弐千七年五月拾九日


自夜コン:
適当に合いの手入れてくれると
スレ削除防止になってうれp−なぁ

狢普コン:
ほんまやねぇ

ちゅうわけで、今日の分やね

前世物語 弐
826 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/19(土) 00:13:30 ID:/EsPeCEO0
 妖怪志願 第参話 その壱
 
 もう人間と関わるのは嫌だ。彼らの知恵、愛情、勤勉さ故に狢は彼らと関
 わり、彼らの傲慢さ、自己中心さ、愚鈍さ故に嫌な思いをさせられる。
 「姫さんよ。あんた、あの時、死ねてよかったなぁ」
 狢が今まで一番深く関わった人間。何度も生まれ変わり、その度に人とし
 て生きることの悲しさを味わった娘。そして、物の怪になった狢が初めて
 共に生きたいと思った相手。
 その姫は何日も何日も意識を取り戻すことなく、静かに消えていった。今
 は狢の棲処の傍らの土の下に眠っている。
 どうせ、あいつもそうなる。その境遇を気の毒に思わぬ訳ではなかったが、
 物の怪に関わってどうなる。いくら狢が助けたところで、所詮救われない。
 いや、物の怪に縋ってまでも救われないと判れば、その先はない。まだ、
 物の怪に縋れば何とかなるかも知れないと思って行き続けた方がましだ。
 そして、狢には悲しいつらい思い出が一つ増える。
 狢の鼻がひくひくと動く。
 「今日も来きおったか」
 狢は顔だけを持ち上げて山肌を見下ろす。微かに木々が揺れる。
 
 つづく

前世物語 弐
827 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/19(土) 00:16:01 ID:/EsPeCEO0
 妖怪志願 第参話 その弐
 
 木々の下、この山では異形のもの。人間の娘であるあいつが山を登ってく
 る。息をはずませ、顔を紅潮させ登ってくる気配が無視しようとしても狢
 に届く。
 狢は岩の上に伏せたまま、大狢へとその姿を変える。身の丈八尺もあろう
 か、全身から妖気が迸り、その形相は見るものを萎縮させる。とても先ほ
 どの愛らしい生き物と同一の生き物とは思えない。
 その娘は狢のこの姿しか知らない。
 初めて狢と娘が出会ったのはそう古いことではない。
 狢はその時、大狢の姿で人里を襲い、獲物を小脇に抱えて棲処へ戻るとこ
 ろだった。森を抜け、小川を渡ろうとしたところに娘がいた。
 年の頃は十六七であろうか、粗末な継ぎ接ぎの単衣をまとい、もう冷たく
 なった川に独り入り、小魚を捕る仕掛けを見に来ていた。
 人間の喰い頃はせいぜい十歳くらいまでだ。幼い個体は肉も軟らかく、適
 度な脂肪もあり、生でも煮ても焼いても美味い。十歳を超えると喰えない
 ことはないが、肉が固くなり、独特の臭みが出る。人間の味を覚えた熊等
 は、その臭みがいいと言うが、狢は好んで喰うことはない。
 
 つづく

前世物語 弐
829 :自夜 ZB070193.ppp.dion.ne.jp[]:2007/05/19(土) 00:19:06 ID:/EsPeCEO0
 妖怪志願 第参話 その参
 
 「他にも美味いもんはあるわい」
 だから、娘と初めて出会った時も、特に興味は覚えず、一瞥しただけで、
 山に消え入った。
 娘の方は、大狢を見た途端、体の自由が効かなくなり、大狢が消え去った
 後、ようやく仕掛けの上に尻餅をつき、せっかく捕れた小魚を逃がした。
 その小魚が娘とその家族にとってどれだけ貴重な食料であったか、そんな
 ことは、狢の知ったことではなかった。
 次に娘と出会ったのは、狢が行商人に化けて、酒類を仕入れに人里に行っ
 た時だ。もう村が見えてきた頃、村はずれの畦道で童子達が小石を投げつ
 けていたのがその娘だった。娘は唯俯き、耐えるように歩いてくる。人間
 に化けた狢に気付いた童子達は小石を投げるのを止め、悪態をついて散っ
 た。娘は俯いたまま狢の傍らを通り過ぎた。
 村に入り、顔見知りの百姓屋で酒を調達する際、狢は娘のことを訊ねた。
 「おめぇさんはぁ、よそもんだから知るまいがよぉ、あの娘の一族はぁ、
  この郷にとっちゃ疫病神なんだぁ」
 「そりゃまた、どういうわけだね」
 
 第四話につづく



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