜれば
勝手にお酒になりますです
もちろん、今でもそうやって勝手にお酒を造ると、日本では酒税法違反になりますんで、
適正な手順を踏んでしてくださいね

以上、現世では酒好きが祟って作り酒屋を潰してしまった男の孫である自夜からの
お知らせでした

687 :自夜 :2007/05/04(金) 22:03:20 ID:bP0QPU8T0
えっと、どれからどう答えようかな。まず、順番通りかな

>>679さん
>オカ板は低レベルな自作小説を発表する場所ではないという事をお前の脳味噌で
理解出来ない事がこのスレを存続させてる訳だ
うん、まぁ、そのとおりですね

>己が低脳な事がそんなに誇らしいのか?
別に誇らしくはないけど、っていうより、どっか誇らしく書いてるところってありますか?

688 :自夜 :2007/05/04(金) 22:56:08 ID:bP0QPU8T0
>>680さん
酒関係で、盛り上がっているようですがね、
酒関係に限らず、いわゆる史実というか、いまの教科書的な歴史学的に言うと、
この時代にはなかったというのをいっぱいあるとして書いているんですが、そういう
点に関しては、指摘はなしですか?

ついで言うと、私の前世話に関して客観的証拠はないじゃないかと以前尋ねられたとき、
そういう歴史的に今は真ではないことをいっぱい書いてますが、そのうち、歴史学的
あるいは考古学的にそういうことが当時あったと証明されることがあれば、客観的証拠
とは言わないけれど、傍証にはなるんじゃないですかと書き込んだことがあるんですが、
それに関してはどう思われます?

あとねぇ、果実酒。貴方のような知識先行だけて作ってみると、きっと加由と同じ
失敗しますよ。そんなことないというなら、是非挑戦してみて下さい
(くれぐれも、酒税法違反にならないように、事前申告で)

689 :自夜 :2007/05/04(金) 23:03:51 ID:bP0QPU8T0
>>682さん
あ〜、これだけはきっぱり反論できるかな〜

>このスレが余り叩かれてないのは知名度が無いからだ
ふっ、若さ故の無知というのも、時には許されるものかも知れないな
(判りやすく言うと、前スレ立ち上げ以来、叩かれ荒らされつづけなんですけど)

693 :自夜 :2007/05/04(金) 23:33:52 ID:bP0QPU8T0
>>690さん
だから、ごちゃごちゃ言うヒマがあったら、やってみてね
スーパーで売ってる葡萄一房の量でも、お猪口一杯くらいは作れるから
季節によっては通草でも無花果でも柘榴でも売ってるでしょ、今は。簡単なことです
実験するのは。加糖なしでも(むしろ加糖すると、出来にくい)1度を超えるから

#高いアルコール度のを作ろうとして失敗したのが加由です
#だいたい感触として2〜3度でしたかね、山の神さん達が呑んでたのは
#逆に、当時の濁酒や清酒は10度までなかったと思う

697 :自夜 :2007/05/05(土) 00:16:09 ID:bgmDEC4D0
>>694さん
ん〜、たしかに、そのへんは疑問が生じて当然だと思います

作中でも、他でも書いてはいないんですが、当時の税制が実は大きく関わっています
当時の税制は米です。田畑なにがしにつき、最低何石、米の実収穫に対して半分って
のが、大体の当時の税制でした。これはその時の支配者によりますが、だいたいその
程度で変わらなかったと思います。妙に高率にすると、民百姓はあっさり逃げ出し
ちゃう時代ですしね
それは、まぁいいとして、その税、年貢としての米ですが、それを出来るだけ少なく
するよう百姓も考えるわけです。ぶっちゃけ、米の田圃は出来るだけ少なくする
んです。このへんの事情は、当時の侍も含めた食事情が理解できないと理解しにくい
かも知れない。米はあくまで、兵糧であり、備蓄であり、航海用の糧食で、日常食する
もんじゃなかったんですよね。だから税だったんですけど
百姓の常食は雑穀であり、米以外の収穫は自分の物になったんです。江戸期になっても
そう事情は変わらなかったと思いますが、だから百姓は年貢米の分は仕方なしに作りま
すが、米以外のものに熱心でした。雑穀や菜っぱの類はどっから見ても田畑ですから、
なかなかに難しいところがありましたが、木(木の実や果物)の類はやりたい放題の
観がありましたね。鎮守の森(この言い方は明治以降かな?要はお宮さんの境内)
なんて、かっこうの隠れ蓑だったりして
で、無花果に限って言えば、木一本で瓶一つ分(は無理か、半分くらい)は採れるくらい
よく実がなります。実も大きいし、皮は薄いし
無花果畑がないわけではなかったけれど、屋敷内に五〜六本もあれば、その家の
山神さまが呑む分には充分でしたね(毎日のように呑んでいたわけじゃないのは
作中にあるので説明不要と思いますが)

698 :自夜 :2007/05/05(土) 00:37:01 ID:bgmDEC4D0
>>696さん
あぁ、「補糖」でしたね。「加糖」と書いたのは私の勘違いです
行為として、どこまで違うのかは私には判りませんが

糖度の件:
元税務署員の義父に内緒で実験した範囲では今のスーパーで売られている果実でも
大体当時の酒にはなりましたです

果汁の量の件:
例えば今の葡萄の水分が100%として、当時の山苺の水分が50%としても、倍の量あれば、
事足りるわけです。まぁ、そうですね、ブルーベリーとか、なんとかベリーとか言って
昨今売ってる苺がありますが、色合いとかそういうのは抜きにして固さ的には山苺って
のは、あんなもんですか。潰してみると判りますが、水分は50%ってもんじゃないですよ
従って、葡萄一房と同等の果汁を得るのに山苺が体積として葡萄一房と同等あるいは
ほんのちょっと多めに必要です

腐る件:
第弐部でその件については書いていますが、何か?
もし、スーパーで売られている材料で作った物が、第弐部で書いた以上の良好な
保存状態で半年以内に腐れば、改めてその旨書き込んで下さい

703 :自夜 :2007/05/05(土) 01:20:32 ID:bgmDEC4D0
>>699さん
出来れば、そういうまともな質問は、そのコテハンなしにやって欲しいところですけどね

無花果の伝来はそのとおりで、当初「唐柿」と呼ばれたようで、唐柿という呼び方
は私の幽霊時代に聞き知っていますが、
前世の私の時代にもそっくりな果実があって、「いちじく」と読んでましたし、
いわゆる雌木だけで、挿し木なんかで増やしていくもので、実の形も違うし、
イヌビワとの混同はなかったと思います

まぁ、私の記憶が混同しているか、私が妄想しているだけなのか、それとも他の
当時日本に自生していたイチジク属と勘違いしているのか、私の住んでいた西の地が、
歴史家が思うよりも大陸との民間交流が昔から盛んだったのか
他にもあるかもしれませんが、そんなところでしょう

葉っぱの感じ?
モロ、アダムがチンチン隠しているあれですよ。五枝の

706 :自夜 :2007/05/05(土) 02:13:13 ID:bgmDEC4D0
>>700さん
あのぉ、義父は、元税務署員で、密造酒を取り締まる方だったんですがね
造り酒屋を潰したのは私の祖父ですが、人の書き込み、ちゃんと読んでます?

は、いいとして、当時の果物の糖度・・・甘さの感覚ですか?
難しいなぁ。生前は砂糖みたいなのは無かったですから、比較の対象がない
柿とかは凄く甘く、こんなに甘い物があるのか、と当時は思っていましたが、
今の柿と比べると、どうでしょうねぇ。今の柿でも、昔住んでいたところには
庭に柿木があったんですがね、根本に埋めるゴミの種類によって、年毎に味は
違ったなぁ。当時もはたして、甘柿があったのか、渋柿の熟していたのを食べた
ような気がする
無花果は、だいたい今の組織的に栽培されていないそこいらに生えているものと
大差なかったような気がします。スーパーで売っているやつは、固いやつでも
崩れたような甘さがあるかな
山苺は酸っぱいという印象しかないですね。他に食う物がなかったころはともかく、
常食ではなかったです

長いようなので、つづく

707 :自夜 :2007/05/05(土) 02:15:16 ID:bgmDEC4D0
つづき

で、醸造に向くか向かないかですか?
既に書いたようにさほど多量に呑むわけではありませんから、酒になりさえすれば
いいという考えですよ。あらゆるものが大量生産を義務づけられたような現代の
感覚からすれば贅沢なんでしょうがね

んで、最後は数ですか
そりゃ、粒が小さければ同じ体積にするには数が必要でしょう
ってな小学校みたいな問答は望んでないんでしょうね。別に組織的に密造(いや、
米の濁酒や雑穀の酒は組織的に密造してましたが)しているわけではありませんので、
採れた分を酒にするという感覚です。作中でも書いているように、山にはいるのは
限られた人間だけで、狩猟が目的です。獲物が無かったときに、照れ隠しあるいは
罪滅ぼしで採ってくるわけです。まぁ、山の神が怖ければ、そんだけ必死になって
沢山採って来たんでしょうかね

