弐千七年四月七日

前世物語 弐
290 :自夜[]:2007/04/07(土) 09:50:10 ID:C60te8Lp0
 >>287さん、>>289さん
 昨日(金曜日)は予告なしにお休みして済みませんでした
 お詫びというわけでもないですが、今日は二話分、うぷしますね
 二話目の第三十九話は、夕方くらいになるかもしれませんが

前世物語 弐
291 :自夜[]:2007/04/07(土) 09:52:04 ID:C60te8Lp0
 前世物語 第二部乱世編 第三十八話 転落 その一
 
 「拙者は侍の世界から足を洗った。二度と戻る気はない」
 「何があったか知らねぇけどよ、じゃぁ何で侍の格好してるんだい?何で
  侍の格好して、一文にもならない焼石のこと調べてるんだい?」
 「・・・それは・・・」
 「なぁ、悪いことは言わねぇって。千石でどうだ。千石っていやぁ、大身
  だ。侍大将だ。場合によってはもっと考えてもいい」
 刀を抜く音。臼井が後退りする。
 「あぁ、もぅ、あんた短気だなぁ。何が不満なのかね」
 洞窟の入り口におにちゃがちらりと見える。私は入り口に駆け寄り、長脇
 差しに手をかける。
 おにちゃは八相の構えで臼井に躙り寄る。臼井は微妙な間合いで後退する。
 「まず、話をしようや。なぁ。そんなに短気じゃ長生きできないぜ」
 おにちゃが白井に顔を向けたまま背後の私に囁く。
 「ちび、抜くな。逃げろ」
 そうか、私が洞窟から出れるよう、おにちゃは刀を抜いたのだ。
 一、二、私は心の中で数え、三で向きを変え走り出す。
 
 つづく

前世物語 弐
292 :自夜[]:2007/04/07(土) 09:56:03 ID:C60te8Lp0
 前世物語 第二部乱世編 第三十八話 転落 その二
 
 険しい山道。獣道。時に森を抜け、岩を登り、藪を突きる。
 小柄であることを幸いに、私は一気に駆け抜ける。後ろからおにちゃが追っ
 てくる気配はあるが、徐々に離れる。そう。今、臼井と戦う必要はない。
 ふと寒気を感じ、立ち止まる。臼井の言うように風邪でも引いたか?
 そんな筈はない。氷の洞窟にいたのは僅かだし、秋空に野宿が続いたとは
 言え、ちゃんと塒をこしらえて寝た。熱もない。だが、この脊椎からくる
 寒気は何だろう。
 私は頭を振る。大丈夫。すっきりしている。
 おにちゃが近づく気配。臼井の気配はしない。私は再び走り出す。
 岩肌の細い道をましらのように駆け抜け、眼前に人影を見る。
 両の腕を広げ、通せんぼするような透き通った白い影、冷たい目。
 私は足を踏み外す。
 「かかちゃ」
 夢の中の母の冷たい顔。私は勢いで、肩を岩にぶつけ、宙に舞う。
 視界をよぎる小道に母の姿はない。一転して谷底を見る。再び視界に空。
 そして、私は岩の上に背中から落ちる。背負った大刀が折れる。
 
 つづく

前世物語 弐
293 :自夜[]:2007/04/07(土) 09:58:57 ID:C60te8Lp0
 前世物語 第二部乱世編 第三十八話 転落 その三
 
 全身が硬直して自ら動けない。悲鳴を上げようとし、口中に鉄の味が広が
 る。血が口から溢れ、耳朶を濡らす。
 霞がかかった視界に遠く先刻の小道。甲冑侍が二人、谷を覗き込む。
 そこに抜刀したおにちゃが斬りかかる。たちまち二人を斬り伏せ、おにちゃ
 が谷底を覗く。
 「ちびーぃ」
 大丈夫、私はまだ生きている。口が動かない。
 「ちびーぃ」
 おにちゃが駆けるように降りてくる。視界がぐらりと揺れ、遠くの山並み
 がよぎると谷底が写る。私は谷底に落ちている。
 「ちびーぃ」
 遠ざかるおにちゃの声。
 幾度か躰を何処かにぶつけ、私は冷たい水に落ちる。
 痛くはない。冷たくもない。このまま死ぬのだろうか。それでもいい。死
 ぬのは思ったより楽なことかも知れない。
 そして、私は何も考えられなくなった。
 
 第三十九話へつづく

前世物語 弐
294 :自夜[]:2007/04/07(土) 10:04:49 ID:C60te8Lp0
 >>285さん
 あなたのような口調で書き込みなさる方が、いままでに何人もいましたが、私が真面目に
 レスをしても、まともな会話になったためしがありません
 あなたがそうとはいいませんが、今回は黙殺致します
 
 よろしければ、どういうのが「自夜語」なのかを具体的に指摘の上、再度書き込んで下さい

【百鬼】妖怪達の集うスレ【夜行】
420 :[]:2007/04/07(土) 10:25:09 ID:C60te8Lp0
 お仲間が又増えてきて、嬉しいのー
 
 >飛縁魔はん
 男を食ったり、血を吸ったりっちゅう妖怪さんやのう、たしか
 ちゅーことは、やっぱり、おなご?