加由は沢山採ってましたね。まぁ、あの子は、私ら里の子と違って、山の子ですから
事情が違いますが

709 :自夜 :2007/05/05(土) 02:46:03 ID:bgmDEC4D0
>>704さん
あのねぇ、
今まで読んでなくて、あれこれ言ってたんですか
それじゃ真面目に答えていた私が阿呆だったんですね

まぁ、乗りかかった船だから、回答はいたしますが

>小瓶の材質は何でしょう?教えて下さいね
小瓶って、加由が浪人に出すために徳利代わりに入れた入れ物のことでしょうか
焼き物ですよ。陶器になるのでしょうか。土器や素焼きのものではなかったですね
浪人のことですから、どこかで磁器を手に入れていたのかもしれませんが、私には
判断つきませんでした

>実際に醗酵が始まるまでの時間とその間の様子も教えてください
私の郷での事例でいいでしょうかね
瓶に詰め込んで板で蓋をして土間に半分埋めます
酒宴があると、古い瓶から順に開けて呑みます。開けた段階で失敗していたらポイ
開けたのはだいたいその日に飲み干します。余っても日をおかないで呑みつくして
ましたね。詰めてだいたい二ヶ月くらいは蓋を開けません。発酵具合など確かめません
この辺りが穀物系と違うところですかね。瓶は陶器で、今の漬け物をつける瓶より
小振りです。だいたいそれぞれの家で勝手にやってました
米の濁酒とか、雑穀の酒は組織的に村で密造してましたが、男衆の仕事なんで、
私らや若衆は教えてもらえませんでした

加由は置き場所とかいろいろ工夫していたみたいです。例の冷たい洞窟なんかは
長期保存には使っていたみたいです

710 :自夜 :2007/05/05(土) 02:56:08 ID:bgmDEC4D0
あぁ、もう
まともな質問じゃないだの、斜め読みに失敗だの
それで、都合の悪いことには答えないだの言われたら立つ瀬がないですわ

まぁ、立つ瀬がないのは元々だし、真面目に答えた私が阿呆なんでしょう
誰がキウイの祖先と無花果を間違えますか

今宵は、あと一個書いて終わりにさせてもらいます

711 :自夜 :2007/05/05(土) 03:05:38 ID:bgmDEC4D0
業務連絡です

狢さんが、【百鬼】妖怪達の集うスレ【夜行】スレが倉庫逝きになったせいか、ふてくされて
寝込んでいます。従って、三悪漫遊記の更新が滞っていますが、その旨ご了承ください
(って言うか、いろいろトラブルがあって、今十年前の機械を引っぱり出してきて
 やっているもんで、Web Site 関係の更新が一切出来ずにいたりします)

んで、狢さんを元気づけるために(でもないですが)、次回作は狢さん関係の話でも
ここでやろうかと準備中です(まぁ、妖怪話ですかね。グロありです)
再来週からの短期連載になると思いますが、読みたくない方は、読まないでね

728 :自夜 :2007/05/09(水) 01:04:53 ID:hr+/1cxX0
>>727さん
スレ違いネタに、私が言うのもなんですが、はちゃめちゃ美味いです

狢さんがいろいろ喰い方を研究中ですので、彼女の出没するスレを探して直接聞いて
みてもいいかもしれません。反対に喰われるかもしれませんが

730 :自夜 :2007/05/09(水) 01:27:37 ID:hr+/1cxX0
>>729さん
お姉さまと呼ばれると、答えなければならないような気がしたり、しないことはなかったり

不断草(ふだんそう)とかで検索してもばんばんヒットしますが、要は菜っぱ(葉野菜)の類ですかね
うちの近所では普通にスーパーでも売ってるんで、煮物、おひたし、炒め物、汁の実
などなど、何でもおーけー。旦那は酒のつまみに生で囓ってますが、それでもおーけー
みたいです

733 :自夜 :2007/05/09(水) 01:47:46 ID:hr+/1cxX0
>>731さん
何が残念なのか、今一理解しかねますが、旦那一人、子ども二人、ジジババ各二人
(さすがにそれ以前は鬼籍入り)の普通の働くおばさ・・・おねいさんです

734 :自夜 :2007/05/09(水) 01:49:13 ID:hr+/1cxX0
>>732さん
売ってなければ、家庭菜園(プランター)でも出来るみたいです
お試しあれ(種は通販しているところもあるみたい)
ttp://www.296831.com/topic/h_umaina.html

現世の私は、がいしゅつの通り、農業の天敵みたいな女なんで、無理だと思いますがね

737 :自夜 :2007/05/09(水) 02:49:24 ID:hr+/1cxX0
>>736さん
ん〜、本当に、至極が何故残念なのか、理解できません
おば●●は、なんとなく判りました。「Q〜」でしょ。私もあの衣の下がどうなっているのか
気になって気になって眠れなかったまだ純粋な少女時代がありました

で、何が残念なのかのヒントを得るために気持ちよさげに寝ている旦那の首を掴まえて
五六回揺すって聞いてみました
「もう、寿司は食えねぇ〜」
だそうです。明日は二人で(子どもは学校)築地に逝く予定でしたが、一人で逝こうかな
と考えています。嗚呼、休暇も今週限り。来週から日本で仕事です。どんな仕事が待っているか、
実は、まだ知らなかったりします

793 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/12(土) 23:19:58 ID:Q+e/3L/K0
>>749さん
築地逝ったら、市場は休みでした。シクシク
仕方ないので、場外の方で旦那と寿司喰らって、酒飲んで、五枚三百円のジャコ天を子ども達の
お土産に買って帰りました

794 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/12(土) 23:24:41 ID:Q+e/3L/K0
>>752さん
あはは
どうも、極力スレ違いは避けようとしているんですが、食関係の話題になるとつい・・・
次物語は>>711で予告の通り、来週からの予定です。月曜から颯爽とはじめられればいいんですが、
機械の都合で、書き貯めていた分まで今見れない状況でして・・・
出来るだけ早くはじめたいと思ってはおりますので、ご了解願いますです

で、前々から漏らしているとおり、次物語で、一応オカ板でやるべきものはネタ切れなんですわ
その先は多分場所を変えてやることになるのかな、案内だけはしますので、宜しければ
それ以降もお付き合い願えれば幸いです

狢さんの方は、根が物の怪なんで、まだ当分オカ板に居座るようです。スレ復活したみたいだし

795 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/12(土) 23:28:12 ID:Q+e/3L/K0
>>784さん
概ね正鵠を射ているご意見だと思いますが、一点だけ修正させて下さい

>・スレ主との質疑応答はありますが、前世について議論をするスレではありません。

>>3の邪鬼丸のスレ解説にあるように、前世・幽霊・妖怪に関わることであれば、議論しようが
私の物語に突っ込み入れようが、それは自由です。会話が成り立ちそうな方からの質問には
極力答えるようにはしてますが、議論に私が加わるかどうかは私の勝手にさせてもらって
ます。人間離れしていると言われてますが、一応人間だもの

796 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/12(土) 23:33:07 ID:Q+e/3L/K0
業務連絡です

サイトの方ですが、「HONなび」さんに登録されたようです
私のサイトからの相互リンクは週明けになりますかね

HONなびさんのところはけっこう条件が厳しく書かれていたため、人を喰う話があるものは
未熟な人には害がある=成人向きだろうなということで、成人向きで申請したら、そのまま
登録されてしまいました

エロ話と思って飛んだ方はがっかりするんだろうなぁ〜

さて、ここんとこ休んでばっかりですが、明日の日曜日は恒例どおりお休みします
ほいじゃ、また

811 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/16(水) 08:33:17 ID:QgPJ7t9t0
>>809さん
相変わらず、人(?)を追い込むのがうまいな〜 編集者向きだと思います

>>711で予告の件は、今宵あたりからなんとか始めたいと思いますが、はたして>>809さん
のお口に合いますかどうか・・・・・・

813 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/16(水) 23:43:37 ID:QgPJ7t9t0
妖怪志願 第壱話 その壱

春の柔らかな日差しが長雨の時を越え、攻撃的な姿を見せる。
それでも木々は光を受け取れることに喜び、物言えぬ躰で歓喜を顕す。
水と、光と、そして大地に祝福され、木々は山全体に広がり、その懐に雑
多な生き物を棲まわす。
木々の葉の並の下では、栗鼠共が忙しげに木を登り降りし、猪共が沼田場
で躰を清めているであろう。だが、この岩の上からはその様子は見えない。
見渡す限りの緑。その山々をその獣は頂の岩の上から見回していた。
その獣はこの辺りの山々の王者。彼女に逆らう獣はいない。
丸まるとした胴、短い四肢、目の下の黒い毛、恐ろしい形相ではない。
むしろ、愛嬌のある顔立ちであろう。ただ、その愛らしい顔から長く突き
出た吻から、古代の犬の形態をよく残した鋭い牙が覗いている。
彼女の名はない。その山の獣たちや郷の人々は、古代から人を喰らうとし
て恐れられていた彼女の物の怪になる前の生物を示す言葉、狢とだけ呼ぶ。
狢はこの緑の山々に満足していた。自分の支配する山々に満足していた。
適度に季節が変わり、塒さえ確保していれば、凍え死ぬような冬はこない
し、灼熱の日で乾ききる夏も来ない。

つづく

814 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/16(水) 23:46:28 ID:QgPJ7t9t0
妖怪志願 第壱話 その弐

この山々の美しさはどうだろう。この山々の瑞々しさはどうだろう。生き
物に満ちあふれ、活力のある山々。狢は誇りに思う。
もう何百年も生き、何度か住処を替えた。支那や印度にも行ってみたが、
この山々ほどすばらしい場所はなかった。
ただ、惜しむらくは人間共の所業はこの地でも変わらない。
喰うために捕ったり採ったり、これは許そう。毛皮、これもまあ許そう。
連中は自前の毛皮を持っていない。冬が厳しければあっさり死んでしまう
ひ弱な躰。むしろ哀れにさえ思おう。また、連中は木を切る。塒を作るた
めならどうってことはない。獣たちだって似たようなことをやってる。
だが、連中は田畑を広げるため山を切り開き、水の流れを変え、獣たちの
住処を奪う。たまたま田畑に迷い込んだ獣を田畑を荒らすものとして、容
赦なく殺す。ふざけるな。そこは元々獣たちの土地だ。
あまつさえ、自分たち同士の喧嘩のために、山に火を放ち、自ら作った田
畑まで荒らして同族を困らせても平気な顔をしている。
一方で、狢は人間の知恵は気に入っていた。あれほど感情が豊かで知恵が
回り、工夫をし、家族を愛し、勤勉な獣はいない。

つづく

815 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/16(水) 23:50:16 ID:QgPJ7t9t0
妖怪志願 第壱話 その参

しかし、どうしてあの連中は寄り集まると莫迦なことを繰り返すのだろう。
狢の知る何百年も人間は同じ事を繰り返している。
なぜ、他の獣のように生きれない。他の獣のように野山に生きれば、その
数が極端に増えることはない。数が増えなければ、野山より効率よく自分
たちだけの食料を得る田畑を作る必要はない。ましてや、その田畑の取り
合いで、同族同士で殺し合うこともない。
狢と人間の関わりは、彼女が物の怪になる前の普通の狢だったころまで遡
る。
その年の遅い春、狢は秋になれば結ばれるはずの雄に死なれた。喰らうた
めか、毛皮のためか、それは定かではない。人間に殺られた。這々に逃げ
帰った仲間の雄が伝えてくれた。
若き狢はその山に一本ある山桜の下にしゃがみこみ、桜を見上げ、物思い
にふけった。生きることの意味。死ぬことの意味。何日も何日も考え、そ
して答えは出なかった。
齢を重ね、他の獣が狢を避けるようになり、狢は人を喰らい、妖かしの術
を使う物の怪になったことを悟った。

第弐話につづく

822 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/17(木) 23:43:24 ID:UWkUaWwp0
妖怪志願 第弐話 その壱

物の怪になってからは、人を襲い、人を化かし、人を困らせることに生き
甲斐を感じた。復讐ではない。そんな狭隘な気持ちではない。
物の怪とはおそらくそういうものなのだろう。別に対象は人間である必要
はない。狢の場合、それがたまたま人間だっただけのこと。
物の怪になって初めて出来た、そして唯一の友、灰色狐がそんなことを言っ
た。
灰色狐は狢よりも古い物の怪。棲処は知らないが、瓢箪に酒を入れ、時た
まふらりと狢を訪ねて来、ぽつり、ぽつりと他愛ない話をしに来る。狢が
居所を変えても迷わずにやってくる。灰色狐の棲処の郷では神様として祀
られ、祠さえあるという。
「あたしゃねぇ、人間のことは、な〜んにも思ってないんですがね、ま、
 祀ってくれるってことだから、祀られてやってるんですよ」
そう。灰色狐の相手は人間ごときではない。不思議な生き物、山神。
あいつらは近しい種族でありながら、狢や狐狸を好んで喰らう。まぁ、喰
らうのはいい。だが、あいつらは人間を襲うことはない。そして、物の怪
でもない、普通の生き物のくせに、人間から神様扱いされている。

つづく

823 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/17(木) 23:46:47 ID:UWkUaWwp0
妖怪志願 第弐話 その弐

そんなところが灰色狐の気に入らないところなのだろう。だが、長い付き
合いでありながら、狢は灰色狐が山神に勝ったという話は聞いたことがな
い。
山神とは話が通じない。
物の怪になって百年も経つと、大概の獣とは話が出来るようになる。人間
とすら会話が可能だ。山神だけは話をしようとしない。山神は物の怪を恐
れはしない。ひたすらに無視する。むしろ、獣たちより人間との繋がりが
強くさえ感じる。
その証拠に山神の一部は太古の昔、人間に飼われ犬となった。
そんなところが、ますます灰色狐を苛立たせる。
狢は灰色狐ほど山神を嫌っていない。
山神の群れの構成は人間のそれに似ている。家長を筆頭に、血族、そして
血縁関係はなくとも若い個体が群れに属する。ある程度年を重ねると、そ
の個体は群れから離れ、自分の群れを作るまで独りで彷徨う。近しい種族
でありながら、夫婦が基本の狢や狸、子供が小さい時だけ家族で暮らし、
あとは孤独な狐とは大きく異なる。

つづく

824 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/17(木) 23:49:04 ID:UWkUaWwp0
妖怪志願 第弐話 その参

時折、河原で無邪気に戯れる幼体を守るように大人の山神が優しい目を向
けているのを見かけることがある。
あいつらの家族愛は人間のそれに匹敵する。狢は悪い気はしない。
狢は岩の上で伏せ、炎天の日をその背中に受ける。日に当たる部分は暑い
が、これほどの高地になると、温度自体が涼しく気にならない。
「そう言えば、灰色狐とも長いこと会うてへんな」
無理もない。あいつが狢に関わりだしては狢のところに来る気がしないの
だろう。灰色狐は人間を嫌ってはいないが、人間と関わり合いになるのは
嫌っている。
「わしだって、御免被りたいもんや」
普通の人間は物の怪のところに来ることはない。人間の世界から疎まれ、
人間の世界では生きられなくなった者だけがやってくる。
過去、何人かが彷徨い続けた後、狢のところに辿り着いた。中には狢も気
の毒に思い、助けてやった者もいる。共に戦った者もいる。
だが、彼らもすぐに死んでしまう。
狢には悲しい思い出しか残らない。つらい思い出しか残らない。

第参話につづく

826 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/19(土) 00:13:30 ID:/EsPeCEO0
妖怪志願 第参話 その壱

もう人間と関わるのは嫌だ。彼らの知恵、愛情、勤勉さ故に狢は彼らと関
わり、彼らの傲慢さ、自己中心さ、愚鈍さ故に嫌な思いをさせられる。
「姫さんよ。あんた、あの時、死ねてよかったなぁ」
狢が今まで一番深く関わった人間。何度も生まれ変わり、その度に人とし
て生きることの悲しさを味わった娘。そして、物の怪になった狢が初めて
共に生きたいと思った相手。
その姫は何日も何日も意識を取り戻すことなく、静かに消えていった。今
は狢の棲処の傍らの土の下に眠っている。
どうせ、あいつもそうなる。その境遇を気の毒に思わぬ訳ではなかったが、
物の怪に関わってどうなる。いくら狢が助けたところで、所詮救われない。
いや、物の怪に縋ってまでも救われないと判れば、その先はない。まだ、
物の怪に縋れば何とかなるかも知れないと思って行き続けた方がましだ。
そして、狢には悲しいつらい思い出が一つ増える。
狢の鼻がひくひくと動く。
「今日も来きおったか」
狢は顔だけを持ち上げて山肌を見下ろす。微かに木々が揺れる。

つづく

827 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/19(土) 00:16:01 ID:/EsPeCEO0
妖怪志願 第参話 その弐