前世物語 弐
296 :自夜[]:2007/04/07(土) 11:08:58 ID:C60te8Lp0
 >>295さん
 誰かの名誉を傷つけるとか、公共の福祉に反するとかそういうのならともかく、
 人の書き方を制限するような発言を至極真っ当というあなたが私には理解できません
 
 ご要望のとおり直球で返します。以後、同様の意見の書き込みは私は黙殺させて頂きます

前世物語 弐
298 :自夜[]:2007/04/07(土) 17:31:39 ID:C60te8Lp0
 >>297さん
 学術用語なんてのは学会が違えば違ったり、重複していたり、
 また、研究者によっても違うことは珍しい話ではなく、
 学会誌の投稿規定に当学会の用語集の用語を使用することと書いておきながら、
 その投稿規定に用語集に反した用語を使っている場合すらあります
 私自身は学会は三つにしか所属しておりませんが、似たような分野でありながら
 三つの学会で用語が異なる場合も多く、同一主題の論文でも学会によって異なる用語
 で書くこともよくあります(その時の主査が誰かによっても異なったりします)
 そのような事実も認識せず、さも科学者の世界が完璧であるように思いこんだあげく、
 具体的に私の書き込みのどこが貶めているかも指摘せずに言論封殺にも繋がり
 かねない意見のどこに正当性があるのでしょうね
 
 ちょっと変化球でしたかね。直球で言うと
 
 知らんくせに偉そうなこと言うな
 
 になるんですが、こう書くと私が言論封殺してしまいますので、書きません

前世物語 弐
299 :自夜[]:2007/04/07(土) 18:07:03 ID:C60te8Lp0
 前世物語 第二部乱世編 第三十九話 旅立 その一
 
 胸が重い。息を吸うと締め付けられる。息を吐くと、軋む。
 ここは何処だろう。今、何時だろう。
 そっと目を開く。霞がかかったままの視界。天井張りのない屋根が灯を受
 けてゆらゆら揺れる。
 「まーだぁ、うごかんほーがーえぇ」
 誰?聞いたことがある声。口に棒のようなものが触れる。
 「かゆじるじゃぁ。なんばんとらいのとうをいれとー。これくーときゃー
  はらはへーても、しぬこたーねー」
 甘いがしみる。
 「ぬしはうんがえーのー。かたなーせおーとらんかったらー、せきついや
  られーてー、いまごろはー、わしのきょーでもきーちょーでよー」
 思い出してきた。私は崖から落ちた。
 「こっちのごじんはー、うんがねーのー。ずがいをーやられーちょー」
 おにちゃもいるのか?私は起きあがろうとして、呻いた。
 「あばらやられちょーけーのー、うごきとーても、うごけんでーよー」
 目だけを動かす。半分以上布が巻かれたおにちゃの顔が霞みの先にあった。
 
 つづく

前世物語 弐
300 :自夜[]:2007/04/07(土) 18:11:06 ID:C60te8Lp0
 前世物語 第二部乱世編 第三十九話 旅立 その二
 
 幾日か経って、ようやく私は動けるようになる。
 胸の粘土で固めたあて板はまだ外せない。
 おにちゃの意識は戻らない。熱がひどい。私は布を水に浸し、おにちゃの
 躰を冷やす。
 坊主はおにちゃの頭蓋が割れて、脳髄が傷ついているので、絶対に頭を動
 かすなと言う。
 口に糖入り粥を含ませると飲み込む。坊主はまだ望みがあるという。
 「おきてーはおらんがーのー、まだのーずいはーいきとーる」
 坊主は時々出かけ、戻ってくる。
 私達のことは何も聞かない。自分のことも何も話さない。
 気休めは言わない。いつ死んでもおかしくない。坊主はそういう。
 幾度も死にかけたおにちゃだ。今度も大丈夫だ。何日も念じ続ける。
 ある朝、おにちゃがうめき声を立てる。ここにきて初めて。
 おにちゃの枕元で見ていると、おにちゃの目がゆっくり開く。
 「ち・・・び・・・、かゆ・・・か・・・」
 「はい」
 
 つづく

前世物語 弐
301 :自夜[]:2007/04/07(土) 18:15:09 ID:C60te8Lp0
 前世物語 第二部乱世編 第三十九話 旅立 その三
 
 「無事・・・で・・・よか・・・た」
 「はい」
 涙が出そうになるのを堪えて、私はおにちゃに返事する。
 「ちび・・・」
 「はい」
 「こを・・・う・・・め・・・ちびの・・・くにを・・・つく・・・れ」
 「はい」
 坊主がおにちゃを覗き込む。
 「ぼうず・・か・・・ぬしを・・・うらま・・・ん・・・酒を・・・」
 坊主は黙って立ち上がり、瓢箪を持ってきて、酒をおにちゃに含ませる。
 ふぅ、と大きく息を吐くと、おにちゃは目を閉じた。
 これだけ喋れたんだ。おにちゃの脳髄はまた動き始めたんだ。もう大丈夫
 だ。その時はそう思った。
 「かな・・・しみ・・・の・・・ない・・・・かい・・・・・か・・・」
 おにちゃの顔色から赤みが消え、やがて青白くなり、冷たくなっていく。
 おにちゃの気配が静かに消え、私は心を閉ざした。
 
 第四十話へつづく

前世物語 弐
305 :自夜[]:2007/04/07(土) 19:49:10 ID:C60te8Lp0
 >>304さん
 こぴぺして、一行一行原文と対比させて、ようやく読むことが出来ました
 
 もう、ギャルには戻れないんだと、しみじみと思い知らされました(遠い目・・・)

前世物語 弐
306 :自夜[]:2007/04/07(土) 20:08:23 ID:C60te8Lp0
 なるほど、変換してくれるサイトさんもあるんですね
 それでは、ご要望が強ければ、今後幽霊談義の方はギャル語でお届けしましょうかね(嘘)
 
 それはともかく、明日(日曜日)はお休みします。それまで、ごゆるりと、ご歓談ください
 では、また来週


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