木々の下、この山では異形のもの。人間の娘であるあいつが山を登ってく
る。息をはずませ、顔を紅潮させ登ってくる気配が無視しようとしても狢
に届く。
狢は岩の上に伏せたまま、大狢へとその姿を変える。身の丈八尺もあろう
か、全身から妖気が迸り、その形相は見るものを萎縮させる。とても先ほ
どの愛らしい生き物と同一の生き物とは思えない。
その娘は狢のこの姿しか知らない。
初めて狢と娘が出会ったのはそう古いことではない。
狢はその時、大狢の姿で人里を襲い、獲物を小脇に抱えて棲処へ戻るとこ
ろだった。森を抜け、小川を渡ろうとしたところに娘がいた。
年の頃は十六七であろうか、粗末な継ぎ接ぎの単衣をまとい、もう冷たく
なった川に独り入り、小魚を捕る仕掛けを見に来ていた。
人間の喰い頃はせいぜい十歳くらいまでだ。幼い個体は肉も軟らかく、適
度な脂肪もあり、生でも煮ても焼いても美味い。十歳を超えると喰えない
ことはないが、肉が固くなり、独特の臭みが出る。人間の味を覚えた熊等
は、その臭みがいいと言うが、狢は好んで喰うことはない。

つづく

829 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/19(土) 00:19:06 ID:/EsPeCEO0
妖怪志願 第参話 その参

「他にも美味いもんはあるわい」
だから、娘と初めて出会った時も、特に興味は覚えず、一瞥しただけで、
山に消え入った。
娘の方は、大狢を見た途端、体の自由が効かなくなり、大狢が消え去った
後、ようやく仕掛けの上に尻餅をつき、せっかく捕れた小魚を逃がした。
その小魚が娘とその家族にとってどれだけ貴重な食料であったか、そんな
ことは、狢の知ったことではなかった。
次に娘と出会ったのは、狢が行商人に化けて、酒類を仕入れに人里に行っ
た時だ。もう村が見えてきた頃、村はずれの畦道で童子達が小石を投げつ
けていたのがその娘だった。娘は唯俯き、耐えるように歩いてくる。人間
に化けた狢に気付いた童子達は小石を投げるのを止め、悪態をついて散っ
た。娘は俯いたまま狢の傍らを通り過ぎた。
村に入り、顔見知りの百姓屋で酒を調達する際、狢は娘のことを訊ねた。
「おめぇさんはぁ、よそもんだから知るまいがよぉ、あの娘の一族はぁ、
 この郷にとっちゃ疫病神なんだぁ」
「そりゃまた、どういうわけだね」

第四話につづく

849 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/21(月) 07:25:17 ID:RmU5y+U10
妖怪志願 第四話 その壱

その百姓の話によると、こういうことらしい。
平安の世の終わり、そう、狢が物の怪になって間もない頃か、源平合戦が
あり、西へ西へと追われた平氏は最後の合戦、壇ノ浦で敗れ、あるものは
落人として狢の棲むこの島に逃れてきて、住みついた。
俗に平家落人の隠れ里とか、平家谷とか呼ばれる集落の人々がそれである。
この郷の外れ、かなり野山に分け入った所にある集落もその一つで、その
境遇に同情する当時の郷人に守られてきた。
集落の人々も郷人の恩に報い、武家であることを捨て、半農半猟の民とし
て生き、また当時の進んだ農業技術を郷人に伝え、この郷は豊かになった。
そのような関係が数百年続いたが、時代は戦乱の世となり、それまでこの
郷を代官として支配していた守護が駆逐され、国人の出である平氏系の某
氏の支配するところとなり、その某氏に加担する元落人も出た。
この郷の外れの集落は武家に戻ることを是とせず、以前よりも隠棲するよ
うになった。それからまた何年かが経ち、某氏は内紛で浮き足だったとこ
ろを攻められ滅亡、新たなる領主は平氏系の落人を徹底的に弾圧した。
隠れ里が見つかれば、長年保護してきた郷も只では済まない。

つづく

850 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/21(月) 07:30:05 ID:RmU5y+U10
妖怪志願 第四話 その弐

「あの一族もよぉ、戦を拒んだばっかりに、陽の当たるとこを歩けんよう
 になってしもうた。可哀相じゃあるけどよぉ」
その百姓ほどの年寄りは、むしろその一族に同情的であるが、若い者を中
心にその一族を新しい領主に差し出してでも、郷の安泰を図った方がいい
という意見が多かったという。
「だどもよぉ、長いこと一族だけでやっとるせいか、もうほんの僅かしか
 おらんようや。若いのはあの娘だけで、あと年寄りが何人かのはずや。
 やっぱ、血ぃが濃くなるんはあかんのかのぉ」
娘一人では、その一族に未来はない。それならば、余計な波風を立てるこ
とはない。
一族の連中も、もう何年も里には下りてこないという。ただ、その娘だけ
が時折山で捕れたものを持ってきて、塩とか農器具とかと交換していく。
無論、足下を見られ、ろくなものとは交換できない。そして、事情を知ら
ない童子達は蔑みの対象として娘を見、大人達もそれを窘めない。
「あげんせんでもええ思うがのぉ、庇えばわしんとこが村八分や」
百姓は、行商人がよそものだから話せるという。

つづく

851 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/21(月) 07:33:47 ID:RmU5y+U10
妖怪志願 第四話 その参

そして、けっして口外しないようにと付け加えた。
娘やその一族がどうなろうと、郷がどうなろうと知ったこっちゃないと思っ
た狢だったが、娘の一族に興味を覚えたのも事実だ。
人間でも、何百年も何代も渡って他の人間との交わりを避け、ただ一族だ
けで生きることもあるのかと。
いっそ、人間なんぞ止めて、獣になってしまえば、その一族も幸せに暮ら
せるだろうに。そんなことを考えながら狢は村を出、森を通り抜け、山に
分け入ったところで人間の姿から狢に戻った。
幾つかの尾根を越え、谷を渡ったところにその集落はあった。
集落と呼ぶにはあまりにも粗末、たった二軒のあばら屋。ろくに雨風を防
ぐことすら出来なそうに狢には思えた。
あばら屋の周りは、僅かばかりの畑。その集落は山の森に気まぐれで出来
た隙間でしかなかった。
その隙間の縁に立つ人影二つ。一つはあの娘。そしてもう一つは杖をつい
てやっと立っている風情の老人。
二人は森に向かって瞑目しているようだ。

第五話につづく

863 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/21(月) 23:25:21 ID:RmU5y+U10
妖怪志願 第五話 その壱

長い瞑目が終わり、二人はあばら屋の一つに向かう。老人は一歩、そして
一歩、足場の悪い橋を渡るように歩く。娘はその片腕を支える。
二人があばら屋にたどり着く頃、陽は西の山陰に入り、空だけは明るいが、
辺りは暗くなる。
「これだけ陽が当たらん土地やと、ろくに作物も育たんわなぁ」
周囲がすっかり暗くなるのを待ったが、あばら屋に灯が灯されることはな
い。狢は足音を消してあばら屋に近づく。
ぶつぶつとつぶやくような、唱えるような細い声。何を言っているのかは
聞き取れない。おそらく、老人の声。そして娘が老人の躰をさするような
気配。他に人間の気配はない。
もう一軒のあばら屋に近づく。こちらはもぬけの空。何か盗れるものでも
ないかと狢は中に入ったが、盗って得するようなものはなにも見あたらな
い。
狢はあばら屋を出て、先ほど二人が立っていた辺りに畑を進む。
「なんやこりゃ、みんな、蕎麦やんか」
狢の足下は収穫の終わったしなびた蕎麦の茎で埋め尽くされていた。

つづく

864 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/21(月) 23:29:57 ID:RmU5y+U10
妖怪志願 第五話 その弐

この時代、蕎麦を蕎麦切り、現代で言う麺で食べる習慣はまだない。臼で
その実を挽き、水か湯で溶いて食べる。しかも、たったこれっぽっちの畑
だ。年に二回収穫できるとしても、一人分にもなりそうにない。
畑と森の境には、真新しい土まんじゅうがあった。
狢は悟った。
「そうか、今日、一人仲間が死んだか」
空き家のあばら屋は今朝までこの土まんじゅうの主のものだったのだろう。
「そして、あのじぃさんは、娘の親か」
森の奥、古い土まんじゅうがあるのに狢は気付いた。そして更にその奥に
はより多くの、そして、崩れかけた土まんじゅう。
その数はゆうに百基を超えるだろう。そして、よく見ると畑に近い木は若
く、奥に行くに連れ古木となる。崩れかけた土まんじゅうが多くあるとこ
ろより向こうは周囲の森と変わらない植生。
一族がここに棲みつき、郷との関係も良かった頃は二三十軒はあったのか
もしれない。畑も今よりはずっとずっと広かったのだろう。そして、一軒
減り、一軒減る毎に畑に手が廻らなくなり、森に呑まれていった。

つづく

865 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/21(月) 23:32:37 ID:RmU5y+U10
妖怪志願 第五話 その参

あのじぃさんの様子では最後の一軒も長いことはないだろう。その時、娘
はどうするのか。ここに居つくにしろ、どこかに行ってしまうにしろ、遅
かれ早かれこの集落は森に呑まれるだろう。
崩れかけた土まんじゅうの辺りを歩きながら、狢は考えた。
「いかん、いかん。わしには関係のないこっちゃ」
あのじぃさんが明日死のうが、十年先に死のうが、娘がまた小石を投げつ
けられようが、わしには関係ない。
狢はそう自分に言い聞かせて、自分の棲処に戻った。
そして、恐ろしい冬が来た。
比較的温暖なこの島でも冬になると雪が降る。そして、山は積もった雪で
閉ざされる。
狢の棲処は天然の洞穴と木立を利用した物で、出入りの時以外は入り口の
木々が閉ざされるので、外から棲処と判るものではない。棲処の中では必
要に応じて火を焚くことによって快適な温度が保たれる。
雪に閉ざされる間は狢は棲処に隠ることが多いが、雪のやんだ日などは、
獣や人間などの食料を獲るために出かけることもある。

第六話につづく

866 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/21(月) 23:38:46 ID:RmU5y+U10
ところで、

このスレを見ている人はこんなスレも見ています。(ver 0.20)
宮崎県のうどん屋・そば屋 [そば・うどん]

を引っ張ってきたあなた(誰だか知りませんが)

私、第五話自体を書いたのは一週間ほど前で、上の宮崎県うんぬんは、まだ出て
なかったんですが・・・・・・

あなた、予知能力があると自慢してもいいかもしれませんよ
(と無理矢理オカルトネタを振ったりして・・・にゃはは)

メルクリンさんの方は透視能力があるかも知れない
(昨日室内ラジコン飛行機を買ってしまいました)

870 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 00:41:43 ID:R2OQhDX10
うーむ、やっぱり最初の方はタルかったか
こんな私が文学的表現なんて意識するのが間違いでしたか
勢いで書いた方が読みやすいのかもね

>>868さん
やはり、あなたが一番怖い存在ですわ
もしよければ、避難所の方も覗いてみて下さい
(気付いてる方は気付いてるでしょうが)狢さんが、余計なことぶっとばしで書いてます
どちらの文体がお気に召しますかねぇ

871 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 00:58:40 ID:R2OQhDX10
>>869さん
そんなに読み難いですか・・・・・・  or2    じゃなかった   orz

自夜物語の時に、改行が大杉とか、いろいろ弾かれたもんで、試行錯誤の上、現在の
33x16x3にしたんですがね。これならだいたい一話分が新聞の連載小説くらいの分量
かなって、思って・・・・・・

で、今読売新聞で確かめてみたら、一日分が20x46くらいなんですね
損こいた

一応、ずっとこのスタイルで逝っているんで、悪いですけど妖怪志願まではこのスタイル
でやらせてもらえませんかね
Web Site の方では、縦書きバージョンも用意してますんで、字数で改行入っても、
そんなに読みにくくないんじゃないかと・・・・・・
よろしければ、そちらも見て頂けるとうれしいです

Web Site への掲載は、>>868さんの鋭い突っ込みにより、連載終了後となりますが・・・

875 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 01:11:05 ID:R2OQhDX10
>>874さん
やっぱり、四百字詰め原稿用紙とか、640x400(or480)pixsで育ったせいですかね、
私は>>874での書式は全然読み辛さを感じない(むしろ自然に感じる)方です

やっぱり、おばさんなんですね・・・・・・・でも、おねいさんで通したい

876 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 01:24:16 ID:R2OQhDX10
>>874さん
で、実際のところどうでしょう

自夜物語でやってたようなスタイルの方(或いは幽霊談義とか)が、やっぱいいですかね?
オカ板では多分やらないと思いますが、次企画の参考のために、よろしければ
回答して頂くと嬉しいです

自夜物語がどういうスタイルでやってたかってのは、三悪漫遊記の方で見れます
(と宣伝、宣伝)

879 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 01:45:03 ID:R2OQhDX10
えっと、一部の方が嫌いらしい業務連絡です

妄想同盟 [paranoia] さんに登録っちゅうか、参加してしまいました

ちゅーわけで、第三者認定も得ましたので、私のは妄想と思って頂いて構いません
(ちゅーても、別に信じへんでもええよ、でやってますから、今までと変わってないですね)

881 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 02:16:38 ID:R2OQhDX10
>>880さん
あぁ、ごめんなさい

内容についての質問でなしに、書式についてです
今まで通り、33文字目で改行をきっちり入れるのがそんなに読みにくいなら、
ここで書いているように、大体一文(長い時は適当に)で改行を入れるのがいいか
という質問です

後者の場合、一回当たりに書く分量が掴みにくいのと、Web Site に掲載する場合に
多少面倒ぃという私側の都合がありますです

内容については・・・・・・次企画は、エロパロで逝こうかと・・・・・・

882 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 02:26:07 ID:R2OQhDX10
ついで(?)に訂正です

>>866で、つい「室内ラジコン飛行機」と書いてしまいましたが
正確には赤外線コントロールです
電波も赤外線も電磁波だから、許してちょ・・・・・・ちと無理か

他称マッドエンジニアの私としては恥ずかしい限りです

884 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 02:47:04 ID:R2OQhDX10
>>883さん
ん〜、ご要望は理解しました
次企画までにはいろいろ考えて決めたいと思います

ただ、現進行中の妖怪志願は(避難所も含めて)現書式で堪忍して下さい
既に書き終えている部分が多いので、これを修正するのは、正直苦ぴぃ

886 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 07:51:05 ID:R2OQhDX10
妖怪志願 第六話 その壱

「また来てしもうたわい」
狢は出かけると、つい、あの集落に足が向く。行ったところで、遠くから
見るだけでどうこうするわけではない。だが、気になる。
雪に閉ざされ棲処に隠っている間、考えるともなしに、娘のことが気にか
かる。この雪の重みであのあばら屋が潰れてはいまいか。すきま風で凍え
死んではいまいか。
そして、遠くから積もった雪の中に頼りなく建っているあばら屋を見、雪
の畑に娘の足跡を見、時にはあばら屋の周りを雪掻きする娘の姿を見てほっ
とする。が、棲処に戻り、また雪に閉ざされると気になって仕方ない。
「そういえば、空き屋の方が見えなんだな。雪に潰されたか、はたまた、
 雪が降る前に薪を得るために潰したか」
この冬を乗り切れても、次の冬の薪はどうするのだろう。次の冬は無いの
かもしれない。
そんなことを考えている内に、ようやく魔物のような冬が去り、春がやっ
てきた。
「まぁ、なんとか乗り切ったようやな」

つづく

887 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 07:53:35 ID:R2OQhDX10
妖怪志願 第六話 その弐

まだその集落の畑は白いままだが、郷の家々の屋根が本来の色を取り戻す
頃、狢はまたその集落に立ち寄っていた。
「すぐに春蒔きの蕎麦の芽が出るやろう」
もう、心配することはない。もうここに立ち寄るのは止めよう。狢はそれ
までにも何度も思ったことをあらためて思い、その集落から立ち去った。
雨が降り寒くなり、雷が暴れて雨がやみ、暖かくなる。そんなことを繰り
返しながら、確実に山々の緑が増えていった。
狢は久しぶりに山のとある頂に出かけ、自分の支配する世界を満足げに眺
めた。
そう、その日も今日のように、岩に寝そべって、陽を思う存分に浴びてい
た。背後に聞こえる下草のざわめきまでその日に重なる。
その日、狢は狢の楽しみを邪魔された怒りで大狢に姿を変え、ざわめきの
主に寝そべったまま怒鳴りかけた。
「誰じゃ、そこに居るのは。わしの邪魔をすると、どがいなるか知らんの
 か?」
無礼な穴熊の野郎か、はたまた事情を知らん旅のはぐれ氈鹿か。

つづく

888 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/22(火) 07:56:33 ID:R2OQhDX10
妖怪志願 第六話 その参

てっきり逃げ出すと思っていたざわめきの主は逃げ出そうともせず、逆に
狢の方に近寄ってくる気配がする。そして、藪から抜ける処で立ち止まる。
明らかに怯え、震えている。
「誰じゃと聞いとる。わしの事を知っての無礼か」
狢はざわめきの主と反対の方を向いたまま、大声で誰何する。
「あ、あの、わだ、わ、わたし、は・・・・・・」
震えてはいるが、澄んだ声。声?人間の声ではないか。では、わしの邪魔
をしたのは人間か?
狢はそう思い、ゆっくりと顔を声の主の方に向ける。
声の主は腰を抜かして、その場にへたり込む。
なんじゃ。あの娘、隠れ里の娘ではないか。
「人間の分限で何しに来た」
狢は静かに、しかし低い声で訊ねた。
娘の唇は震えながらも動いている。しかし、恐怖で声にならない。
「ここは人間の来るところじゃない。命が惜しけりゃ戻れ」
娘はごくりと唾を飲み込むと、震える声で狢に答えた。

第七話につづく

903 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/25(金) 07:41:04 ID:PZOQdxCr0
妖怪志願 第七話 その壱

「な・・・名のあるも・も・物の怪様と、おみ・お見受け・・いたします」
狢はその大眼を娘に向ける。
「どうか、私・・・を、物の怪にして下さい。お願いします」
娘は額を地面に擦りつけて懇願する。
「どうか・・・・・・お願い致します」
狢は呆気にとられた。
今までに命乞いをする人間、魂をくれてやるから願いを叶えろと言う人間、
そして退治してくれると豪語したあげくに惨めに敗れ去った人間は居たが、
物の怪になりたいと言う人間は初めてだ。
「一族の・・・お・掟で・・・子細は申し上げられませんが・・・私達の
 一族は・・・他の者との交わりを・・・避けて来ました」
娘は顔を上げようとしない。その小柄な躰の震えは止まらない。
「その一族も・・・み・皆死に絶え・・・私・・・独りになりました。」
そうか、あのじぃさんも死んだか。この娘は独りでじぃさんを弔ったか。
「こ・・・この先、人として・・・生きれない以上、いっそ・・・」
「いっそ、物の怪になりたい・・・か」

つづく

904 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/25(金) 07:43:21 ID:PZOQdxCr0
妖怪志願 第七話 その弐

娘は顔を上げて大狢を見る。狢はにやりと嗤う。
「物の怪になって、無念を晴らすか。人間に復讐でもする気か」
「め・・・滅相もございません。ただ私は、人を超えた存在になりたいと」
娘は再び額を地面に擦りつける。
「そうなれば、一族の想いが少しでも長く残る・・・」
「娘よ」
狢は静かに語りかけ、娘は顔を上げる。その瞬間、大狢は更に大きく化け、
娘の眼前にそのおぞましい形相の顔を出す。
大狢の躰から妖気が迸り、周囲を冬に戻す。
「ふざけるな。一族の想い?そんなものが何になる。そんなもののために
 物の怪になって何になる」
狢の大音声に娘の躰は硬直し、小水が地面を濡らす。
「そんな下らんもののために、わしを煩わす気か」
狢は元の大狢に戻り、元の場所、岩の上に戻り、娘と逆の方向を向く。
「悪いことは言わん。人に生まれた以上、人として生きよ」
娘は三度ひれ伏す。

つづく

905 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/25(金) 07:45:54 ID:PZOQdxCr0
妖怪志願 第七話 その参

随分と長い間、狢と娘はそのままだったが、やがて娘は立ち上がり、悲し
げな顔で狢に一礼すると、元来た道を戻っていった。
それで諦めたと狢は思っていたが、それからも三日を空けず、娘は狢の処
に訊ねて来、その度に狢は大狢になって追い返した。
そして、今日も又、娘が下草を掻き分けて、狢の背後に現れた。
「狢様」
背後で娘が跪く気配がする。いつしか娘は狢のことを狢様と呼ぶようになっ
ていた。
「狢様。いよいよ人として生きていけなくなりました」
どういうことだろう。狢は気になったが、知らぬ振りをして振り向かなかっ
た。
「私達の里はもうありません。私には返るところがなくなりました」
郷の者達から追い出されたのか、それとも郷の者達と諍いを起こしたか。
「私達の一族の存在を許さない者達が昨夜私達の里に火を放ちました。僅
 かばかりの建物、畑、全て燃えてしまいました」
なるほど、領主がついに嗅ぎ付けたか。

第八話につづく

906 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/25(金) 07:48:05 ID:PZOQdxCr0
妖怪志願 第八話 その壱

さて、郷の者はどう出たか。娘がこうしてここに来ている。匿う気はない
のだろう。集落が領主に見つかったと言うことは、郷の者が密告したのか
もしれない。
「身一つで逃げるのが精一杯でした。この手刀以外、何も持ち出せません
 でした。見つかれば、きっと殺されるでしょう。私が生きていることが
 判れば、郷の者にも迷惑がかかるかも知れません」
娘に小石を投げつけるような郷の者など、気にすることもあるまいに。
「私は人としては死ななければなりません。どうか、お願い致します」
狢はゆっくりと振り返り、娘を見た。唯でさえ見窄らしい単衣が今や襤褸
同然である。顔や手足、肌が出ている所は全て煤けている。
そして、両の手でしっかりと握られた手刀。
「物の怪に成れないのであれば、せめて下女として使って下さい。狢様の
 ところに置いて下さい」
狢は両の眼を見開いて娘を見た。娘の目は真っ赤に腫れて、今にも泣き出
しそうな顔をしている。狢はやがて視線を逸らしてまた逆の方を向いた。
「断る」

つづく

907 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/25(金) 07:49:55 ID:PZOQdxCr0
妖怪志願 第八話 その弐

背後で娘の泣き出す気配がする。声を押し殺して泣いている。
物の怪である狢とて、情はある。いや、娘の境遇には充分同情していた。
むしろ娘を助け、あの物の怪に喰われたかった姫さんの時のように、馬鹿
共相手に一暴れしたい気すらする。
だが、それは一時の享楽にしかならない。
「わしは物の怪や。あらゆる生き物に災いをふりかける悪しき存在や。生
 き物とは、まして人間とは暮らせん」
そして、拒絶の沈黙。
絶望して自害するかな。ふとそう思ったが、その気配はない。狢はほっと
した。
自害したらしたで、それまでのことだ。狢は無理にそう思う。
「では、せめてものお願いです。狢様は、元は物の怪ではなかったと聞き
 ます。狢様がどうやって物の怪になったのか、教えて頂けないでしょう
 か」
「そがいな昔のことは忘れた」
狢は興味なさげに答える。

つづく

908 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/25(金) 07:52:16 ID:PZOQdxCr0
妖怪志願 第八話 その参

「気が付いたら、人を襲い、人を喰らう物の怪であった。それだけや」
「人を喰らう物の怪・・・」
狢はまた娘の方に振り返り、にやりと嗤う。
「そうや、怖いか」
「はい。たいそう恐ろしゅうございます」
言に反して、娘は怖がる素振りを見せていない。涙も止まっている。ただ、
微かに震える膝頭が娘の本能的な畏怖を顕している。
「わかったなら去ね」
「はい。有り難うございました」
娘は丁寧にお辞儀をし、踵を返して去った。
娘が充分離れたのを確かめて、狢は大狢から狢に戻った。
「せっかくのええ気分が台無しや」
狢は大きく延びをして、岩から降り、森の中へと入っていった。
物の怪になってなんになる。物の怪なんぞ、徒花や。生き物の掟から、な
にかの拍子で外れた化け物や。長生きできてもそうええもんやない。たと
え不幸な一生でも、物の怪なんぞにならんほうがええ。狢はそう考える。

第九話につづく

938 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/29(火) 07:47:11 ID:w5WSmaTi0
妖怪志願 第九話 その壱

狢は鼻をひくつかせる。
「なんや、人間の匂いや。それも侍の匂いや」
気が付くと、狢はあの集落の近くまで来ていた。
集落は、焼け野原と変わっていた。土まんじゅうも無残に壊され、暴かれ
ている。焼け野原には侍が何人か。
「やつら、山狩りでもするつもりか」
ここで一暴れしてもいいが、結局その場しのぎの快楽でしかない。
狢は踵を返し、棲処に戻る。
途中、棲処を取り囲むように要所要所に術を施す。獣も人間も、術を施し
た場所に近づくと、感覚を惑わされて同じ処をぐるぐる彷徨う羽目になる。
「これで棲処には近づけんやろう。やつらとは、関わり合いにならんのが
 一番や」
狢が棲処に戻る頃にはすっかり暗くなっていた。棲処を偽装するために植
えた木々。一見、岩山の懐に密生した木々、棲処の入り口でもある。
狢が苗木から育て、何年も、何十年もかけて狢の意のままに動くように育
てた木々。それでも木々の心を狢は読み取ることが出来ない。

つづく

939 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/29(火) 07:50:07 ID:w5WSmaTi0
妖怪志願 第九話 その弐

「所詮、獣と草木や。分かり合えるのは無理っちゅうことか」
木々の心は読めないが、木々は狢に逆らおうとはしない。それで充分だと
狢は思う。
狢の目を何かが捉える。
「なんや、こりゃ」
木々の端、ほぼ岩肌に接する辺りにこんもりとした盛り上がり。昼間の娘
であった。
ちょうど、木と木の間が躰を休める窪みを与えている。娘は昨夜の逃亡か
らの疲れが溜まっていたのか、気持ちよさそうに寝息を立てている。
「結界を張る前に潜り込んだか」
おそらく娘はここが狢様の棲処とは気付いていないだろう。
「おまえら、この娘を守る気か?」
木々は、素知らぬふりで葉をそよそよと揺らす。
「わしは知らんぞ。おまえらが勝手にしたことやからな」
狢は小言を言いながら、入り口と思しき方に進む。木々の幹がしなりと動
き、洞穴への入り口を開ける。

つづく

940 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/29(火) 07:52:16 ID:w5WSmaTi0
妖怪志願 第九話 その参

「まったくなんちゅうこっちゃい」
寝床についても狢の怒りは治まらない。
確かにこの棲処の近くにいれば安全だ。夜、獣達に襲われる心配はない。
思い起こせば、狢がどの頂にいても娘はやってきた。娘には獣達の気配を
感じる能力があるのだろう。獣達の気配が少ない方、獣達の気配がしない
方に進んで狢を探り当てた。そして、同じ事をして自分の塒を探り当てた。
加えて、つい先ほど、山狩りの手からも守る術を結果的に狢自身がかけた。
狢にはそのことが我慢ならない。と言って、結界を解く訳にはいかない。
娘は狢の棲処の辺りを自分の塒と決めたようだ。狢にとっては迷惑な話だ。
狢が外に出る場合、まず外の様子を探り、娘の気配を探り、そしてこそこ
そと棲処を出る必要がある。
娘は獣を捕ることを覚え、その肉を喰らうようになった。
山狩りの侍の気配が消え、狢が結界をようやく解くことが出来るようになっ
た頃、季節は実りの秋を迎え、他の獣達が冬に備えて喰らいまくるのと同
じように、娘は逞しくなった。
そんな秋のある日、狢はとある頂の岩の上に大狢に化けて居た。

第拾話につづく

941 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/29(火) 07:55:58 ID:w5WSmaTi0
妖怪志願 第拾話 その壱

娘が下草を掻き分けて、狢の背後に現れる。
「狢様。ご無沙汰しております」
狢は振り返りもしない。
この娘は、まさかわざわざ険しい山を登って会いに来た相手が、自分の塒
である木々に守られた内側に棲んでいるなど思いもしないのだろう。
「ようやく獣のように、獣を捕らえ、血を啜り、肝を囓り、肉を喰らうよ
 うになれました。このまま山で暮らしておれば・・・」
「無駄なことや」
狢は冷たく言い放つ。見ていなくても、娘の顔が曇るのが判る。
「そがいなことしてたって、物の怪にはなれん」
狢が振り返り、娘の目を刺すように見る。その恐ろしい形相に、娘の膝頭
が震える。
「獣になれたんなら、獣として生きればええ」
娘が拳を握る。俯いた顔に無念の表情が浮かぶ。
「判ったなら、去ね」
娘は頭を下げ踵を返しとぼとぼ戻る。その背中を狢は冷ややかに見ていた。

つづく

942 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/29(火) 07:57:57 ID:w5WSmaTi0
妖怪志願 第拾話 その弐

その後、娘の態度が変わった。塒にしゃがみ込んだまま、物思いに耽るこ
とが多くなった。
狢は益々外出に困難を生じるようになったが、もうじきの辛抱や、もうじ
き諦めて山を降りるやろうと自分に言い聞かせた。
やがて、山に白い粉が舞い散り、本格的な冬が訪れようとしていた。
娘はまだ狢の棲処の辺りを塒としていたが、このころになると、遠出でも
しているのか、二三日戻らないことが度々あった。
娘が見えないと、気になる狢であったが、木々の間に丸くなり、落ち葉の
布団の中で寝息を立てる娘を見つけては安堵することが続いた。
「なんじゃい、おまえらは。いつもは冬になれば裸になるくせに」
まるで、娘を雪から守るように、低い枝から娘の上に青々した葉さえ茂ら
せている。
そして、全ての色が無くなる冬が来た。
相変わらず、木々は娘を白い魔物から守っている。狢は面白くない。
ある、雪のやんだ日、娘が出かけるのを狢は二階の木々の隙間から見た。
狢は暫く逡巡したが、やがて階下へ降りた。

つづく

943 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/29(火) 08:00:20 ID:w5WSmaTi0
妖怪志願 第拾話 その参

「こら、開けんかい。このわしに逆らう気か」
出入り口の処に狢は来たが、木々は動こうとしない。こんなことは初めて
だった。木々は狢より娘を選ぶというのか。
「安心せい、ただ見るだけや。どうこうしようとは思っとらん」
木々はしぶしぶと動き、狢のために出口を作った。
狢は白兎に化け、娘が漕いだ雪の谷間を追った。
人間が雪を漕ぎながら進む速さなどたかが知れている。そう思っていた狢
だが、走っても走っても追いつかない。
いつの間にか、午の刻が過ぎ、いつの間にか、冬の早い夕暮れが訪れよう
としていた。
「こりゃ、はぐれたかな」
いや、この漕いだ雪の跡はまだ新しい。狢はまた走った。尾根を越え、谷
を越えて走った。そしていくつ目かの尾根を越えて、ようやく娘が見えた。
娘は谷沿いに雪を漕ぎ進む。周りは灰色一色。娘の先には雪が少しだけ盛
り上がっている。
「そう言えば、この辺りは人間がよく通る峠道やな」

第拾壱話につづく

944 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/05/29(火) 08:32:09 ID:w5WSmaTi0
え〜っと、業務連絡になります

なんとかこのスレで終わりそうな雰囲気で連載の方も進行してますが、もし、スレの
方が先に終わってしまったら、>>1にある避難所の方で残りをうぷすることになると
思います

次スレを立てるとしたら、同じく避難所と、Web Site の方で連絡します

自夜と狢さんの関係については、避難所の>>163で狢さんが解説(?)してますので、
そちらをご参照下さいです

>99 197さん
前世話になるのかな?
このスレも、もうじき終わりますんで、つづきがあるのであれば、避難所の方を使って
頂いてもかまいませんし、私の Web Site の掲示板なり苦情箱なりメールで連絡して
もらえれば、Web Site の方でうぷさせていただきます。よろしければ、ですけど
(苦情箱がいいのかな。メアド入れなくてもいいし、他人は直接は見れませんから)

ちなみに、私のメアドは、 ojiya1539@gmail.com です

ほいじゃ、残りも少ないですが、ご歓談ください

976 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:13:47 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾壱話 その壱

狢は兎のまま離れたところから娘の所業を見る。
娘は雪の盛り上がりに辿り着き、雪を掘り始める。
雪の中から、三角の薄っぺらいものが出てくる。
「あれは人間がよく頭に載せる笠というものじゃな」
雪の中から、蓑虫の簑の化け物みたいなものが出てくる。
「あれは藁で作った人間の雨具じゃな」
そして、その下には黒い塊。
娘はその塊を仰向けにし、凍った着物の前を、悴んだ手で開ける。そして、
腰から手刀を抜き、塊の腹に当てる。
どのくらい雪の中にあったのか、凍った腹はなかなかさばけない。
ようやく黒い石のようなものを取りだし、娘は両の手にとり見つめる。
その横顔は思い詰めた顔そのものだ。
いきなり娘は石に噛みつく。囓り取るように首を振り、石の残りが口から
離れる。
娘は肩を落とし、ため息をつく。その刹那、娘は石を落とし、手を口に当
ててふさぎ込む。吐瀉の音が狢にまで聞こえる。

つづく

977 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:16:05 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾壱話 その弐

ひとしきり、嗚咽を漏らし咳き込んだ後、娘は肩を大きく上下させながら、
顔を起こす。再び手に持った石の残りを見つめる顔は、涙、涎、血糊で凄
惨なものとなっている。
そして、また石に齧り付く。
何度も噛みついては吐瀉を繰り返す。何度も何度も。
そして、最後には仰向けに雪の中に倒れ込む。
「なるほど、行き倒れの旅人の肝を喰らおうとしたか。人を喰らえば、物
 の怪になれると思うたか。そげなことしても無駄じゃ」
狢はため息をついて、棲処に引き返した。二三日して娘が戻ってきた。
秋口の逞しさが嘘のように、日に日に娘は痩せ細っていった。その目だけ
がぎらぎらと顔から浮き上がって見える。
ただ、木々に守られ、寝息を立てている時だけが、安らかな顔つきに戻っ
た。
狢は時折娘の寝顔に語りかけた。
「なぁ、もうええやんか。ただの獣として生きろ。それがぬしのためや」
娘は答えない。木々だけが、狢に何か言いたげにその枝を震わせた。

つづく

978 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:18:15 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾壱話 その参

長い長い冬が過ぎ、ようやく春の前触れが感じられる季節になった。
娘は相変わらず、何日か留守にしては戻ってくる。近頃は、戦場跡も巡っ
ているようだ。だが、益々頬が窪んでいく形相から、なかなか人肉は喉を
通らないらしいと判る。
「無理もない。喰らう以上に吐けば、そりゃ痩せる」
やがては体力を使い果たし、何処かで朽ち果てるのかも知れない。それと
も、娘の念願通り、山姥にでも成れる日がくるのか。いや、あんなものは、
傍若無人のばぁさんにしか成れない。
ある日、狢は行商人に化け、あの百姓屋に酒を求めに里に下りた。里では
すっかり雪が解け、文字通り、人も土も虫も春を謳歌していた。
「おめぇさん、聞きなさったかねぇ。いよいよ、大胡様が化け物退治に立
 ち上がりなさるそうだで」
「そりゃまた、どういうことだね」
「あっちの山にはな、昔から化け物が棲みついとるちゅう話があってな、
 ここらで起こる神隠しはその化け物の仕業だっちゅうことでな。拐われ
 た娘っ子は、化け物の嫁にされるとか、喰われるとか」

第拾弐話につづく

979 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:20:00 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾弐話 その壱

なんじゃ、わしのことか。狢はそう思ったが、黙って先を聞いた。
「近頃じゃ、旅人を襲って喰ったり、戦で死んだ侍の屍肉を喰い漁ったり、
 そのうち、里や町にも出てくるんやないかって話でよぉ」
「で、大胡様の登場かいな」
百姓は、おめぇさんも、襲われんように気を付けなよと加えた。
なるほど、本人はまだ物の怪やのうても、人間共は既に物の怪扱いしとる
というわけかい。
狢は棲処に戻る途中、再び術を施して回った。これで、その大胡とやらが
棲処に近づくこともなければ、娘が結界の外に出ることもあるまい。
狢はそう思ったが、娘はまた何日か留守にしては戻ってくる。
娘には狢の術が通じないのか。いや、そういうことはない。
「また、おまえらか」
草木は個にして全、全にして個。獣の類とは全く異なる観念で生きている。
大方、棲処の木々に同調して、娘のために狢の術をかわし、道を造ってやっ
ているのだろう。
「余計なことを」

つづく

980 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:21:52 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾弐話 その弐

いつの間にか、娘が戻って、木々に守られて眠る頃、娘の寝顔をそっと窺
いに行くのが狢の習慣となっていた。
手足は骨に皮が張り付くほどになり、その体には娘らしい丸みなど残って
いなかった。顔だけは木々に抱かれ、まるで母親に抱かれ、すやすやと眠
る赤子のように安らかだった。だが、その顔も、目が覚めれば目だけが異
様に光る夜叉となるのを狢は知っていた。
ごく普通の百姓に生まれていれば、この娘ももう赤子に乳をやる年頃だろ
うに。
娘が寝言を言う。
「・・・狢様・・・」
起きている間はまず喋ることがない人間の言葉。
狢は無性に腹が立つ。物わかりの悪い娘に腹が立つ。娘を甘やかす木々に
腹が立つ。そして、娘のために何もしない自分に腹が立つ。
狢は苛ついて酒をあおり、部屋の中からは壁になっている木々に悪態を付
く。そして、娘とは裏腹に眠れぬ夜を過ごす。
木々のざわめきで目が覚める。もう陽は高い。

つづく

981 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:24:08 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾弐話 その参

「どうした、おまえら」
寝起きの狢の頭に断片的に木々の想いが入り込む。狼狽、恐怖、悲哀。獣
達とは異なる思念の洪水に狢の頭は痛む。
「あぁ、五月蝿い。いっぺんに喚くな」
狢は棲処を飛び出し、娘の塒を当たる。すっかり冷たくなっている。
狢は四方に首を回し、鼻をひくつかせ、耳朶を向ける。
「こっちか」
狢は走り出した。頼りは娘が残したかすかな匂いだけ。
「なんじゃこりゃ」
狢が術をかけた辺り、木々がねじくれ、行く手を塞いでいる。そして、穴。
穴の中にも根が飛び出し、何度も掘り代えた跡がある。
「そうか、おまえらは止めようとしたんやな。それをあの娘が」
木々は狢を通そうとうごめくが、絡まって道が開かない。狢は娘が開けた
穴を通った。
尾根を越え、谷を越え狢は走った。
途中、侍の屍があった。頸の傷は刀やない。あれは手刀。

第拾参話につづく

982 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:26:18 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾参話 その壱

尾根を越え、河原に出るところで狢は止まった。
「しまった。遅かったか」
河原には夥しい侍の屍。あるものは喉を切られ、あるものは額を刺され、
あるものは手足があらぬ方を向き、まだ悶絶している。
二十体はあろうか、その向こうに甲冑姿の侍、刀を八相に構えている。察
するに、こいつが大胡か。そして、大胡に対峙する四つん這いの獣。いや、
四つん這いではない。左腕が肩から無くなっている。
「ば、化け物め」
大胡が呻く。娘が吼え返す。あのぎらつく目が一つしか見えない。
大胡が一歩躙り寄る。娘の跳躍。大胡の一刀を宙で躰を捻って避ける娘。
そして、振り返りざまの大胡の切り返しが娘の脚を捉える。
骨の断ちきられる音。
だが、その切り返しが大胡の命取りになる。
娘の右腕がいっぱいに伸ばされ、大胡の眼前を払う。その手に握られた手
刀にまとわりつく血糊と眼髄。
刀を放り投げ、絶叫をあげ顔を押さえる大胡。宙を舞う右脚。

つづく

983 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:27:49 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾参話 その弐

娘は地に落ちると、吹き出る己が血潮を意にも介せず、大胡に飛びかかり、
その首筋に齧り付く。
一際高い絶叫と共に、まるで怒った火の山のように血潮が噴き出し、やが
てその勢いも弱まり、大胡と娘がどうと倒れ込む。
一瞬の出来事であった。
狢が大狢に化け駆け寄った時には娘は大胡の甲冑の紐を切り、剥ぎ取り、
腹を裂いてその中に喰らいついていた。
その血の池から生き肝を囓り取り、娘は大胡の横に仰向けに倒れ込む。
狢は上から娘を覗き込む。娘の喉が咀嚼の動きを見せる。
ふうと弱いため息をつき、娘が片眼をうっすら開ける。もう片方の眼球は、
潰れたまま眼窩から垂れ下がっている。腹にも刀傷。
娘の瞳が動き、狢を捉える。
「・・・むじな・・・さま・・・」
娘が微笑む。木々に守られ、寝ている時のように安らかに微笑む。
「・・・わ・・・わたし・・・やっと・・・」
娘が苦しげに躰を曲げ、横向きになる。喉が動く。

つづく

984 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:29:54 ID:Tt1UarYt0
妖怪志願 第拾参話 その参

うぐぇげっっ。
娘は茶色い肝と黄色い液体をはき出した。もう目は閉じられている。
娘は時折躰をひくつかせ、まだその生命が終えていないことを見せていた
が、やがて静かになった。
狢は半分ほどになった娘の亡骸を抱きかかえ、棲処へと戻る。
狢が通った後、木々が狢と娘を隠すように身をよじらせて、道を塞ぐ。
狢は棲処に戻ると、何度も生きることの悲しさを味わった姫の眠っている
横に穴を掘り、娘を埋めた。
「一緒に生きてやればよかったかのう」
狢は木々に訊ねた。木々は何も答えなかった。
「一緒に生きてやればよかったかのう」
今度は自分に尋ねてみた。答は出なかった。
その晩、灰色狐が酒をもって訪ねてきた
名無しの狢は黙って飲んだ。灰色狐は黙って飲んだ。
そして、ふと灰色狐は壁を見つめ、ぽつりと言った。
「木が泣いてる」



985 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp:2007/06/01(金) 09:39:52 ID:Tt1UarYt0
一応、これで物語は終わりです
おつきあい頂きまして、有り難うございました

まぁ、別ににちゃんをやめるわけでも、オカ板から出て行く訳でもないんで、
どこぞのスレッドでまたお会いすることもあるでしょう

なんかね、日本に戻ってきてから、やたら忙しくて、なかなかにちゃんで遊ぶ
時間が取れません
よその板まで逝って莫迦やってるのが羨ましくもあります。なりたかねーけど

というわけで、私がレスすべきものがあったかもしれませんが、その点はご容赦
頂きたいと思います
私に何か訊きたいこと、言いたいことあれば、今後は避難所あるいは Web Site
の方にお願いします
リクには時間が許す限り応えていきたいと思いますが、前々から言っているように
創作物となれば、オカ板以外のところでやることとなると思います

ほいじゃ、また、いつかどこかで

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